狼は復讐す
「おねぇ、ちゃん、は、帝国に着いた、かな。」
イタリカ、スフォルツァ公爵領に設営された医療支援用の拠点
その中に設営されたバラックの中でマリアがひとりごちる。
ディスプレイを覗き、自軍と敵軍の動きを観察しつつ各部隊に適切な動きを逐次助言していく。
「ん?」
と、バラックの扉を開けて入ってくる者が
「ただいま…………マリアさん。」
ルーである。
その白い毛並みを紅に染めて、目に暗い光を灯しながらフラフラと歩くその姿は、今にも壊れそうで。
「ん、おかえ、り。」
マリアはふわりと笑ってその胸に彼女を誘った。
「―――――っあ」
血塗れの狼の少女、その目の端からボロボロと滴が垂れ、マリアの胸へと飛び込む。
「わ、たし…―――――私、二人を、二人も―――――。」
嗚咽混じりに、とぎれとぎれにルーが言葉を吐き出す。
彼女は先程まで、直接の仇である父親を殺した村人とルーの存在を言いふらした少年をいたぶってきていたのだ。
ただ、殺しは、していない。
だからこそ
「私は、許せないのに、っ―――覚悟もなかった…………!!」
ジレンマがルーを蝕む。
殺したいほど憎いのに、殺したくない。
殺す覚悟など無い。
せっかくチャンスを貰ったのに、自分は――――――
「ルー。」
マリアの声がルーの狼に似た耳を擽る。
ぎゅっ、と
甘やかな香りがルーの鼻をくすぐり、顔が柔らかい感触に包まれる。
マリアが彼女を強く抱き締めたのだ。
「望む通りに、すれば、いい。わたしたち、は、あなたが傷つくのが、いちばん、いや。」
月並みな言葉だが、それはマリアの本心でもあった。
村を滅ぼし、村人を捕まえたのは全て
ルーの心が少しでも救われるため。
「これはルーの復讐、だか、ら。あなたが、やりたい、ように、やれば、いい。」
手伝いはしても、口出しはしない。
これはどこまで言ってもルーが当事者で
マリアたちは部外者でしかないのだから。
「…………っ、うん……………。」
頭を撫でられながら、ルーは心の澱が溶けていくのを感じていた。
マリアの服に、返り血がジワリと移る。
ルーとお揃いだ
ふと、マリアはそんなことを考えたのだった。