功罪
ガンガンガンッ!
と村に銃声が響く。ナイフのような怜悧な目をした機械化歩兵部隊のライフルマンは前傾姿勢になりつつ両手でホールドしたハンドガンを三連続で撃ち放つ。
ターゲットは…………この村にくるまでの道中で彼自身が飲んだ飲料水の空き缶である。
軍団で使う備品の製作を一手に担う製造部、そのなかでも兵器ではない食料や日用品を専門とする民需品部門によって作られたスチール缶は憐れ三つの弾丸を受けて吹き飛んでいった。
「すっげー!!」
「かっこいい!」
彼の周囲に集まった村の子供たちが囃し立てる。そのことに多少はにかみながら構えたまま周囲を見回すと、左手で胸を押さえつつ自身の銃を太もものホルスターに納めた。
この拳銃はHK45、リアーナの使うM45と名前が似ているし同じく45口径ではあるが、別の拳銃である。ヘッケラー&コッホが開発した、ポリマーを主な材料とするハンドガンで、さまざまなパーツを組み換えて最適なグリッピングや撃ち心地を実現するモジュラーハンドガンシステムのひとつである。セミダブルカラムマガジンによりグリップを太くしないまま10発を装填できる。
「なーなー、にいちゃん。俺にもやらせてよ」
まだ12歳ほどの少年が好奇心を押さえられない様子でねだる。
危険はあるが自分が付いてしっかりと気を付ければ良いだろうと考えて、兵士はそれを快諾した。
まずは新しい缶をセット、
45口径では反動が大きいので、予備として使っているコンパクトな9㎜口径のものを使う。
「いいかい?これはとても危険な、人の命を一瞬で奪える武器だ。僕の言うことをしっかり聞いて、決して人には向けないこと。守れなければすぐ取り上げるからね。」
しっかりと釘を刺すと、根が素直な村の少年はコクリと頷いた。
その様子におもわず微笑んで、銃のグリップを握らせる。背中に回って後ろから抱き締めるような格好で自身の手を少年の拳銃を握った手に重ねる。
撃つときまで引き金には指をかけさせないよう指導しつつ、照準などは兵士の側で合わせてやる。
「周りに人はいないね。じゃあ―――――撃て」
パァーン、と村にもう一度銃声が轟いた。
さて、そこから少しだけ離れた場所では二人の男性が話し合いをしていた。
「物資の仕分けはどうなっている?」
「4割まで完了しております、少佐。」
この二人は今回の村への支援を行うために編成された部隊の指揮官クラスである。
村人との交流は兵卒に任せて、彼らは自身の仕事に勤しんでいた。
いま話しているのは自身たちのぶんの物資と村に配給する物資の仕分けについてである。
「俺はそこまで豪華でなくともよい。村人と兵士たちに優先して回せ。」
余談だが、この指揮官は自身のことよりも部隊員を優先する性分で大変部下に慕われていた。
部隊指揮官からの指示を了解した副官が退席する。
「ふぅ……………。」
少佐と呼ばれた男が窓辺によってひとごこちつく。
見てみれば、自軍の兵士が村人の力仕事を手伝ったり子供と遊んでいたりする様子が見える。部下たちははなかなかうまくやっているようだ。
彼はそれを微笑とともに眺めながら先程この村の長から聞いた話を思い出す。
それは、帝国軍の自国民に対する略奪。
前述したとおり、この世界の軍は現地調達で物資を賄う。
その物資調達をする“狩り場“はなにも森に限ったことではなく――――道中の村や集落、ときには町にまで及ぶ。それは帝国の防衛部隊が近くに展開しているこの村とて例外ではない。
村のなかを観察すると村人が痩せていることや若い女が怯えた表情をしていることがわかるだろう。怪我人の数もかなり多い。
彼らは自国の兵士から育てた麦や野菜を奪われ、虐げられ、言い聞かされているのだ。
「もし食料が無くなったら、次は女だ。」と。
少佐とてよく理解しては居た
兵士の鼓舞に略奪が有効であることは
行軍中、健康かつ屈強な兵士たちはなにかと溜まってもて余すことは
略奪時に女を犯すということが兵士のモチベーションに繋がることは
だが、それでも
「胸くそは、死ぬほど悪いよなぁ………………。」
それは、リアーナの元で教練を受けた兵士たちなら少佐と同じ感想を抱くであろう事態である。
兵は殺すことで守るために在る
そう言い聞かされて兵となった彼らからすれば、帝国の所業は理解はすれども受け入れられるものではなかった。
また、実利の面でも帝国兵にヘイトが行っているのは喜ばしく、それを倒せば少佐たちリアーナの軍は村人たちに受け入れられやすくなるだろう。
ハーツアンドマインド戦術にもってこいの状況と言える。
少佐は改めて、この村へ来る帝国兵を排除することを決意した。
……………余談だが、彼らの軍では士気については大義とリアーナの扇動術、そして与えられた圧倒的な力としっかりと整えられた指揮系統により保たれている。
行軍中のそういう欲望については、リアーナの私兵軍には男女がバランスよく所属するため同僚の兵士を誘ったり、断られた場合には売店の成人スペースで購入できる二次元表象とシリコン製の道具により発散することが推奨されていた。マンガは主にマリアがコミックマーケットに行けなくなった怨念を込めて描いていたりする。
この辺りのエピソードは書くかどうか迷ったのですが、そういうことも含めての補給は軍事においてはわりと避けては通れない問題ですし、中世ごろの(現代でも一定ありますが)戦争の負の側面のひとつとして書こうと思いました。リアーナたちの軍での対処の話しはそのあたりの重い空気を緩和してくれるといいなと……………緩和できてるかなこれ。