衝撃
「ブリタニア王国軍東海艦隊Z部隊」
イタリカに侵攻し、リアーナたちと交戦を開始した艦隊である。
その先遣部隊である駆逐艦隊の旗艦「キュラソー」の艦橋では喧々囂々の騒ぎになっていた。
「本隊との無線通信途絶!先程敵艦より放たれた噴進砲によるものと思われます!」
「敵艦回頭!全艦、こちらに艦首を向けてきます!」
「彼我の距離、25マイル!射程圏外です!!」
副官が悲鳴じみた報告を上げ、艦橋艦橋監視員が敵の動きを逐一知らせる。
艦首を向けてきているのは防御体制だろう
戦艦に限らず、装甲というものは垂直に被弾したときより水平に近い角度で被弾した方が抜かれにくい
つまり、敵に対して艦を斜めに向けておけば、船体に着弾したときに敵弾を弾ける確率が上がるというわけだ。
と、ふと、艦長があることに気づく。
現時点で距離は40キロ
こちらからすればまったくのアウトレンジだが、はたして明らかにこちらより先進的で、砲の口径が大きい敵艦の射程は―――――?
「副官、敵艦の射程は………………「敵艦こちらから見て45度の角度で回頭中止、全砲門、こちらに向いています!!」
彼の問いを遮る、絶望的な声―――――――直後
キュラソーは船体の前方三割を消失させて海へと没した。
「っ、これ、は。」
その光景を見て呻くのは後続の駆逐艦の乗組員だ
彼らは目の前の有り得ない光景に脳が認識を拒否するのを感じていた。
いくら駆逐艦の装甲が薄いとはいえ、砲弾一発でここまでの被害を巻き起こすとは―――――――――――
ドレッドノートに搭載される30.5㎜砲とは比較にすらならない偉力……………………46センチ通常榴弾
メタルジェットによる貫徹を狙うHEAT弾ではなく、純粋な炸裂の衝撃と火災によって敵艦に被害をもたらす、古典的な砲弾。
しかし、それが1トンもの弾体にHNIWを満載しているとなれば、威力は絶大どころではない。
それは、眼前で現実として証明された。
「そのうえ、初弾命中………だと?」
彼の知る限り、艦砲というものは最初は外れ、徐々に目標に弾着点を近づけていくものだ。初弾で夾叉―――――弾が敵を挟むように着弾すること――――――させられれば神業といえるような世界だ。
その命中率は100発撃って10発中だるかどうか。間違えても狙い済まして艦首を“狙撃“するようなものではない。
そんなことを考えている間にも次の攻撃は艦隊に降り注ぐ
とてつもない巨艦、巨砲にも関わらず装填に10秒とかかっていない。
(イカれて、やがるのかっ………!)
内心で毒づきつつ、良く見れば敵戦艦に随伴する重巡洋艦クラスも一門の砲ながら機関銃と見まがうような速射で必中させている。
「バケモノ、め。」
彼は目の前で次々と味方がなすすべなく、一方的に沈んでいく光景を見ながら憔悴したように呟いた。
それほどまでに、理不尽だったから
超火力を、超精密に、とてつもない連射力とそれに伴う投射量で敵対者にぶつける………………。
言うのは簡単だ、言うだけなら、どんな荒唐無稽な…………現実の有限性を考慮から外すことだってできるのだから。
だが――――――――
「それを実現するようなっ!出鱈目!理不尽!認められるわけがあるかクソがぁぁーー!!!ぁっ!!!!―――――――――――」
その慟哭を最後に、彼は船もろとも死神の鎌に刈り取られた。