馬と鉄と火
濡れ紙を叩きつけたかのような音がそこかしこから聞こえる。
奇襲を仕掛けた傭兵たちは、機動力と突破力に上回る敵に突撃を受け止められ、迂回した騎馬による横撃を受けていた。
「斬攪されてんじゃねぇか、まずいなー。」
「数もそこまで優越していない、個々の質もあちらが上。いやぁ、負け戦だね。だが、だからこそ英雄は輝くと言うものだ、喜びたまえよ。」
リアーナには、別に英雄願望があるわけではない。
むしろ―――ただ一人、ワンオフの天才による場当たり的な閃きと努力などでできることはたかが知れているとすら思う。
実際、第二次大戦では高名な英雄が数多くいても枢軸が負けたではないか。
だからこそ、兵士一人一人の装備と訓練、“凡人“の底上げが必要なのだ、今更遅いが。
「こっから勝利は普通に無理ゲー。生き延びる、くらいだな、俺とあんたで。」
駆けてくる騎馬を前に出て、すれ違うように斬り払いつつちらりと空を見上げる。
「にしては何かに期待しているようじゃあないか。なにか、来るんだろう?よろしい、それまでもたせてみせようじゃぁないか。」
目敏くそれを見ていた相方がくふふと笑った。
彼女が振るうのは腰に差した刀ではなく――――身の丈越えるほどの大太刀
かち合う前に引きずり出してきたそいつは狂気的な切れ味でもって二人三人纏めて肉塊にする
周囲に遮蔽のない平地ではともかくリーチの長い方が有利になる、ましてや弓と騎馬で相手に追い付かせずに一方的に矢を降らせる敵相手に戦果を重ねることがどれだけ狂気的か―――――。
毒を塗り込めた矢が二本三本と飛んでくるが意に介さず回避し、切り払い、しびれを切らして突っ込んできた敵を馬ごと両断する。
戦場での乱戦に相応しい、太刀を棒のごとく遮二無二振り回すかのような太刀筋は華麗さとは程遠く野蛮で、獣を思わせる。
「ははっ、負けてらんねぇ。」
俺も負けじと、相手が投げ込んできた火薬壺を蹴り返して、炸裂音で馬が立ち止まり轡を上げたところに突っ込んで切る。
馬の足を切り払って落とせば、落馬の衝撃で大きな隙を晒す
そんな獲物を、この女が見逃すはずは――――ないだろ?
「っっがぁぁぁぁっ!!!」
猿叫、いやウォークライというか
叫びながら突っ込んできた大太刀が呻く敵兵をまとめて薙ぎ払い、轢き潰す。
ちらりと横目をやれば、この合戦の戦犯…………攻めこむために進軍してくる騎馬相手に歩兵で奇襲横撃なんていう馬鹿げた絵図を描いた傭兵の指揮官が首になっているところだった。
どうやらツケはさっそく取り立てられたらしい。
「まともに考えて、馬防柵配置して待ち構えてそこに矢を降らせるのが適解だったよなぁ、これ。」
「傭兵に一夜城を建てるほどの練度と工作能力はないさ。」
あぁ、なるほど。
そうせざるをえなかった、というわけか。
「それを言うなら奇襲も無理だったろ、だから合戦前こそが大事なんだ。実際に槍を合わせたときの選択枝―――手札が限られちまうから。」
飛んできた弓矢をかわしながら会話をする。
少しでもかすったら毒でジエンドだ、動きが鈍くなったところをハリネズミにされるか馬上からの一太刀で両断されて死ぬ。
「おや、あれは」
「来たな、粘り勝ちだ。混乱に乗じて離脱するぞ。」
本来なら鍛練のためにこういう手は使いたくなかったが仕方ない。
良い師匠のアテも見つけたし、状況がクソゲーすぎる。ここを抜かれたら国が滅びかねんってのもあるし解禁しちまおう。
「騎兵隊の到着だ」
推奨BGMはワルキューレの騎行
雲霞のごとく押し寄せるブラックホークとアパッチガーディアンが、弾雨を降らせた。
「鉄火の方舟、といったところだろうかね。君の仕込みかい?素晴らしいじゃあないか。」
上空を悠々と泳ぐ彼らに弓では対処できるはずもねぇ。
馬ごとミンチにされた騎馬兵たちは大慌てで轡を返して逃げていった。
「ランチェスターの法則、数で勝る方が勝つ―――正確には前線にて稼働させられる数が。つっても、それには但し書きがつく。」
すなわち
「近代と前近代の差は、数の優越すらひっくり返す。ましてや航空戦力によって強みである機動力と突破力を上回られた軍なんざ烏合以下。」
ぶわりとひろがる爆薬の臭いにまとわりつかれながら戦場を駆け抜ける。
クソッタレな鉄火場からエスケープだエスケープ
「俺を殺したきゃ空母でも持ってきな、noob」
リアルが忙しすぎて遅れました、申し訳ない。