チャージ
そうして帝国軍を殲滅したあと、兵士たちは村人たちから礼を言われ、麦などを貰って本隊に合流するため車輛に乗り込んでいた。
「彼は大丈夫でしょうか…………。」
ふと、一人の隊員が心配そうな様子で言う。
彼というのは、戦闘時人質になってしまったソバカスの少年のことだ。
「…………後のことは家族や友人と共に乗り越えてくれることを願うしかない。どうしてもというなら防疫部から心理療法に長けた医官を寄越してもらおう。」
悲惨な経験をした人間は心理的に傷を負い、長らくそれに苦しむ。
所謂、PTSDである。
彼らが心配しているのは、それが少年に降りかかっているかもしれないということ
いきなり殴られ矢玉を避けるのに使われ、すぐそばで人の頭が弾けとんだのだ、十分すぎるトラウマだろう。
殴られた外傷はすぐに治療したが、そちらの治療は一朝一夕でできるものではない。表面上はは平気そうだったが、無理をしているのは明白で
「我々がもっと上手く対処できていれば、な。」
それは、彼らに自責の念を抱かせた。
さて、ここで場面はリアーナが騎士隊に突撃する時に戻る。
リアーナとアリス、二人は現在ヴァランクスに積んでいたバイクを降ろし二人乗りで疾走していた。
「凄いね、これ。馬より早いんじゃない?乗ったこと無いけど」
「倍は楽勝で出るぜ。気に入ったか?」
軽口を叩いていると、直ぐに騎馬の群れが見えてくる。
全員が重そうなプレートメイルを着込んで、三メートル程の長さのランス、細い円錐に短い取っ手を付けたような騎兵槍で武装している。
「しっかり捕まってな。」
リアーナは相棒に短く忠告し、M45を右手で引き抜く。
左手でブレーキをかけながら、体重移動で、転ぶギリギリまで車体を傾けつつ90度ターン。
タイヤで土を削りながら横向きに滑らせる
銃のセーフティを親指で解除して
「頭は―――――あいつ」
耳元で囁かれたその声は、アリスのもの。
彼女は左手でリアーナの腹に抱きつき、右手で一人の騎士を指差す。
そいつに向けて一発、目まぐるしく揺れる視界を物ともせずに弾丸をお見舞いする。
頭部に45口径の弾丸を受けたその騎士は後ろに倒れこんで落馬、後続が死体に足を取られて転倒する。
リアーナ達の方もバイクから離脱し、地面を転がって衝撃を散らしつつ停止した。
「無茶するなぁ」
「くははっ、ぬかせよ戦友、お前も難なく着地してたろ。」
アリスは呆れ、リアーナが笑う。
ふと騎士達の方を見てみると、横倒しに滑っていったバイクがぶつかりいくらかの馬が行動不能になっているところだった。
それを見てクスリとしつつ、膝立ちで、しっかりとハンドガンを両手で構えて、撃つ、撃つ、撃つ。
七発、つまりワンマガジンで七人の騎士を撃ち殺して、背中に背負っていたHKに切り替え。
セレクターはセーフティからセミオートに
もっとも先頭を走っていた敵がランスを構えて突っ込んできたので膝のバネを使って横飛びに回避
地面に倒れこみながらライフルを構えて、トリガーを引く。
銃声と共に飛び出した弾は、先程リアーナに回避されて通り抜けていった騎士の無防備な背中を貫通。彼は血反吐を吐いて絶命した。
そしてリアーナは横向きに寝転がった状態からうつぶせに、肘を地面に付けて銃を支え、伏射の姿勢になる。
銃を横に薙ぐように動かし、その途中でサイトが馬の足を捉える瞬間にトリガーを引いて騎士たちの乗る馬の足を撃ち抜いていく。
転倒、落馬、そして阿鼻叫喚。
ほとんどの者が馬を失い混乱する彼らに―――――――
「アリス、ぶちかませ。」
「言われずもがなだよ。」
刃側に湾曲した独特の短剣―――――ククリを腰から引き抜いたアリスが襲いかかる。
ククリは右手と、左手、それぞれ一本ずつの二刀流だ。
彼女は前傾姿勢になり地面を蹴ると一瞬で加速し、騎士達の懐に入り込む。彼らはまだランスから剣に切り替えてすらいない、内側に入り込めば―――――勝ち
「シッ――――――」
小さく息を吐き出しながら横薙ぎ一閃。
中心より少し先端側の身幅が最大になる形状という特性上、ククリは振り抜く際に大きな遠心力が作用する。
そのため、斬撃の勢いが増しつつ威力が重くなるのだ。
そのせいもあり、プレートメイルなど物ともしないとでも言うように刃が板金に食い込み、引きちぎり、騎士たちの体に深々と切創を刻む。
こうして一撃で複数人を無力化し、すぐさまその場から離脱。
ランスを棄ててロングソードを抜き、アリスを囲もうとしていた騎士達の包囲をすり抜け、一人の背後を取る
右手で袈裟斬り、左手で逆袈裟の二連撃
騎士も最初の一撃は背中に回した剣で受けたものの、腰の回転を利用した素早い切返しにすぐさま死体となる。
それを蹴飛ばして向かってきた者にぶちあて、動きを止める。
舌なめずりひとつ、地を蹴り飛ばし前方に加速、肉薄
隙を見せた敵たちの横をすり抜けつつ、右手で横薙ぎ
一片に二人の首を飛ばして、右足を軸に一回転
その勢いを乗せた左のククリでの回転斬りでもう二人
「まだまだっ!ボクを――――――もっと楽しませてよ!」
狂喜
そんな言葉を思い浮かべるほかない。
口は三日月につり上がり、目は見開かれ瞳孔が開いている。
血に狂う女剣士は、そのまま乱舞を続ける。
「ヒューッ、こりゃすげえ。」
リアーナはといえば、少し離れた場からそれを見ながら、向かってくる者たちをライフルで処理しつつ感嘆の声をあげていた。
伏射をやめて立った状態でのコスタ撃ちである
「なんだよあの動き。
援護する暇もねぇな、下手したらアリスに当てそうだ。」
苦笑ひとつ、また一瞬で騎士を斬殺した女傭兵から目を離さないままでHKを撃ち続ける。
と、運良く落馬を逃れた敵が横合いからランスによる突進で襲いかかってきたので二歩分前に進んで回避、すれ違い様に脇に二発叩き込んで仕留めた。
弾が切れかけたのですぐさまリロード
マガジンを挿入しつつひとりごちる
「…………こりゃあ、案外早く済むかもな。ん、通信?」
それは、帝国に向かわせた部隊からだった。
リアーナは農村から略奪する帝国兵を撃退する新規の作戦の報告を受領し、許可を出す。
通信が終わったら意識を切り替えて、戦闘へ集中させる。
それから、帝国の騎士部隊がすべて骸と化すまで一時間もかからなかった。
誤字報告など、読者様の支えによってこの物語は発展していきます。誠にありがとうございます。
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