掃討戦
リアーナたちが騎士へと特攻していったちょうどその時、先程の砲撃によって壊滅したイタリカ辺境伯軍の残党たちが傷ついた体を引摺り仲間と合流しようとしていた。
「ぐ、ぅ…………くそ。」
足を失い、ボタボタと大量に出血する彼はイタリカに住む農民だった。
徴兵により兵士となり、妻や娘を置いてこの戦場に馳せ参じたのだ。
「待ってろ………父ちゃんは………必ず…………グペっ」
そこまで言ったところで彼の頭が爆ぜる。
成したのは、リアーナの私兵によるHK417の射撃
「掃討開始、合図があるまで各員残存した敵兵力を殲滅。」
「copy」
淡々としたやり取りと共に、辺境伯軍にとっての死神がやってくる。
タスマニア王国から来たという彼らは“獣混じりのメス“なぞのために辺境と、彼らの故郷と敵対したと言うのだ。
彼らには理解できなかった
「獣混じり」や「サイクロプスの落とし子」は人ではない、悪魔の使いだ。ルタール派の教会ではいつもそのように説法されている
そんなもののために自分達が殺されるというのが、理解できなかった。
……………とはいえ、リアーナたちからすると彼らの処遇は他者に理不尽を強いたものがそれを返されているだけといえた。
「悪魔…………め。」
と、運良く軽傷であった一人の青年がロングソードを引抜き覚束無い足取りで不可思議なまだら模様の鎧を着た異形の軍隊に立ち向かう。
「一名、武装してこちらに接近。敵対行動と見なし正当防衛を行う。」
端から――――抵抗の有無など関係ないというのにHKアサルトライフルを構えた兵士はそのようなことを口走り、剣を引きずるようにしてこちらに向かってくる青年に対して銃口を向け、トリガーを一瞬引く。
ズババンッ
と残響を残しながら鳴り響いた銃声がロングソードの青年兵士が最後に聞いた音となった。
そのあとも暫く生き残った人間に止めを刺して周り、どこかと一言二言通信を交わしたあとリアーナの歩兵部隊は撤退していった。
「だず………ガッ」
死んだふりをして兵士たちの目を欺いていた男が安堵の声を漏らした直後、周辺の地面ごと吹き飛び肉片すら残さず消失する。
その直後から、あちこちで直線上に地面が土煙をあげて爆発する現象が起こり、生き残った辺境伯の兵士たちを絶命させていく。
――――――爆発の直後、地上では「ヴゥー」というような、獣の唸り声がごとき音が聞こえていた。
「bull12 guns guns guns」
「bull13 guns guns」
その音を鳴らし、地上に破壊を振り撒いたものは上空に居た。
旋回しながら間断無く機銃掃射を行うその航空機の名は、A10サンダーボルトⅡ
その二機編隊である。
サンダーボルトⅡはアメリカ軍にも採用されている世界最強の対地攻撃機で、今上空を飛び回るブル隊はその最新型であるC型を保有していた
出撃しているのはその中の二機である。
彼らの基本任務は近接航空支援、つまりは地上部隊の驚異となる目標を空から撃破することであるが、今回は敵兵の掃討に当たっていた。
使用する武装は彼らの象徴というべきGAU8アヴェンジャー30㎜機関砲
七つの砲身を束ね、それを回転させることで30㎜の機関砲としては超大口径の弾を毎分3900発という凄まじい連射速度で発射する――――死神の鎌である。
唸り声のような音は、その銃声。
これは他の戦闘機のベーシックな機関砲であるM61バルカンにも言えることだが、あまりの連射に銃声が一繋ぎに聞こえるのだ。
その威力は装甲が比較的薄い上面であればM1エイブラムスすら火だるまにすることが可能という代物、
人間相手にはあまりにもオーバーキルなそれをパイロットたちは惜しげもなく、淡々と放ち続ける。
A10の二機が弾切れになればもう一度歩兵部隊が戻ってきて各種センサーまで使用してしらみつぶしに、丹念に生存者を確認し射殺していく。
そこから地上で生きている辺境伯の兵士が0になるまで数分もかからなかった。
…………これは後に分かったことだが、奴さん帝国と通じていたらしく、今回帝国と足並みが揃ってたのはそのせいだったらしい。