騎士の怒り、剣舞、殺すと言うこと
「なんなのだ、あれは。使用人の癖に…………。」
「まぁそう昂るな、所詮は令嬢の道楽に乗せられただけの一般人、調子に乗ったとて仕方あるまいよ。」
リアーナ達と別れたあと、騎士団の面々はそんなことを口々に言い己の剣を研いでいた。
華美さを廃したロングソードはそっけなく、しかし実用的で人を切るに十分な性能を覗かせる
彼らは演習では剣技と馬上打物………ランスによる試合を行う。これは、この世界での一般的な軍事演習のプログラムでもあった。
「騎士“程度“とまで言われてこちらも黙っていられるわけもないので、な。」
奥歯をぎりりと言わせて、眼に鋭い光を宿す
彼は騎士としての矜持を示すため、演習場に足を進めた
と、そんな彼らを睥睨する人間が二人。
「始まったな」
「……………戦場では鎧を着込んで動き回る“的“が相手だというのに、藁を切ってなんの意味があるのですか。」
いわずもがな、リアーナとアンの主従
「まぁそういうなよ。あれでなかなかどうして難しいんだぜ?綺麗にすっぱり切り落とすのはな。あと、鎧を着用しない平時とかには巻き藁を切れるなら人も切れる。」
メイドのあんまりな物言いに、さすがに苦笑しながらフォローを入れる。ひでぇ
まぁ実際、あんなふうに剣で巻き藁を切るのはなかなか難しく一朝一夕でできる業ではない
そして、巻き藁すら切れなければ生身の肉は切れないのも道理では、ある
―――――ただし、鎧を着た相手にはクソの役にも立たねーが、な。
この時代、この世界の戦場では剣はあくまでサブウェポン
つまり地球のナイフと同じようなポジションであり、その真価は取り回しにある
刃の部分を握って鍔で打撃を叩き込んだり刃を兜の眼部分に開けられた隙間に刺し込んだり…………。
戦場ではそういった使い方が主となる。ただ…………
「切り落とす意味がありません。首や内腿に刃を滑らせれば人は殺せます。」
いや、うん、そうなんだけどね?身も蓋もないなぁおい。
たしかに、わざわざ力を込めて、大降りでズバッと切り落とすメリットなんざない
表面に一センチ切れ込みを入れれば人は死ぬ
もちろん、薬を投与していたりアドレナリンの過剰放出で動き続けることも考えられるがそれはレアケース
その場合でも足の健を切ってしまえば物理的に動かなくすることも可能である
そして……………それは常々俺がナイフ術の訓練のときに言っていることであった。
俺は自分のメイドの発言に思わず顔をひきつらせて無言になる。騎士に恨みでもあるのかコイツ………。てか
「あくまで示威、演舞なんだ。そこ突っ込んでもしゃあねぇだろ……………アン。」
素人に見せるにはこれくらい分かりやすい方がいいとは思うぞー……………?
「まぁ、それはマジェスティのおっしゃる通りですが……………。」
納得してなさそうだなぁ。
まぁ、コイツなりに譲れないものがあるんだろう。あえて強くは言うまい。
まぁ、たぶんあれだ、コイツは
「まぁしばらくはおとなしく見てよう。兵士扱いされなかった憤りはわかるが、それは俺たちの出番になったときに晴らさせてもらおうや。」
さっき、騎士たちは俺らを観客扱いした
兵士だと、戦場に立つものではないと判断したのだ。
それがいらついてんだろうよ。
それを見越した言葉をかけつつニヤリと笑いかけると、アンは少しだけ驚いて、微笑みながら
「はい。」と簡潔に応えた。
そのあと、似たような演技がしばらく続き、ようやく、俺らの出番になる
さぁ
ショータイムだ