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敵見ゆ

大陸中部、森林地帯。

見渡す限りに生い茂る大樹を縫うように三台の車両が走っていた。

―――――NXT360

ハンヴィーを開発した企業が繰り出した最新モデルの汎用車両。

重装甲化に加え、車内からリモート操作できる車載機銃、デジタルビデオディスプレイ代替による後部ガラスの撤廃など、生存性を高めたものになっている。

リアーナたちの軍ではヴァランクスJLTVの後継として投入された。

特殊部隊から逐次更新が開始されている新兵器であった。


「いやぁ、死ぬかと思ったよ。」


「………良く言う。あれほど余裕綽々で合流地点に顔を出しておいて。」


ガタガタと揺れる車内で小銃を構えた男とつけ髭を剥がす女が軽口を叩き会う。


「そんなことはないって、けっこう危ない場面もあったんだよ?」


「どうだかな…………………っ、おいっ!!」


ある種和やかに会話していた彼らの空気が一瞬で引き締まる。

警告の怒号が発せられた瞬間にはハンドルは切られ、それ(・・)からの射線を切るように大岩に滑り込んでいた。


ガガガガッ!!ガリガリガリッ!!


アイスピックで氷を砕いたような―――――それを何倍にも喧しくした大音声が周囲に響く。

敵弾が大岩を削り砕く音だ。

その合間にはひっきりなしに一回り大きな爆音…………50口径の機関銃の銃声が聞こえてきている。


「敵だ!!識別不能の車両に乗っている!!!」


「M2ブローニングが見えた、護衛は応射しろ!!」


NXT二台の天井に設置された重機関銃が車内からのリモート操作を受けて動き出す。

機銃手以外の乗員は即座に降車し、車体を盾にHK418によって牽制射撃、数瞬もかからず行われたそれらは彼らの精強さを物語る。


火力はあちらの方が上だ。


その場にいた兵士たち皆が心中でそう毒づく。

彼らが使うスチールコアの6.8㎜SPC弾に対して、相手が使っているのは少なくともフルサイズの7.62㎜ap弾。火力―――エネルギー量で大きく水をあけられていた。


「敵、部隊の一部を分離して迂回!」


「横腹を食い破られるぞ。マークスマン、足を止めさせろ。」


命令から二秒ほどして、選抜射手(マークスマン)が使うH&K、G28の銃声が立て続けに響く。


「ビンゴ。」


潰れたトマトのような頭になった先頭の兵士を見て、敵別働隊が一斉に遮蔽に飛び込んだ。


「足は止めることができた……………が、反応が早い。

二人目三人目はいけそうにないな。離脱はできそうか?」


「いやー、無理じゃない?前方に倒木。奥には鉄条網も張られてるみたいだし。」


「撤退ルートも筒抜け、我々は蛸壷に入り込んだタコというわけか、クソッタレ。内通者でも居たのか?」


タブレット端末を見ながらケラケラ笑う女と空になったマガジンを新しいものと取りかえる仏頂面の男がそんなやり取りをかわす。


レ イ ブ ン(小型無人偵察機)で敵の位置は把握してる。航空支援要請は出したからしばらくすれば来るはず――――――まずいっ、みんな伏せて!!!」


怒声が響き渡り、反応した兵士たちが地面にうつ伏せに倒れこむ。


直後、大地が揺れた。

爆煙と衝撃波、飛散する石や金属片が彼らを切り刻む。

四人が重傷を負い、一人が頭に当たった石で意識を失った。


「迫撃砲……!こんなものまで持ち出してくるのか………!」


「あっちも小型の無人機かなにかでこっちの位置を把握してるっぽいねー、怪我人も出たし早いとこ突破しないと不味いよ。」


ジワジワと迫ってくる“詰み“

初めての格上との戦闘はリアーナの兵たちを徐々に追い詰めていた。



そんな戦場から遠く


地球で言うところのオセアニアにある大陸のひとつに入念な擬装と電子的隠蔽を重ねた大規模基地が広がっていた。

