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人道と戦争の狭間

8月9日改稿

人物名の誤記、誤字などを修正。

台詞への加筆。

タスマニア沿岸部、漁獲量において国内最大を誇る漁場を擁するその町は現在喧騒に包まれていた。

普段から活気のある大通りは、しかし、平和な日常とはほど遠い状況であった。

上空を竜騎兵が飛び回り避難の指示を出す

地上ではパニックになった住人が逃げ惑い、転げた老人が助けを呼び、そこかしこで親とはぐれた子供の泣き声が聞こえてくる。

それを引き起こしているのは雲霞のごとく押し寄せるブリタニア海軍の艦載機―――――ナイトF・2戦闘機である。


「また1騎やられた!!」


「運動性ではこちらが勝っているんだ!臆するな!!」


複葉機とワイバーン

1対1の巴戦ではワイバーンに分がある

運動能力においては、いかにかのスピットファイアと同等の性能を持つナイト戦闘機とはいえ、相手は生物である。

羽や尾を自在に操る彼らと固定翼機では比べるのも烏滸がましい


だが


「速い!!それに、数が………多い!!」


ワイバーンの時速300キロ前後に対してナイトF2の最高時速は650キロ…………一撃離脱に徹されては勝ち目などあるはずもない。

そのうえ、ナイト戦闘機は工業製品であり、物量が凄まじい。

1機を落とそうと食らいつくと、5機が後ろから銃撃をくわえてくるような状態ではいかに運動性能で優越していようとタスマニア側の不利は明白。


そうこうしているうちに、とうとう半数以上の戦闘機が防御網を突破し市街地に突入していった


「まず――――――!!!」


思わず竜騎兵部隊の誰かが叫んだ、そのとき


目の前で機銃掃射の体制に移ったブリタニア機たちが――――爆散した


「…………は?」


This is(こちら) Wing309(309戦闘航空団) battle(戦闘) group() forth(第4) squadron(小隊)Kinetic(キネティック隊)Came to (救援のため)the help(参上した。).」


呆けるワイバーン乗りたち、そこに飛来するのは―――――――破壊と蹂躙の概念を体現したかのような異形の飛翔体

つい最近国が同盟を結んだと噂される“貴族令嬢“

その、尖兵。

F16を多数有し、空からの侵攻をはね除ける壁となるそれは


リアーナ私兵団第309戦闘航空団第4小隊、通称「キネティック隊」


現代の叡知(新鋭戦闘機)をその身に纏った、空の防人達である。


All() squadron() engage(交戦開始).」


「Copy」


わざと

そう、わざとだ。

街の住人や守備隊にリアーナの有する武力への畏れを植え付けるため

そして自分達がタスマニアの町を助けたと印象付けさせるため、わざと街が攻撃されるギリギリで、近距離での戦闘が命令されている。

被我の距離は数キロほどしかなく、この距離でのミサイルはまさしく必中

ミサイルという兵器は発射直後のみロケットによって速度を稼ぎ、後は慣性によって敵に向かっていく。

当然、遠ければ遠いほどロケットによって得られた運動エネルギーを消費し、速度は低下、急激な機動も不可能になる。

だが、たった数キロであれば彼らのミサイル、AIM9X(サイドワインダー)は発射後180度旋回すら可能なほどの運動性能を如何なく発揮する。


「fox2」


「fox2」


オフボアサイト射撃――――――要は“パイロットが視線を敵機に向けたらロックオンできる“

ヘルメットに備えられた照準装置と最新型サイドワインダーの組み合わせは従来の戦闘機ではあり得ない、機体真横及び斜め後方への射撃を可能とする。

いかに複葉機の運動性がF16を凌駕しているとしても、こんなものを持ち出されては敵わない。

横をすり抜けたと思ったらミサイルが着弾し、後ろを取ったと喜んだら自機が撃墜されているのだ

陸地から遠く離れた沖合では、別働隊がこちらと同じように直掩の騎士(ナイト)を蹴散らし、彼らの止まり木たる空母機動艦隊を悉く沈めているだろう。


悪夢

まさしく悪夢。

「ナイト」たちを嘲笑うかのように、悪夢から這い出てきたバケモノ(F16)は空を蹂躙(・・)した。




―――――そして、同時刻


「もう少しで帰れるからな、ルー。じいさんとこで良い子にしててくれ。………愛してるぞ。」


レヴィアタンから発艦したヘリ、それに乗るリアーナは微笑を浮かべながら通信端末を耳に当てていた

つい最近、イタリカで出会い結局引き取ることとなった少女を思い、蕩けた笑みを浮かべて。


「じいさん……………南部辺境伯どのですか?」


同乗するAGCの隊長がそう声をかけると彼女はおもむろに頷く


「そ、俺の父さん。先に帰ったからこっち来てる間はルーを預けてんの。

本来ならずっと一緒に居てやれるのがベストなんだが……………そのために色々我慢してストレス溜めるよりはこうやって頼れる人間に頼りつつ自分の趣味(・・)の時間も確保するほうがマシ。そうすりゃあルーの前ではいつでもニコニコ上機嫌な“母親の顔“ができる。子供ってのは、親が不機嫌だとすぐ気づくし心が病むもんだ、そうなったらやでしょ?」


