砲火の口火
港町でそれに乗艦したタスマニア、イタリカ両国の貴族はみな、唖然としていた。
リアーナが擁する海軍の旗艦
全長263メートル、基準排水量6万8千トン、46センチ3連装主砲3基9門――――――――――
大海を統べる王、レヴィアタン
いや、艦船は女性に見立てるのが一般的であるから、女王であろうか?
そんな益体も無いことを考えながら、艦橋まで上ってきたリアーナが艦長へと話しかける
「敵はどこに居る?」
「艦隊より150キロ前方です。」
地球では通常、海での距離はマイルを使うものだがリアーナはつい最近になって空、陸軍及び軍中枢との連携のため距離の単位をメートル法に変更していた。
「組織間で距離などの単位が違うと通信時にいちいち自部隊の単位に直す手間がかかる」
そんな上申が来たための措置である。
目立たないが、このような細かい気配りによって彼らは全軍で100万にも上る兵員を、あたかもそれ自体が意思を持つ一つの群体かのように運用することができるのだ。
「敵はピケット艦を残して駆逐艦をこちらに差し向けてきています。こちらの砲を回避しつつ接近戦に持ち込むつもりでしょう。」
無人偵察機からの画像が艦橋に備え付けられたデイスプレイに表示される
そこには10隻ほどの駆逐艦を切り離しつつ単縦陣に移る敵艦隊の姿があった
「乱れがない。データリンクも無しによくここまで見事に陣形変換できるもんだ。」
一部の隙もない艦隊行動に素直な称賛を送りつつ、二人は現在こちらに向かっている駆逐艦へと話題を移していく
「速度は27ノット………50キロ毎時ちょいってとこか。接近のために急いでるならあれが最大戦速だろうし。」
「降りきろうと思えば降りきれますね。」
レヴィアタンは大型ガスタービンエンジン8基の大出力により、戦艦であるにも関わらず第二次大戦の駆逐艦ですら難しい35ノットまで出せる。
しかも加速力が桁違いなのだ、いかに相手が敵艦隊の中では快速な艦艇といえど本気を出したら追い付かれる道理はない。
と、そんなどこかのんびりした空気を切り裂くようにリアーナの通信機に呼び出しが入る
「ん、こちらHQC、どうした。」
「ミネルヴァからHQC、ブリタニアからタスマニアに向けて多数のアンノウンを感知。ワイバーンではなく複葉機のためブリタニア軍の可能性高し、スクランブルで第309戦闘航空団のF16、4機が出撃。対処如何に?」
どうやらブリタニアからの航空機による攻撃らしい。
主要道にでも爆撃かまして通商破壊でもするつもりだったか?あるいは農耕地帯への攻撃か…………、それとも竜騎士の基地でも潰す気だったのかね?
そんなことを思案しながら口を開く
「待機している戦闘機隊を追加投入だ、一機も逃すな。警告はナシ、初手で叩き落として出鼻を挫いてやれ。」
即断即決
彼女は数秒も迷うことなく“撃滅“を選択した
すでに戦闘は始まっているのだ、いちいち近づいて警告なんてして危険を犯す必要はない。
指示を出して通信を切ると、今度は意識を海上に向ける。
「先に弩級戦艦を料理しよう。砲でもミサイルでも良い。まずは頭を潰して精神的ダメージを与えてやれ。」
十中八九、敵指揮官は先頭の戦艦に乗っている。あれだけ見事な艦隊運動を見せてくれる輩だ
兵士からの信頼もあついだろう。それを初撃で爆散させてやったらさぞや楽しいことになるのは間違いない。
……………現状、ブリタニア艦隊のやったことと言えば防空戦闘くらいであり、民間人虐殺や捕虜処刑などの悪辣な行為をしていないのに比べてわりとエゲつない手を思い付くリアーナである
艦長は思う。
戦争ではより外道になったほうが勝つというのはある種の真理ではあるが、これで良いのかと。
「おいおい、宣戦布告も無しにいきなり攻めてきたのはあいつらだぜ?悪いのはあっちだよ。」
エスパーか!?
リアーナに内心を読まれて驚愕する艦長
彼女からすれば微表情の読み取りなど造作も無いので、実際周囲の思っていることは筒抜けだ。
ともあれ、彼とて合理的思考を旨とする軍人である。即座にCICへ指示を出し戦闘の用意を整えていく。
一番槍は、対艦ミサイルによる主力艦の殲滅だった
壁面の大型ディスプレイに表示される無人偵察機のカメラ、そこに写る数十にもおよぶ艦艇ひとつひとつに四角いターゲットコンテナが重なっている。それを横目に見つつレヴィアタンのミサイルオペレーターは手元のタッチパネルで操作を進めていく。
やることは簡単、データリンクによって集められた目標の位置がわかりやすく矢印状のマークで示され、それをタップするだけだ。
艦のセントラルコンピュータはアルゴリズムによって敵艦を戦艦及び空母、巡洋艦、駆逐艦に識別して表示するため、区別する手間すらない。
創造主たるマリアの面目躍如といったところだ。
「目標ロックオン」
「撃て」
砲雷長の命令一下、パネルの発射アイコンをタップ
同時に、レヴィアタンの右舷VLSから大量の白煙が吹き出す
それは、蒼海の魔槍
マッハ3で飛翔する、ステルス性と対抗電子戦能力を備えた必中の槍
SSM3b対艦ミサイル―――――――リアーナたちの新兵器だ
通常の対艦ミサイルは斜めに取り付けられた発射筒から撃ち出されるものだが、リアーナたちはただでさえゴテゴテとしてステルス性の悪いレヴィアタンに余計な突起を付けることを嫌がった。
なおかつ対艦攻撃能力を主眼にする艦において搭載数が少なく即応性にハンデを抱える発射筒方式は不適格として不採用となった。
そのため、大型のSSM3を収納できる大容量の専用VLSからの発射となる。
約、二分
敵艦隊に接近することすらできずに、ブリタニアの大艦隊は―――――――業火に包まれた