土の妖精
「とりあえ、ず、問題は、塩分、とかんせん、しょう、かんせんしょう、はそろそろ終息、しそう、だけ、ど。」
ここはイタリカに設置されたリアーナたちの軍の拠点
その中ではマリアがアデリーナとスフォルツァ公爵、そしてルーと顔を付き合わせて話をしていた。
現在、このスフォルツァ公爵領ではワイバーンによる被害の後遺症で土壌汚染とコレラが広がっていた。
人間などの血に含まれる塩分が土に染み込み作物を枯らし、ワイバーンや死体から垂れた糞尿が河川にコレラを流出させたのだ
ただし、コレラについては抗生物質の投与と傾向補水液や点滴による対処によりほぼ解決してきているので、残った問題は塩害である
「そうだな…………ただ、情けない話だが、我々にはもう打つ手がない。マリア殿にはなにか方策があるのか?」
苦虫を10単位で噛み潰したような、悔しさを滲ませた表情で公爵が言う。
自らの領地が、領民が犯されたことがよほど腹に据えかねている――――いや、なにもできない不甲斐なさに心を痛めているのか
マリアはそれを察して、とある野菜をどこからか取り出した
「アイスプラント、この、やさい、は、おいしいだけで、なく、塩を、すいとる。」
少しだけ肉厚でビラビラとした葉、表面にキラキラとした小さな結晶を纏ったそれは、アイスプラントと呼ばれる食用植物
塩分と水分を隔離して溜め込むことで塩が多量に含まれた土でも育ち、地中の塩分を吸いとってくれる
タスマニアでも一部地域では料理に使われ、ここイタリカでも沿岸部で自生している植物だ。
「これ、を、畑に、うえれ、ば、土は、改善でき、る。」
テーブルの上にその葉を置くと公爵やアデリーナが身を乗り出して見ようとして来た
「私も以前見かけたことがあるが………この葉にそんな効果が…………。」
「意外ね…………というかこれ、食べれるの?見ためすごいんだけど。」
二人が口々にいい募るがそれらを無視してマリアはパチンと指をならす
「聞くより、食べる。
ようい、は、してある。」
とはマリアの弁。
その合図から間をおかずに軍の兵士がアイスプラントのサラダを盛った皿を持ってきて、二人に試食してもらうこととなった
ためらいがちではあったが一口食べると癖のないシャクシャクした食感とほどよい塩気はなかなかに舌を楽しませてくれる
「うそ、おいしい………………。」
「……ん。」
口に手を当てて目を見開くアディに、いつも通りの無表情でサムズアップして話を続けるマリア。
彼女いわく、塩害にはこれで土壌改良しつつ、元の作物が育てられるようになるまではこちらを輸出して金を得てはどうか、その金で食糧を買うこともできるだろうとのことであった。
「珍しい野菜だ、買ってくれる相手を見つけるのは難しいと思うが…………。」
「ウチの、国、に、これをたべてる地域が、ある。アイスプラント、の生産量も少なく、て、需要に供給、が、追い付いてない。そことの、販路は、わたしが、つな、ぐ。」
スフォルツァ公爵の心配はすぐさまマリアが杞憂と切り捨て、販売ターゲットの選定やそれらへの販売、輸送までマリアが行うと確約した。
「支援痛み入る。だが、そこまで手厚くするのは、なぜだ。」
感謝を告げながらも目の奥に警戒を滲ませて彼は問う
しかし
「アディは、おねぇ、ちゃんの友達。
なら、わたしの、大切な、ひと。困ってたら、助ける。当然で、しょ?」
きょとんと
なぜそんな自明を問うのかとばかりにそう切り返されて、彼はフリーズした
「…………シスコンか?」
「否定は、でき、ない。」
艶っぽく笑って、マリアはアイスプラントにフォークを突き刺した。