彼らに与えられたもの
さて、一旦町まで戻り、鍛冶屋に顔を出す。
「オヤジー。見てこれ。」
バイクにくくりつけたバックパックから20センチはある鍵爪を取り出して見せびらかす。
くそでかいだろこれ。俺が狩ったんだぜ。というどや顔付きで。
ヒグマの爪がちゃちにみえるような鱗狼のそれを見て、オヤジが目を見開く。
「おまっ……………前にもくそでかいケルピー狩ってたよな。今回は熊か?」
そう、少し前にも俺は大物を仕留めていた。ケルピーというのは海をはさんだ他国から渡ってきたと言われる、滑らかな体表と水掻きを持つ草食動物だ。在来種には小柄でずんぐりむっくりした猪のような爬虫類がいたらしいが、そいつは繁殖力と身体能力に優れるケルピーに生息域を奪われじょじょに滅んでいっている。ショギョームジョーを感じさせるが、これも自然の厳しさってやつだ。
ちなみに狩ったケルピーは鍛冶屋の皆で鍋にして食った。
ん?家族?見せてないよ?見せれるわけないじゃんまだ八歳の娘がんなもん引きずってきたら卒倒するよ。オヤジ達みたいに耐性あるわけじゃなし。
さて、そういうわけで俺は一旦、持ってきた肝やら手やらを引き渡す。俺が狩ったものはこうしてオヤジが預り、伝を使って売りさばいてもらうことになっているのだ。
俺が直に売ったらくそ怪しまれるしな。
俺から爪や肝を受け取ったオヤジが、頭をバリバリ掻きながら聞いてくる。
「まぁ、いまさらそこまで驚かんけどよ。本体はどうしたよ?」
本体?山ん中。
仕留めたヤツは血抜きして放置してあることを伝えるとオヤジは職人たちに指示を飛ばし始めた。
「おいテメェら!聞いたな!?またまたお嬢が大物を殺った!俺らで回収に行くぞ!」
親方の怒号に職人たちはオォーー!と沸き立つ。今夜は熊鍋だぜ、おっさんたち。
職人たちは獣や時にはモンスターに遭遇することもある危険な森に行くというのに、やる気に満ち溢れている。
その理由は、彼らが今備え付けのロッカーから取り出している“あるもの“。
それは、土色で塗装された、強化ポリマーフレームのモジュラー式アサルトライフル。
P90とファイブセブンという同じ特殊弾頭を使用する銃器のコンビで有名なFNハースタル社が米特殊部隊のために開発し、NavySEALsでも使用されている高性能アサルトライフルの、大口径バージョン。
そいつの名前は、スカーH
7.62㎜NATO弾を使用する、傑作自動小銃である。
機関部はHK417と同じくクローズドボルトなので、多少の違いはあれど特に問題もなく作ることができた。
まぁ微調整は必須だったが。
HKもスカーもロータリーボルトとか作動時いろいろごちゃごちゃした仕組みはあるが、職人たちはよくやってくれたよホント。
さて、そのスカーをメインに装備した職人たちは、今度は太股にホルスターをつけ、そこにM9a3を入れていく。
これは、イタリアベレッタ社が開発したベレッタM92をアメリカ軍が正式採用したM9、その最新モデルとなる。
ベーシックのM9a3はグリップの後部、スプリングハウジングと呼ばれる部分が直線的なストレートタイプだが、この世界にあるベレッタはグリップの左右に嵌め込むストラップをスプリングハウジングまで覆う特別なものにし、グリップを曲線的に仕上げてある。
人間工学に基づき設計したそれは、オリジナルのM92やM9a3よりもかなり手にフィットするはずだ。
俺はその光景を満足感と共に眺める。こいつらが訓練したのは、約三ヶ月。その間ひたすらスカーやベレッタを撃たせた
熊狩りへも数回連れていって森での行動にも慣れさせた。
市街地や屋内でのクリアリングもレクチャーしランダムに設置した木製の的を撃たせた。
目標選択とそれぞれの戦闘エリアに入ってからすべての的を撃つまでの時間で評価し、一定の基準を越えるよう叱咤した。
たったそれだけで、本業の傍らでやった少しの訓練だけでこいつらは、何年も武を求め血反吐を吐きながら腕を磨いてきた騎士や野生で勘と牙を磨きあげた獣すら、指を引くだけで殺せるようになった。
それが現代兵器、それが銃。
それらの武器を各々が装備して、職人たちは意気揚々と山に出かけていった。