猛き翼
さて、アクチュエイターとエンジン、航空機の基本となるこの二つを製作しはじめて、約一年が経過したある日、俺が9歳になって少ししてから
俺は、空を飛んでいた。
音を置き去りにして
「っっふぅぅーーー!」
加速によって凄まじいGが体を襲う。腹に力を入れて、息を吐き出す。俗に言う対G呼吸をしながら、しっかり前を見つめる。
それでも、血液が一点に集中し流れがスムーズにいかなくなる。
血が頭に昇って視界が赤っぽくなったり、逆に血が脚に集中して脳が貧血を起こして目の前が黒っぽくなったり、安定しなくなる。
これは…………ヤバイな!
今俺はオヤジたちが作り上げた超音速実験機、みんなでXP―49と名付けたそれに乗っていた。
こいつは複座型で、パイロットの後ろにもう一人乗せることができる。
今回操縦席に乗りテストパイロットをつとめるオヤジは、後部座席に搭乗する俺に頓着せずにフルスロットルで機体をかっ飛ばす。今は、二人とも軽口を叩く余裕はない。恐らくオヤジも俺と同じ症状が出ているだろう。
XPというのは試作機ということを表しており、数字の49というのはこいつが最初の試作機から49機目ということを表している。
これ以前のやつはことごとく地面にキスして果てちまった。
プロトタイプを作る前に脱出用座席を開発し、さんざ地上で試験したお陰もあり、テストパイロットをつとめた職人たちは軽い怪我くらいですんだので、そこはまだ良かったが……………。
とはいえ、これで49機目、かなり快調に飛んでるし、そろそろ、いいかげん、フィニッシュといきたい。
XP―49は機体後部のエンジンからジェット噴流を吐き出し続ける。
こいつの形状は丸みを帯びたコクピットを覆うガラス、そしてコクピットの前部のガラス。基本的にはこの二つの部品で別れているそこを一体成形し、胴体はプレンデットウィングボディとよばれる、翼と胴体が段差のない滑らかな曲線で繋がれた構造をしている。
その見た目は、前世地球のF16戦闘機に酷似していた。
まぁ、あれだ、F16みたいなのはガワだけでレーダーもミサイルシステムもミサイル本体も、いかんせんそれを動かすプログラムができてないから、武装は機体に埋め込まれた機関砲のみなんだが。
一応ICチップとそいつを配線で繋げまくったコンピュータもできて、かなりスペックもいいとこまで改良したんだけどなぁ。プログラミングができるやつがいないんだよ。
あ、ちなみに機関砲だが、20㎜の砲身を束ねた、バルカンカノンと呼ばれるやつだ。
電動モーターで銃身を回し、秒間100発を発射できる。
モーターはバッテリーと電磁石、そして領の鉱山からとれた磁石を組み合わせればソッコーでできた。
…………っとオヤジ、ヤバイぞ燃料がレッドゾーンだ。
ジェット戦闘機が音を越える飛行速度を出すさい、基本的にはアフターバーナーと呼ばれる装置を使う。
エンジン内部の、燃料を燃やす部分に追加で燃料を吹き込み、莫大な出力増加を産み出す機能だ。
それはやすやすと機体を音の彼方にまで持っていくかわりに、20分と持たずに燃料を食いつくす。
「ABオフ、RTB」
通信機はなく、聞いている人間はいないと言うのに、ついつい呟いてしまう。
今この機体を操っているオヤジは、俺の呟きを聞いていた訳じゃないだろうが機体のアフターバーナーを切ると、操縦菅を倒した。
操縦者の操作に応えたXP―49はその身体をロールさせる。戦闘機というのは、このロールと機首を上下させる動きによって戦闘機動やらの複雑な飛行を実現する。
新機構をエルロンのコントロールに使用する俺らの機体はキビキビと旋回して一瞬で180°ターンをキメる、
…………おいおいマジか、下手をすれば地球のF16戦闘機よりレスポンスはいいかもしらんぞこりゃあ。
俺がそんな驚きを覚える間にも、オヤジはボタンを押して、機体からランデイングギアを引き出した。
「これで、ヘリと固定翼機の雛型は完成だな。」
「あぁ、」
地上に降りて、無事に試験を終わらせた俺とオヤジは目の前の鉄の塊を見上げる。
そこに鎮座するのは、先程まで音速飛行をキメていたにもかかわらずピカピカな姿を見せるXP―49と、ついこの間無事に試験飛行を終わらせた、ブラックホークと呼ばれる傑作ヘリと酷似した外見を持つヘリコプター。
オヤジは自らが開発に関り試験飛行を行ったXP―49を特に気に入ったようで、熱のこもった眼差しを向けている。
スペックだが、どちらも電子機器以外はそれぞれオリジナルと同じか一部では越える。
ヘリの方は、XP―49のアクチュエイターの機構を応用してローターを傾け、前進後退、左右へのスライドを、|テイルトローター《尻尾についてる小さいローター》の出力をコントロールして旋回。メインのローターの出力制御で上昇下降を行い機体を制御する。
どちらも素材は鉱山から取れたチタニウムと各種金属を組合わせ、熱処理によって作り上げたβチタン合金を採用している。
ちなみに、この素材ができて真っ先にオヤジが作ったのは、ロングソードだった。
まぁ、本来はこの人、剣とか作ってた人だしな。
俺も製法を教えるのと引き換えに刀とカランビットナイフを作ってもらった。チタン合金の刀ですよ、ロマンありますね。
そしてたぶん刀はあんまり使わない、観賞用だ。
と、いうわけで、とうとう我が辺境伯領にも航空戦力がやって来ました。
この世界では、ワイバーンに乗った騎士とかがメインの航空戦力であり、大きな領で一個大隊30騎ほどをそろえている。大国だと、国全体で100騎を越えたりもする。ウチの国は、全部で190騎を有し、周辺国を圧倒する航空戦力だ。
だが、その速度や航続距離は戦闘機に、運動性はヘリに大きく突き放されている。
現代兵器、その性能は結構なアドバンテージだ。
それはいい。
だが、俺は肩を落としていた。
「兵員が……………足りない…………調子に乗って兵器ばっか作りすぎた……………。」
阿呆である、えぇ、わかってますよこんちきしょう。
しゃあない。領民から志願を募ろう
ついでに、前々から暖めてた計画も実行に移すか。
そうと決まれば実行あるのみ、俺は笑みを顔に張り付けて領主館への帰路を急いだ。
戦闘機に詳しい人なら相当の違和感あるかと思いますがそこ伏線です。