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帝国竜騎士セルゲイ

その後、一週間ほどして帝国とリアーナ達との折衝が始まった。

すでに皇帝は爆撃により死亡しており、これには帝国側から第一皇子が参加している


「まさか君がそちらに居るとはね、セルゲイ(・・・・)。20年ぶりくらいかな?私がまだ子供の時だったっけ。」


帝国第一皇子―――――――にこやかな笑みを浮かべる30歳前後の壮年の男である。

彼との会談にはリアーナ達にオヤジと呼ばれるパイロット―――――皇子曰くセルゲイ・プガチョフスが本名らしい――――――も参加しており、皇子の彼と面識があることを匂わせる言葉に場がどよめいた。


いや、正確には、驚きを溢したのは現在の彼の仲間たち、リアーナの軍から派遣された兵士たちで

帝国側はすでに周知の事実とばかりの無反応であった


「お嬢…………あー、うちのボスから言われたんだよ。古巣(・・)に顔出すくらいはしとけってな…………。」



それは、オヤジ………セルゲイの告白


自身が元は帝国の人間であったことを示す発言である。

なお、リアーナはすでにこの事を知っており、その上で彼にここに来させたのである。

すべては「その方が面白そうだから。」という理由で。


…………………迷惑なボスである。


「………………帝国竜騎士団、“鬼神“セルゲイ・プガチョフス。20年前にいきなりどこかに消えたと思ったら、まさか敵としてまた空に昇っていたとは………………正直、恨むよ?」


「騎士団辞めて直ぐは実家で仕込まれた鍛冶で働いてたんだよ。墓の下の親に知られたら竜騎士になるつって飛び出しておいて何を今さらってぶん殴られるだろうけどな。」


彼の過去…………リアーナと出会う前、彼は帝国の竜騎士だった。

元々鍜治屋の長男として産まれたセルゲイは子供の頃から鍜治を仕込まれ、腕を磨いてきた。

才能に任せてメキメキと頭角を表すセルゲイへの期待は大きく彼もそれに応え続けた

しかし、青年と呼べる年になり、彼は見た

見てしまった

空を自由に飛ぶワイバーンと、それに騎乗する帝国騎士の隊列を。


葛藤したのは一年も無い短い期間だった


最低限の荷物と共に騎士に志願し、近衛となり、ワイバーンを下肢されて――――――念願の竜騎士として帝国へ使える日々


そして



「まだケツも青い頃にトラブって退役して、槌をガキの時ぶりに握って何年か。まさかあんなガキに出会うとは俺だって思ってもなかった。」



英雄


そう呼ばれるほどに武勲を積み上げ、それを妬んだ上官と喧嘩騒ぎを起こして騎士団を、帝国を飛び出した。

そうして、実家でもしていた稼業(鍜治)を再開して数年、勘を取り戻して、弟子も多くできた頃



「その“ボス“とやらと出会ったというわけだね。」


「あぁ。」



セルゲイは、リアーナと出会った


彼をオヤジと呼ぶ、不思議な少女と。

誰にも思い付かないようなアイデアと、人知の及ばぬ叡智をその身に詰め込んだ少女と。

それだけではない

彼女の妹もまた、神の叡知と言うべきものを備えた人間だった。

彼女たち二人は、数年間で誰も敵わぬような軍を拵え、すでに世界を二分する大国を二つとも屈伏させてしまった。



お嬢(ボス)は最初に会ったときに賭けを持ちかけてきたんだ、俺にベットしろ、ってな。

そして俺は―――――――それに賭けた。

今となっちゃあのときの自分を誉めてやりたいぜ。」



鍜治師として誰も作ったことが無いようなものを作り、そこから身を引いた今では彼は竜騎士より速く空を飛ぶ。

本来一人の人間が人生をかけて求めるものを、リアーナたちからは二つも与えられた。

自分の選択は間違っていなかった

幼児とも言えるような年の子供の考えに賭けたセルゲイの狂気(・・)は――――――正しかった。


かっての自国の竜騎士(エース)の、そんな自信と自負に満ちた顔を見て皇帝は思わず苦笑いを溢す。



「そんなのに我が父は喧嘩を吹っ掛けたというわけだ、愚かなことに。

鮮やかな手並みだったよ。とてつもない速攻で国境が抜かれ、帝都に敵が迫り、慌てふためいた重臣たちが帝城に集まったタイミングで――――ズドン。なんてね。

戦前はさすがに、見事にこちらに開戦の責任を背負わされた上でお偉い方が壊滅させられるとは僕も思っていなかったんだけどねぇ。」


そう、今回の戦争では綿密な手回しにより全責任を帝国が背負う形になっていた。

リアーナたちのやらかしは巧妙に隠蔽され、帝国が一方的にイタリカに侵攻しようとしていたところを彼女の軍が止めた

表向きはそういうことになっているのだ。

今さら、皇帝がなにを言おうとも覆らないほどの証拠を用意した手腕はおおよそ15の令嬢のものではないと、改めて二人は身震いする。


まぁ、実際に15歳でないのはご愛敬だが


「ははっ、そうだな。前皇帝は阿呆だった、アンタは、間違えるなよ?」



そうして帝国はリアーナたちの姦計に――――世界を征服し、支配し、強制的に争いを滅するという

狂気じみた事業に否応なく巻き込まれていくことになる。




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