キルハウス、ダウン
これと次話の描写を改稿しました。
さて、そろそろ俺らの出番だ。
「なんだあれはっ」
「速い………鉄の………馬車?」
ざわざわと場がざわつく
演習場に集まった各国の重鎮が驚きと共に見守るそれは、ウチの工兵小隊。
先程まで騎士たちが剣を振り回していた平原にドーザーやバケットを装備した工兵戦闘車で乗り付け、10トントラックからベニヤ板や金具を下ろし、組み立てていく。
みるみるまに上が吹きさらしの家の形が出来上り、最初の演目の準備が完了。
さて
「オープン、ザ、セサミ。」
隣に座るマリアが微笑みながらフィンガースナップ、
その瞬間
ごぉぉぉぉっ
と上空の雲が裂けとてつもない巨大さと、漆喰色を湛える流線形の物体が落ちてきた。
貴族たちの動揺がここまで伝わってくる。
かくいう俺も、かなり呆れているけども
「マジかよ開発部のやつら……………ツェッペリン持ち出して来やがった…………。」
出てきたのは、巨大飛行船
200メートルを越えるそれは、明らかに俺たち以外には作れない代物だ
なるほど、これがマリアの言ってたサプライズかー…………。
「ん。」
苦笑する俺を一瞥し、どこかそっけなく
しかしどこか得意そうに
いつのまにやら隣に来ていたマリアがノートパソコン型の端末をこちらに押し付けてくる。
………おいおいよく見ればあの飛行船の側面、巨大なディスプレイがひっつけられてんじゃねぇか
「このパソコン、の、マイク、を使って、おねぇ、ちゃんの、声を、あの飛行船から、ながす。仕切って」
はは………マリアめ、無茶ぶりしやがる。
しゃあない。こうなったらやってやる。
もう一方の隣を見るとアンはすまし顔で部下に指示を飛ばしていた
知らぬは俺だけってか?ちくしょう。
「くはは、だが、良い演出だ。ディスプレイはもちろん………?」
「ん、アンたち、の、ヘッドセット、のカメラ、と繋げて、ある。」
俺の問いにサムズアップで応えるマリア
エクセレント、つまりあの巨大スクリーンで、リアルタイムでアンたちの視点から戦闘の様子が配信されるというわけだ。
「さて、場は………ちとサプライズを食らったが最高にホットになった。アン」
「copy、マジェスティ」
少し前に俺のそばから離れ、待機場に移動していたアン、彼女に向けて俺は
「状況開始――――――ド肝抜いてやれ」
簡潔に、単純に、明快に、
ゴーを出す
それを受けたアンは聞こえるか聞こえないかというささやかな音量で部下に通信を飛ばす。
一斉にブラックのワンピースドレスとエプロン、その上にボディアーマーを着用した女たちが兵士の待機場所から駆け出し―――――
迅い…………膝や腰に取り付けられたポリマー製外骨格のサポートにより装備の重量負担を軽減していることをさっぴいても…………。
うん、よく訓練してる、いいねぇいいねぇ。
「武運を」
「恐悦至極」
通信機に吹き込んだ声に端的な返答。
「ブリーチング…………っ」
俺のそんな呻きとほぼ同時にズドンッ、と銃が叫ぶ
先頭の隊員…………ポイントマンが装備したベネリM4ショットガンをドアに向けて発射したのだ。
放たれたスラッグ弾がキルハウスの入り口の蝶番を破砕し、ポイントマンはキックでドアを蹴り倒しつつ室内に筒状の物体を放り込む
閃光と耳をつんざくような音響を放ったそれはスタングレネードや閃光弾とも呼ばれる敵の聴覚と視覚を奪うための兵器
スクリーンには一連の流れが隊員たちの主観視点で映し出され、観客たちはあっけにとられたように見つめている
無理もない、こんな闘法、彼らは見たことも聞いたこともないだろうからな。
炸裂から一秒ほどの間を置いて彼女たちは突入する
部屋に入る直前に顔だけ出して視線を走らせ、室内に設置された二体の人形の的を認識、直後
ズババンッ
二つの銃声が並んだ
ポイントマンが一体をショットガンで撃ち倒し、次に侵入したアンが装備したスカーの6.8㎜弾をもう一体の胸部に叩き込んだ、この場でそれをきちんと見れていたのは、俺とアリスくらいか。
即座にターゲットを排除した彼女たちは物影をくまなくサーチしつつ部屋の角に移動する
続々と部屋内に侵入していったオルトロスのオペレーターたちは本棚の影やドアの影に視線を滑らせながらも室内中央に銃口を向けると、外を警戒していた最後の隊員の肩を軽く叩く
合図を受けた最後のヤツが室内に入り………まずは一室制圧だ。
「ビューティフル。10秒とかかってないぞ。」
そんな軽口をほざく間にもオルトロスは隊を三つに分けて次々とキルハウスを制圧していっている。
今までアン視点だった飛行船のディスプレイが切り替わると、そこにはP90を装備した隊員の見ている光景が映される。
ブリーチングでドアが吹き飛ばし、扉の影から頭と銃だけを出すようにして見える範囲の敵を射殺、室内に侵入、ドアの影に居た敵を左手で突き飛ばし間合いを取ってから腰だめに構えたP90の5.7㎜を叩き込む
………あそこはなかなかの難所なんだが、あっさりパスしやがったな
多少鍛えただけでここまで至れるなんて、彼女たちの才能と執念が恐ろしい
「くっ、はははははっ。ははははは。」
笑いが止まらない
「良いぞ、良いぞ、制圧しろ、鏖殺しろ、ここは最高のステージだろう――――――?」
テンションはマックス
まだ次が控えているというのに…………あいつらと来たら!
「お前らは騎士なんかメじゃない、竜殺しの騎士も万軍を押し止める英雄も鎧を引き裂き兜を割る剛力の戦士も……………お前らに敵うものなど居るものかよ。」
大音声で、飛行船のスピーカーから音声が垂れ流しになっていることすら忘れて、彼女たちを
………尊敬すべき兵士たちを湛える。
「騎士も戦士もお前らの………俺たちの前ではすべて塵芥だ。お前らが、これからの時代の戦争を創る――――――否、支配し弄ぶ戦争と殺戮、その概念そのものだっっっ。」