「趣味が戦争ってのもまたイカれた話ですけど…………案外考えてるんですね。」


失敬な、と唇を尖らせるリアーナであるが、実際周りからすれば彼女が子供を育てるビジョンは浮かばないのが本音だろう。

だが、彼女は前世でも()地で拾っ()た子()を妹として育てた経験があるのだ、ある程度母性………父性かもしれないが、親心のようなものがあるのは不思議ではないだろう。


「とまぁそんなん言っても、そんなもんは所詮言い訳(・・・)、ガキの方からすりゃあ関係ねぇし埋め合わせは必須だろうが、な。ほんと、ルーが素直で助かってるよ。

――――――素直すぎてこっちが下手なことしたらすぐに壊れるんじゃねぇかと心配になる程度には。



…………………与太話は仕舞いにしよう。作戦に集中だ。」


リアーナがそう言うと、隊員達の雰囲気が一変する

気の良い、どこにでもいる青年のものから

人を殺すために牙を研ぎ続ける猟犬のそれへと


「今回の敵は近代兵器を使う“国家“だ。これまでみたいな知恵のないトカゲ(ワイバーン)地を這う暴漢ども(イタリカ辺境伯軍)とは訳が違う。航空戦力と海上、海中戦力、そして陣地を制圧する地上戦力を連携して繰り出してくる。」


そして―――――なにより、と

表情に苦いものを覗かせながら言葉を重ねる

それは、リアーナが前世で散々見て、体験してきたもの


「今回みたいな国家対国家でやらかす戦争の目標はどうしたって最後には敵の首都や重要拠点…………市街地になる。市街地戦闘が野戦と決定的に違うことは、わかるな?」


「交戦距離、ですか?市街地では建物や路地に塀、場合によっては室内に敵がいることもありますし、身を隠せる場所が大量にある。歩兵で攻略しようと思ったら隠れた敵との遭遇戦や不意打ちなんかも警戒しなければならない……………そうなると自然と近距離での戦闘になります。

自分は兄が傭兵だったので、砦攻めの際などはそれらで苦労したと良く聞かされました。」


兵士の語った言葉に正解、と端的に答え、そこから話を繋げる。


「今こいつが言った通り、市街地戦闘ってのはとかく遮蔽が多く、敵が見えにくい。大量の遭遇戦が起り、敵味方互いに消耗していく。では、なるべくその消耗をおさえるためにはどうするか…………簡単だ、こんな名言がある。」


リアーナが引用したのは、名将チュイコフの言葉

悪魔ですら逃げ出すような惨たらしさを内包するそれは―――――――


「“部屋や通路の迷路に入れば危険だらけ。手榴弾を投げて進撃せよ。曲がり角ごとに手榴弾を放り込みながら進撃せよ。天井の一部がまだ残っていれば機関銃で掃射せよ。次の部屋に入ったらもう一発手榴弾を投げ短機関銃で掃射せよ。“

つまりは建物全てを見境なく吹っ飛ばせ、ってことだ。手榴弾じゃなく重砲で建物ごと吹っ飛ばすなんて方法もあるな。」


その言葉を発した瞬間、場の温度がゼロになった

そう、錯覚した。


「総司令、それは…………民間人の犠牲(・・・・・・)はどれ程のもの(・・・・・・・)になるのですか(・・・・・・・)?」


そう、それは、戦争を

近代戦を地獄足らしめる一翼


「当然、避難指示は出すさ。避難する余裕(・・・・・・)も無い(・・・)ほど直前に(・・・・・)。じゃないと物資やら要人やらなんやらの破壊目標を持って逃げられかねんからな。んで、そんなんだから気違いじみた犠牲も出る。民間人も含(・・・・・)めて(・・)。」


瞳に隠しようも無い程の狂気を滲ませてリアーナが語る

彼女は、それらを生で見ている。そんな地獄の中を生き延び、散って、この世界に生まれ直したのだから。


「惨い話ですね………………。まぁ、俺たちが言えた義理ではないですが。」


特殊部隊という所属柄、ここにいる隊員たちもダーティーな仕事は慣れている

それでも、民間人が大量に死ぬのはやるせないものだ。たとえそれが敵国人であっても。


「………………あぁ、だからこその斬首作戦なんですね?」


ふと、聞こえた声。リアーナにとっても聞き覚えのある声。


「そ、そゆこと。今から言おうとしてたけど……………特殊部隊が潜入しての隠密、斬首作戦なら犠牲も最小限で市街地で砲爆かましてドンパチする前に決着がつけられるからな。あるいは王城を爆撃してもいいが、それだと副次被害が出る可能性が残る。だからこれが一番合理的で人道的だ。案外優秀だったんだね………………マイクくん。」


にこやかに、嘯く。

彼女の対面には、いつぞやの旅行で運転手を努めた青年兵士が微笑みをたたえていた。















遅れました。

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