再会
さて、体の小ささのせいで操縦こそできなかったものの音速飛行を体験することができて上機嫌な俺は、スキップするくらいの勢いで家に帰った。
「たっだいま~~~♪…………………………ん?」
玄関のドアを開けると、近くにたっていたマリアが俺をじっと見つめてきた。
ど、どうしたよ?
「おねぇちゃん、は、なん、でわたし、を、いじめ、ないの?」
――――――――え?
「えーと、マリア?ごめん。ちょっと意味がよく?」
俺は困惑しながら聞き返す。どういうことだってばよ。
「おねぇちゃん、は、わたし、をいじめる。そう、なってる」
「………………!」
その言葉に俺は驚愕する。それは、この世界の、オリジナル。
前世にあった、タスマニアンラプソディーの、シナリオ。
その中でリアーナ=セレスは、目の前にいる妹に対して、俺がこいつにしたいと、ずっと思っていた接し方
―――――つまり、帰るなりハグして頭を撫でてやって、休みの日には手料理やらなにやら食わせてやったりと愛情を注いで、本当の妹のように、下手すればそれよりも慈しむような接し方とは真逆の行動を取る。
彼女が、マリアが言ってるのはそれだ。
それ以外に思い当たらない。
なぜ、こいつが、かの乙女ゲームのシナリオを知っているのか、その理由はただひとつ。
「マリア………お前、同類、か?俺の………」
こいつが転生者だから、それだけ。
俺の問いに、マリアはこくんと頷く
「わたしは、この世界に転生してきた、たぶん、あなたもだと、おもってた。あなた、の、性格や行動は、リアーナじゃ、ない。」
なるほどね……………。
確かに俺はこの世界でロールプレイなんぞ考えず自由にやってきた。ゲームのリアーナを知るものからすれば、俺はイレギュラー過ぎるだろうよ。
……………まぁ、それはそれとして、こいつ
「…………というか、今さらなんだがよ。俺はどーもお前のしゃべり方に見覚えが、ある。」
慣れ親しんだ舌ったらずでたどたどしい喋り。
戦争で親を失い、難民として、孤児として生きてきた少女。
戦地で出会い、俺の家族になった、そいつ。
マリアが転生者と知って急に脳裏に浮かんだ、その可能性。
「お前の兄は、…………国連の兵士じゃなかったか?テロリストに撃たれて、死んだ。」
そいつなら俺が死んだことも、どうやって死んだかも知っている。
案の定、俺の問いに目の前の女の子は驚愕の表情を溢す。
「なんで、あなたが、それ、をーーーーーーーっ」
あぁ、やっぱり。
やっぱり、お前はこっちでも変わらないな。いろいろと。
「俺が、その兄だからだよ。俺が、お前を守るって言ってたのに先に逝っちまったお前の糞兄貴だ。」
苦笑して、過去の約束を思い出して、言った。何百何千と、そいつに見せた顔。
俺が任務のせいで約束を破ったり、言葉のあやで拗ねさせてしまったり、そいつに申し訳なくなったときに見せていた表情。
俺の、前世の義妹ならそれを見ただけで俺が俺だと、確信できるであろう顔。
それを見て、少しの間呆けたかおをして、彼女は、マリアは、愛しい愛しい、世界を跨いで着いてきてくれた俺の妹は――――――――
「お にぃ―――――― ちゃぁんっっ!」
その大きな目に涙を滲ませて、俺の胸に飛び込んできた。
「うっああああ!うわぁぁぁぁぁん。グスッ、グッ、ふ、ぐぅ…………おにっおにいちゃん!あいたかった!ずっと!あいたかった!」
俺の慎ましい胸にグリグリと顔を押し付けて、大音声でマリアは泣く。
あぁ、最低だな、俺は。こいつを泣かせちまった。
一年だ。こいつが来てから一年。
俺はこいつを構ってやれなかった。
マリアが怖がるといけないとかいってる場合じゃなかった。
俺は、こいつに対してもっと踏み込むべきだった。
そうすれば
少しでもこいつを待たせなくて済んだのに。
「ただいま、俺の妹。
不出来な兄でごめんよ。今、帰った。」
離すものか、もう、二度と
―――――――過たない。
強い思いを込めて、
俺の胸に押し付けられる頭を撫でて、
その髪に顔を埋めて、
俺は妹を力一杯抱き締めた。