中世 対 現代
通信端末に表示された航空機からの偵察映像を見ると、どうやら敵は俺たちから2キロの地点でヴァーゲンブルグによる簡易防護陣地を構築しているようだった。
ヴァーゲンブルグは装甲によって守られた兵員輸送用馬車で、戦場においては馬を外したそれを並べることで防壁のように使うことができる。
辺境伯軍の装甲は金属でできており、俺たちのライフルであってもあれを貫徹して向こうの敵に致命傷を与えるのは難しいだろう。
だがまぁ…………不運なことにこの戦場には鉄製装甲なんぞ紙のようにぶち抜く陸戦の王者が居る。
「戦車隊、目標正面敵装甲馬車並びに防護陣地。弾種はHEAT。」
「copy」
俺と戦車隊隊長との簡潔なやり取りから数瞬遅れて、作戦に参加している約50台の戦車の半分、25台の戦車が砲撃を行う。
敵との距離は1500メートルほど、
俺たちのM1エイブラムスの火器管制システムは2キロ先で走行中のトラックに百発百中で当てられる性能だ。外すことの方が難しい。
飛翔した砲弾はすべてが相手の防御陣地に突き刺さり、高性能爆薬による成形炸薬がメタルジェットを形成。
易々と馬車の装甲をぶち抜いて向こう側の敵兵達を金属片で千々に引きちぎり、灼熱の地獄に叩き落とした。
運良く………運悪く生き残ったのだろう、フラフラと馬車の影から大火傷を負った敵兵が何人か出てきて白いハンカチを降ろうと取り出す
それを振る前に、俺は
「アリス。」
「はいはーい」
一言名前を呼んだだけで全てを理解した彼女は、後部座席に滑り込むように移動し、ヴァランクスのハッチから身を乗り出して天井に備え付けられた50CALをフルオート射撃。
降伏しようとした敵兵をそうはさせじとばかりに撃ち殺していく。12.7×99㎜の大口径弾を腹や頭に食らった兵士達は体を爆ぜさせて断末魔をあげる間もなく絶命――――――苦痛が無駄に長引かずに済んで感謝してほしい。―――した。
……………事前に撃ち方を教えただけでこれだ。
こいつの才能にはゾッとする。
「リアーナは容赦ないなぁ、降伏すら許さないなんて。」
クスクス笑いながらアリスが話しかけてくる。
「降伏されたら捕虜にしなきゃいけないじゃん?養う飯や治療する薬が持ったいねぇし聞きたいことも特にねぇもんよ。」
そう返してやると肩をすくめて呆れたような仕草をしてきた。
本心ではわりと共感してそうだけどな、コイツ。
じゃなきゃあんなふうにすぐに意図を察して撃たないだろ。
「敵装甲部隊壊滅。戦車隊は停止せよ。30分後にパラディン砲撃開始。」
「FOから火力指揮所、敵主力はグリッドフューリー―25に集合している。観測射を求む。」
通信による指示と同時に俺も車を停止させ、エイブラムスも横一列でピタリと止まる。
それを見た敵兵はどこか安堵した様子で新たな装甲馬車とカノン砲を用意し始めた
間抜けめ、地獄はここからだぞ。
と、指示を出してからきっかり30分とすこし、キュルルルルルっというような風切り音が上から聞こえて、直後に前方で爆発が起こる。
「初弾夾叉、緒元修整、効力射。」
そんな声が通信機から聴こえ―――――――また、風切り音。
次にまき起こったのは戦場全体を覆うような広範囲の爆炎だ。
「わぁ、すごい。どこからきたのあれ?」
155㎜の砲を持つ自走砲、M109パラディンによる砲撃。
初弾で精密に命中させるには数キロまで近付かなくてはならないが、精度無視で広範囲を吹き飛ばすだけならば30キロ先からでも砲弾を届かせられる。
最初の位置から移動せず待機し、俺に指示された時間通りに、まず数発射撃、その着弾のデータを元に照準を調整し一斉にその砲を撃ちはなったのだ。
この砲撃により射程一キロのカノン砲も、鋼鉄の装甲馬車もすべて破砕され、残ったのは爆発の熱と飛び散る破片によって瀕死になった歩兵、そして後方で控えている予備部隊のみとなった。
「偵察部隊からHQC、我々の軍の左翼に敵部隊が展開中、数100、距離3キロ、重装騎兵です。」
と、偵察部隊からそんな報告をされた俺はA10により攻撃を行おうとして…………やめた。
「copy 騎兵部隊はこちらが対処する。機械化歩兵部隊はグローバルホークによる効果判定ののち突撃、敵主力の制圧を行う。航空部隊はその支援につけ。」
せっかくここまで来たんだし、遊んでいきたいよね。
アリスだってさっきちょろちょろ撃った程度じゃつまらないだろうし。
「copy 武運を祈る。」
偵察部隊からの返信を聞いて、ヴァランクスのハンドルをきる。
歩兵戦闘車や車両で構成された歩兵部隊は指示通りに先程砲撃された地点に向かっているようだ。
それを横目で見ながら俺が目指すは騎士の群れ、久々の大規模直接戦闘のお時間だ。
「相手には弓とかの遠距離武器はない。接触直前で降車して俺が射撃で蹴散らす。その後でアリスがつっこめ。」
「了解、ワクワクするね。」
二人で笑みを交わしてアクセルを踏み込む、あぁ、待ちきれない。
2対500
絶望的な数の差を覆す、圧倒的な理不尽。
それを俺が見せてやる。