兵士たちの日常、訓練、鬼神たちのコンツェルト
タスマニア上空
今そこでは二種の猛禽が噛み合っていた
リアーナ私兵団保有の戦闘機たち、その空戦訓練である
片方は青の斑の優美な曲線を描く15.5メートルの――――戦闘機としては小柄な機体
日本のF2戦闘機をこの世界で極限まで改修した
F2v「ヴェノムゼロ」
イタリカにて200のワイバーンを撃ち落としたヒドラ隊の駆る機体。
それに相対するのは、現代でも最新鋭の第5世代機「F35a」5機の部隊である。
今、ちょうどこの5機は2機、2機、隊長機の三編隊に別れ三方向からAIM120ミサイルを発射した。
機体下面の蓋が開き、機体内部のウェポンベイからオレンジの噴炎を迸らせて飛翔したミサイルは、F2に到達するかなり前でエンジンの燃料を使いきり惰性での飛行に移る
GPSとIMU………衛生航法システムと慣性誘導の誘導装置に導かれゼロに迫る
「レーダー照射…………。」
F35部隊が今やりあっている機体を操るのは歴戦の―――そういうことすら生ぬるいエース
AIM120の基本的な誘導方式は現在の敵位置に向かうため大きな動きに対応しにくいIMUとミサイルにつけられた小型のレーダーの探知能力、それで捉えきれるとは思えない
そういうときのために、というわけでもないがこのミサイルには発射した機体からのレーダー照射による誘導………擬似的なセミアクティブレーダーミサイルのような誘導の併用も可能とされていた。
F35のパイロットは自機がまだロックオンされていないことを確認しつつ、手早く操作を進める
―――――――と
「きっkillcallつっ!?バカな!まだ距離は70キロあるんだぞ!機銃はとどかない、ロックオンもされていなかったはずだ!」
まさにF2を彼の愛機のレーダーが捉えようとするその瞬間、ツーマンセルを組んでいた仲間が撃墜された
そして、その、瞬間
「―――――――あ」
自機の撃墜を示すエーワックスからのアナウンスが流れた
ちょうどその訓練をモニターしていたE767エーワックスのオペレーターは硬直していた
「……………はっは。化け物だ。」
ぽつりと、ようやく呟いたオペレーターが見たのは、あり得ないとしか形容しようがない光景
F2のパイロットが訓練開始直後にロックオンもせずにミサイルを放ち
数瞬遅れて、無誘導で直線飛翔したミサイルがF35に直撃した光景だった
俗に、置きミサイルと呼ばれるものである
レーダーに映らないF35、それを撃ち放たれたミサイルの反応から位置特定し、敵の未来位置を予測し、ちょうど敵がそこを通過するタイミングで到達するようにあらかじめミサイルを無誘導で発射する
ゲームなどで単純に飛行するコンピューター相手にかろうじてできる所業である、それをゼロに乗る人間は現実で、対人で、完璧に成功させたのだ。
「area clear RTB」
淡々と、虚を突かれた残りの敵にレーダーが映る位置まで接近、見惚れるほど完璧な操作でAIM9を叩き込みヴェノムゼロ乗り…………セルゲイは悠々と基地に向けて翼を翻した。
同時刻、地上、訓練施設
キルハウスと呼ばれる各所に的を配置した部屋のセットの前に十人の女性が整列していた
彼女たちの眼光、立ち姿のバランスの良さ、着衣でカムフラージュされていれど見るものが見ればわかる極限まで戦闘に最適化された練り上げられた駆体
どこからどう見てもただものではない…………。
彼女たちは、番犬
オルトロスと呼ばれるリアーナの歩兵部隊で現実の特殊部隊の訓練を一通り課されクリアした、最精鋭を誇る部隊の内の、生え抜き10名
つまり、一言で言うと……………鬼神の類いである。
「皆様はこれより、新装備の試験を行ってもらいます。しっかりと使い心地を確かめ、詳細なレポートを出すように。」
その群れ長たるアンが手早く指示を出す
その手にはこれまでのマグプルのサブマシンガンでもスカーでもない新たな銃が握られていた
その大半をプラスチックで構成されたボデイはマガジンが銃の上に取り付けられ、箱の下に輪を大小ひとつずつ取り付けたかのような独特の形をしていた。
P90
シークレットサービスでも使用されているPDWである
PDWとはパーソナルディフェンスウエポンの略で、通常の拳銃弾を使うサブマシンガンでは貫けないアーマーを着る敵に対抗するために、大きさなどはサブマシンガンほどにした上でライフルに似た弾を使う火器である。
見れば整列した10人も全員が同じものを装備している。
彼女たちはこれから、キルハウスで思う存分にこのP90を撃ちまくり、評価試験を行うことになる。
新しい武器に、これから仲間の命を預けることになる兵器の試験という重大任務
ただでさえ鋭い彼女たちの雰囲気は研ぎ澄まされた刀のごとく鋭いものとなっていった
そして
「では、go」
アンの合図と同時、鬼神たちは突入を開始する
的に弾を叩き込み、ドアを蹴破り、キルハウスを蹂躙していく
――――――――P90の評価試験の結果は、“優良“
こうしてリアーナの軍に新たな銃が採用された
リアーナが演習の話を聞いたのが、このときで一週間前
イタリカとタスマニアの演習本番の時は着々と近づいていた。