大陸中央の地下基地と違い、こちらにはSu35やSu57といった戦闘機を始めとする航空機が群れを為していた。


「威力偵察の成果はどうかな?」


「彼我ともに損害軽微。どちらも殲滅ははなから考えていないというのも大きいであろうが…………。」


リアーナたちの衛生による監視すら欺く超技術の結晶。その内部にある指令室にてヘルメスとアルトリアがモニター越しにリアーナたちの戦力を観察していた。


「出歯亀なんて趣味が悪いね……………。」


そういって後ろから放たれたアリスの嫌味にも肩をすくめて返す二人。皮肉とブラックジョークを国是としたようなブリタニアの王とその最大の協力者だけあってアリス程度の攻撃ではその分厚い顔面装甲を貫くには足りなかった。


「情報収集は基本のきだよ。それを下心と勘違いするなんて、君こそムッツリなんじゃない?」


「傭兵の癖にこの程度でごちゃごちゃ抜かすとは、そんなだから我らにからめとられてこっち側につくはめになるんじゃ。あぁ、それとも皮肉か嫌味かの?下手すぎて気づかんかったわ。」


そんな彼女は二人が放った返し技に舌打ちをして沈黙、この分野に置いての序列が明確にわかる一幕だった。





―――――――――遊牧民の軍の進行路上、接敵ポイントに定められたそこでリアーナたちの部隊は小休止をとっていた。


「やぁ、貴君。」


「ん?」


岩にもたれかかり、目をつむって体を休めていた彼女に声がかかる。

筋張ったような、ひどく硬質な女の声だった。


「刀を差しているなんて珍しいじゃあないか。顔立ちはこちらの人間なのに、どこで手に入れたのかね?鍛冶師を紹介してほしいものだ。」


なんとも感情の読みにくい表情で見下ろす、まっすぐな黒髪と濁りの浮いた黒目の女を一瞥。リアーナはあんたには似合わないからやめとけとそっけなく突っぱねた。

今腰に差しているのは開発部が打ち上げた刀だ。確かに製法は本物に似せられるだけ似せているが、素材は砂鉄から作られた玉鋼ではなく竜の角。そのうえ、この世界で実際の殺し合いに使うような日本刀を打ち続けてきた本場の職人に比べればその出来映えは一歩歩譲るだろう。

彼女としてもそこらの現代刀に劣っているなどとは思わないが、安綱や正宗、大包平などの本物の業物と打ち合えば負ける。


だから


「あんたほどの使える(・・・)人の腰にあっていいような大層なもんじゃないよ。あまりうちの子たちの仕事を悪くは言いたくないけどな。」


「―――――――わかるのかね。」


すぅ、と

黒髪の女の口元が三日月に引かれて


「ほとんど音を立てない摺り足に鉄柱を入れたみてぇな正中の通った姿勢、なにより落としきれてねぇ血錆の匂い。こんだけ揃ってりゃヤベーやつだってくらいはわかるさ。」


そう、リアーナがジロリと半目を向けるととうたうクスクスと声を漏らし始めた。


「そういうそちらも、狩り、殺した数だけは一人前じゃあないか…………………ただ、あまり成ってはいない(・・・・・・・)な。」


「うっせ。俺は戦士じゃなくて兵士なんだよ。」


着衣の上から筋肉の付きかたを見定め、リアーナの未熟を指摘する。


「貴君、よければ私が教えてやろう。」


「…………なにを企んでる?」


「失敬だなぁ、ただ、自らが組み上げてきたものが失われることが怖いだけさ。だから君に繋いで欲しい。」


繋ぐ………か。


「食客としてうちに来てくれるなら、頼む。」


「あぁ、任されたとも。」


俺も、あいつらになにかを残し繋いでいけるだろうか。

壊すことしか能のない、俺が。























これまでの文章を整理し、改稿しました。

9月1日、ブリタニアの“ナイト“戦闘機の設定を変更し、物語を少し変えました。これ以外には話の大筋は変更有りません。


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