帝都侵入
「ヒューッ、もう前線食い破りやがった。誤爆無し、全弾命中とか流石はうちの戦車部隊、って感じだな。抜群のソフトウェア性能だ。操縦者も、火器統制システムも。」
俺はAGCの隊員たちと共にハンプティーダンプティーのUH60に乗り帝国国境を越え目標地点に向かっていた。
帝都までの道のりの半分位まで来たところでデータリンクにより送られてきた結果を見て、俺は満足げに呟く
本来ならこういった電波を発するものを敵地で使いすぎるのはよろしくないのだが、如何せんこの世界には電波を傍受するような技術もなく、いつでも使い放題なのがうれしい
マリアや開発部のプログラマーたちのおかげで下手すりゃ元の世界のエイブラムスをも越えるオートメーション化と精巧さのソフトウェアがあるのもデカイ。
人の腕に頼る砲術を機械で代替して、“新兵でもベテランと同じ結果をコンスタントに出せる“という軍隊の理想を体現している。
「こりゃあ下手すりゃ現代軍隊より上かもな」
ソフトウェア性能を不安定な人ではなく、量産が容易な機械に依存するそれは――――――まさしく均質化と統制を可能にする現代軍隊の理想系だ。
と、ふと、思い出すのは同盟国の、極東の国の戦車――――――
旧戦車より格段に操作行程が少なく、扱いやすく、それでいて曲芸紛いの射撃能力を叩き出す3.5世代戦車だった
小型軽量、機動性がウリの斬新さは、ドクトリンから一新しなきゃいけないのではなんて心配してたが………………結局製造されたのは少数で合同演習のときに来ていたその国の戦車乗りの呪詛を聞いたものだ
でも、それでも
最終的にそのトリガーを引くのは、機械が提案してきたターゲットを撃つかどうか決めるのは、人だ。
兵士が自身で考え、自身の手で狙いを定め、自身の意思で殺さねばならない。
だからこそ、照準に機械による補助が介在しない小火器が好きだ。
機械による統制、コントロール、自動照準ではなく―――――光学機器によるアシストがあったとしても―――――自らの腕がダイレクトに結果に反映されるライフルやハンドガンが。
益体もないことを思いつつ、HK417のマガジンを抜き、コッキングを引いてチャンバーに弾が入っていないことを確認。
さぁ、そろそろ帝都が見えてくるぞ
「総員、状況開始まであと一分」
「copy」
隊員達が立てるコッキング音が重なり、機内がにわかに騒がしくなる。
帝都が見えてきたら近くの森に着陸、そこから街中に入り込んでアサルトライフル上部に取り付けたレーザー照射装置で帝城への空爆を誘導するって寸法だ
「本来こういうのは空軍の特殊部隊の仕事なんだが…………編成しておかねぇと。」
前世所属していた、祖国の軍隊では空軍に所属する特殊部隊が空爆誘導や敵地からの救助などを行っていた。こっちではまだ編成せずに陸軍部隊に任せてるのが現状だけどな。
と、そんなことをつらつら考えていると尻に軽い衝撃が来た。
「総員、状況開始、展開。gogogo」
着陸だ、素早く指示を出した瞬間部隊のオペレーター達がヘリの側面ドアを開けて、周囲に銃口を向けつつ出ていく。
俺も殿で、HKを左右に振りつつ彼らの背後をカバー
樹木を縫うように、それぞれに視界をカバーできるように、帝都街壁に向かって進んでいく。
クハハ……………思い出すねぇ…………アフリカの紛争地のジャングルでゲリラとやりあった時の事を……………。
「街壁まであと200メートルだ。
夜間の人通りがなくなった頃を狙って門兵を排除、侵入する。」
ボソボソと通信機に吹き込んで指示を通達し、森の出口近くまで到着
顔の横で握りこぶしを作り、ハンドサインで隊員たちを止めて、あとはこの辺りで夜まで待機だ。
「キャンプを張る。糧食を準備しろ。」
帝都陥落まで、あと、すこし。