その火力でもって、撃滅せよ
さーて、内燃機関が完成しましたよっと。
何度か改良を加えたらしく、わりと馬力はある。
それを使って、オヤジたちは二つのものを作った。
一つは、ハンヴィー
開発はアメリカ。
基本的に非武装の、大型の軍用兵員輸送車両だ。
汎用性に優れ、米軍が絡む扮装地帯ではほぼ確実に見かける。その見た目は平べったくてごついSUVといった感じだ。
この世界のものはジェラルミンを外装に使い、対弾性能が下手したら前世のオリジナルハンヴィーより高いかも知らん。
もう一つは、オフロードバイク。
くそ長いサスペンションと特殊なタイヤを採用してる。ゴム?油田があるのに作ってないわけないだろ?タイヤに使うカーボンは炭を大量購入して何とかした。
と、言うわけで今、俺は
「ひぃぃやっはああああああ!!」
森林に覆われた山をバイクに乗って駆け回っていた。ここは、以前モンスターを迎撃した黒の森に繋がる、そこそこ深い森を有する山だ。
何人もの領民や山越えをする旅人、そして訓練中の騎士が獣に襲わている危険な場所でもある。
さて、そんな森をバイクで駆ける俺だが、BMXであればそこそこの腕である。
シリアで会ったアメリカ海兵隊の武装偵察隊の友人からも
「お前はバイク付きでこそ真価を発揮する。俺の部隊にどうあっても欲しい」
と言われた程度にはオフロードでの運転は得意だ。
ものすごい速度で、木の根や岩を回避し、乗り越え、周囲に視線を送る。
「会敵」
そして、山も中程まで上ったところに、そいつは居た。
大きさは優に五メートル、鱗に覆われた狼のような体型の獣
この世界でガルムや鱗狼と呼ばれる肉食獣
ゴブリンやオークなんぞ一瞬で組伏せ殺せるであろう巨躯と膂力のそいつを、俺は
「交戦開始」
今回の獲物に定めた。
ワンアタックで仕留める。手負いのこいつらは糞ほど厄介だししつこく復讐しに来るからな。
バイクを吹かし、全速力ですれ違う刹那、ブレーキを効かせて停車し、ケツをとる。
こちらを振り向くまでの間に、背中に背負ったHK417を取り出しグリップのすぐ上のセレクターを安全状態からフルオートに切り替え、銃床に肩、頬を密着させる。
そして、バレルを覆うハンドガード、ピカティニーレールが付いたそこをしっかり握りこむ。普通の、ハンドガードには手を添えるだけの持ち方とは少し違うこのコスタ撃ちと言われる構えは、ぶれにくく、素早く構えられる上、取り回しやすい。
すなわち、今みたいな
「森のなかで素早くかつ確実に相手にアサルトライフルの弾丸を叩き込みたい時」
にうってつけの構えである。
俺は慣れ親しんだその構えを確実にこなし、HK417のアイアンサイトを鱗狼の胴体、心臓部に合わせる。
そのとき、そいつがこちらに向き、鱗を逆立てて咆哮した。
威嚇行動だ、野生の獣というやつは体を大きく見せて相手に警告する
目があったのは、一瞬とすら呼べない短い時間。
その威嚇が仇となって、相手は俺に対して無防備な姿を見せつけている
狙うにはうってつけだ。
「byeーーーーーbye」
俺はポツリと呟いて、トリガーを引く。
ドッ!タタタタ!!
轟音とともにフルオートで撃ち出された7.62㎜NATO弾は一秒トリガーを引きっぱなしにするだけで十発が銃口から吐き出される。
グチャグチャと湿った音が辺りに充満する。俺が放った鉛の礫が獣の肉体に着弾する音だ。
そうして銃声と肉がえぐられる音を奏でて、マガジン内を撃ち尽くすまで撃ったあとに射撃をやめる。
「ヴオオオオオ……………」
顔面と脳幹を大口径のライフル弾によって食い破られたそいつは、それでも最後の力を振り絞ったのだろう。
苦しそうにうめいてから、果てた。
――――――ここまでで、会敵から十秒あるか否か。正しく瞬殺である。
「熊撃ち用のライフルの口径がこいつと同じ7.62、普通のヒグマの1.5倍のデカさとはいえそいつを数十も食らえばさすがに殺しきれるか。」
野生動物の生命力は凄まじい。
ヒグマなんかは心臓をライフルで抉られても100メートル全力疾走できるほどだ。
しかも、ガルムはその固い鱗と分厚い頭蓋骨のせいで弾が通りにくいと来ている。
そりゃあ念を入れてワンマガジン叩き込むって、俺も。
俺は空になったマガジンを弾が満タンに詰まった予備のものに取り替えると、死んだふりをしていないか確かめるために2、3発目玉に撃ち込む。
反応はない、さすがに死んでいるようだ。
腰からコンバットナイフを引き抜くと、手早く鱗の薄い喉をかっさばき血抜きを終わらせ、爪やら肝やらの高価な部分だけとりあえず確保してバイクに積み込んだ。全部はさすがにのらねぇよ、こんなでかぶつ。後でオヤジ達にも協力して取りに来てもらうから待っててくれや。
大物を仕留めた高揚感を胸に、俺は帰路を急いだ。