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帝国戦線

イタリカの辺境伯軍本陣が壊滅する数日前、帝国とタスマニアの国境に広がる森の近く。

そこにはごく一般的な農村があった。


「クソ、獲物が少ない。軍のやつらが森で食料調達してるからか………。」


森と村とを繋ぐ道を弓を持った一人の男が歩く。

彼は農村に住む狩人であり、獣を狩ることを生業として居た。

だが、その沈鬱な表情からわかる通り今日は一匹も獲物がない。

彼の名誉のためにも明記しておくと、腕が悪いわけではない。熟練の彼は普段なら兎の数羽や時には熊ですらも狩ってくる。

だが、ここ最近はなにも収穫がないということもざらであった


それは、彼らの住む国である帝国の軍が村の近くに布陣していることに関係する。


軍事のレベルが中世ごろであるこの世界の軍は保存食が発展しておらず、随伴する補給部隊は現地調達の難しい矢玉が主であり食料は現地調達、つまり森などから木の実や獣を採集するのがディフォルトなのだ。

この国境に集められているのはリアーナたちを警戒して数万単位で兵士を集めた防衛部隊、当然、森のなかは悉く狩り尽くされて森から村に供給される食料が無くなっていた。

また、これは焦土作戦…………いわゆる「敵に現地調達をさせるくらいなら先に焼き付くし奪ってしまえ」なる作戦も兼ねており、リアーナたちが帝国深部まで浸潤するのを妨害する目的もあった


ただ、悩みがこれだけなら、村には栽培している麦などもあるためまだましだったであろう、だが、そこまで甘くはない。焦土作戦における最大の残虐行為は――――――



と、そこまで考えたところで狩人は来た道を、森の方を振り向く。



「なんだ………?慣れない音と、匂いだ。」


彼は知らないがその音はガスタービンと呼ばれるタイプのエンジン(内燃機関)が奏でる騒音であり、匂いはエンジンから排気された石油の匂いであった。

道はそこここに丘が点在して波打っているため、その元となるものは狩人からは稜線が邪魔をして見えない。


そして、いよいよ音が大きくなってきたとき、それは姿を表した。


金属で覆われた数十トンの威容

その上部には回転砲塔が設置され、長く太い砲が突き出ている。


そう、それは、M1A2エイブラムス


イタリカでも活躍した、リアーナの私兵軍が誇る陸戦の王(戦車)である。


第三世代MBT(主力戦車)と呼ばれるカテゴリの改修タイプであり現代に置いても最新鋭にあたるエイブラムスは、馬車をいじったチャリオットを戦車と呼ぶこの世界の人間からすれば新種のモンスター以外の何物でもない。

農村の狩人は腰を抜かして死を覚悟した。

現在彼が遭遇したのは一台だけであるが、実はそれは先行して驚異となるものが無いか確かめに来た車両である。

それより後方、森の中では本体となる戦車、自走砲、機械化歩兵からなる大規模な緒兵科連合がこの車両からの報告を待っていた。

…………森の木を大量伐採してスペースを作ったのは言うまでもないだろう。彼らも帝国のことは責められない。


と、狩人の前で戦車が止まる。


車体に備わったハッチが開き、中から兵士が顔を出す。

得体の知れないモンスターから人が出てきたことに彼はひどく驚いたがそれは些細な問題である。


「こんにちは、我々はタスマニア王国南部、リアーナ辺境伯令嬢の私兵団です。帝国からイタリカへと武力侵攻があったため抗議(・・)のために参上いたしました。よろしければお話をうかがえませんか?」


ハーツアンドマインド、一般市民の人心掌握戦術の基本としてニコリと笑う戦車兵に、彼は汗をかきながら頷いた。


それは、いきなりの事態で深く考えられなかったこともあるが、もうひとつ

ともすれば村にふりかかる火の粉を払ってくれるかもしれないという打算もあった。



それは、悪魔に魂を売るがごとき所業かもしれない。

敵国の兵士、それもこんな理外のものを乗り回すような輩にすがるのは、恐怖もある。

だが、彼には

彼の村にはもうそれしか道はないのだ。


「あぁ、いいさ、話ならいくらでもしてやる…………だから、どうか………俺たちの村を救ってくれ。」


座り込んだまま、俯いて発した小さな呟きは―――――けれど


「わかりました、お聞きしましょう。可能な限り、私たちはあなた方を助けます。」


戦車に乗った兵士の、高精度ノイズキャンセリングヘッドセットによってサポートされた耳にはしっかりと届いていた。



そののち、男の村には対帝国緒兵科連合部隊より戦車一台、その乗員四名と機械化歩兵の分隊9人が寄越された。








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