鉄の巨獣
帝国とタスマニアの国境近く、帝国の国境守備部隊の駐屯地
そこは今、地獄の釜が開いたような状態になっていた。
「衛生兵!衛生兵ー!」
「ひぎっ、ちょ、腸が…………俺の腸が……………。」
天幕は散り散りに吹き飛び、地面が焼け焦げてそこここに爆散した兵士の肉片が落ちている。
辛うじて生き永らえたものも無事なものはごく稀で、飛び出た自身のはらわたを押し込もうとするものや、手足が無くなりふらふらするものが目立つ。
それをはるか遠くから、無人機によって観察するのは――――――陸の王たる戦車部隊
「次弾装填、弾種HE」
隊長車から支持が飛び、44台あるM1A2エイブラムス戦車の装填手が車内の弾薬庫から取り出した榴弾をチャンバーに押し込む。
チャンバーの挿入口横にあるレバーを倒し、安全装置を解除して
「HE up」
「ファイア」
装填手が装填完了の報告を飛ばすと、すぐさま車長が砲手に発射の指示を出し、各車両から砲が撃ち放たれた。
ドゴォンっと、雷鳴のような轟音が帝国軍の駐屯地まで響き、直後に駐屯地全体が消し飛ぶ
全ての弾が命中し、誤射などひとつもない。
搭載されている優秀な火器管制装置の成せる技である。
数十のエイブラムスの120㎜滑降砲から放たれた対戦車榴弾はその威力を遺憾なく発揮し、これまで生きていた帝国兵もろとも武器庫や整備されていたカノン砲、トレビュシェットを焼き、爆ぜさせる。
数キロ先から発射されるマッハ4級の速度を持つ砲弾は、この世界の歩兵たちなどになすすべなどあるはずもなく、しかも武器庫に着弾、爆発したときに飛び散った剣や槍が周辺の兵士を貫いていく。
「パラディン、HE up」
「戦車隊を後退!」
遥か後方に展開する12輌の自走砲が砲の発射準備を完了し、その報告を聞いた瞬間戦車隊の隊長が通信機に怒声をあげて部隊を後退させる。
リアーナたちの自走砲は155㎜の大口径砲を搭載、もちろん優秀な火器管制システムは誤射などまずあり得ないが、それでも安全策として砲の着弾地点から離れておくのだ。
パワーパックが唸り、排気の白煙と土埃と共に戦車たちがバックしていく。
と、戦車が目標から10キロまで離れた瞬間キュルルルッ、と風切り音が響き、着弾
「初弾から中ててくるか」
戦車隊長が感心したように呟く
パラディンが撃った砲弾はその言葉通り放物線を描いて帝国軍陣地に直撃、
「初弾命中、効力射」
自走砲部隊の指揮官の指示があり、また風切り音
そして
―――――――地が、震えた。
ドドゴォォン!!!と先程までと比べても大音量な着弾音と衝撃が届き
その爆心地に居た帝国軍部隊は完全に沈黙した
初弾を放ってそのデータから次弾をより目標近くに、それを繰り返して照準を修整したところで一斉に目標に向けて撃つ
これが砲戦の基本である。
リアーナの砲兵隊は初弾から命中させることで、最短での一斉射撃、効力射を可能としていた。
「グローバルホークの偵察画像より相手の壊滅を確認。歩兵から兵員を割き現地の確認を任せ我々は前進する。」
指揮官のそんな指示
そして、戦車と自走砲の群れはさらに帝国の内部まで食い荒らさんとその巨体を進めていった