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Encounter

ワイバーンの速度は速い。

伝令に早馬を使うこの世界では前哨基地からここに伝達が来るよりも早く竜が襲ってくる。

なので公爵どのは俺たちがワイバーンを撃滅したことを―――――いや

竜がスタンピートを起こしていたことすら知らなかったのだろう。

俺らを貴族令嬢の儀仗兵かなにかだと思っているらしく、心配げな顔をしていた。

…………そんな公爵と別れ、俺たちは車を駐車した場所に向かう。

そこではウチの兵士たちが慌ただしく走り回り戦車や車両に給油をしたりと出撃の準備を進めているんだが


「見慣れないやつがいるな。」


「服装が戦闘服とボディアーマーではなく皮鎧ですか…………公爵の雇った傭兵でしょうか?それにしても装備が地味ですが。」


俺たちの乗ってきたヴァランクス()の近くで粗末な皮鎧とフードつきのケープ、腰に独特な形の刀剣を提げた人間が車内を覗き込んでいた。

不思議なものを観察するようすで車の周囲をグルグルするソイツは、体のラインからして女だ。

フードのせいで顔は見えないが、スタイルはそこそこ良いな、俺には胸の大きさでも括れでも負けてるが。

とはいえ


「かなりやるぞ、あいつ。歩行時の姿勢にブレがない。

体幹やバランス感覚がしっかりしてるんだろう」


その動きを見ただけでわかるほどにそいつは洗練(・・)されていた


「歩き方も武人特有のそれですね。なるべく地面から足を離さないように、近くに来た兵士たちにも反応しています。」


アンがそう評したとおり、そいつは細やかな動きに至るまで効率的で、戦闘に最適化されていた。

背後をウチの兵士が通りかかった時なんか一瞬手が腰の剣に向かって動こうとしてるし。

車に気をとられていても周辺の気配をしっかりと掴んでるのか、すげぇな。

そんなことを思いながらそいつを見ていると


「そこのお二人さん、ボクのことが気になるならそんなとこでコソコソ喋ってないで直接話しかけてくれれば応えるんだけど?」


なんと、あちらさんから話しかけてくださった。

声は押さえていたはずだが……………地獄耳だな。


「ははっ、わるいわるい、あんまり俺らの車を楽しそうに見てるもんだから邪魔したら悪いかと思ってな。」


俺は軽口を叩きながらその剣士に近づく。もちろんアンもそれについてくる。


「これ、君たちのなんだ。始めてみる感じの馬車だけど、馬はどこ?」


フードから見える口元が三日月形に変わる。

綺麗に笑うなぁ。


「馬は使わない。こいつ単体で動くんだ。」


ケープの女は俺の言葉に驚いたように息をのみ、説明を求めてきた。

俺たちのアドバンテージである知識の独占を維持するため、さすがに内燃機関の詳しい構造を教える訳にもいかないが話せる範囲で話してやると嬉しそうに聞いていた。


「いやぁ、興味深い話をありがとう。あ、そうだ、名乗りが遅れたね。ボクはアリス、団に所属せずソロでやってる傭兵だよ、今回の戦では君たちと一緒に戦場に出ことになるから、その時はよろしくね。」


彼女はそう言ってフードを取る。

出てきたのは、大降りなたれ目にふわふわとしたストロベリーブロンドの髪

研ぎ澄まされた武人そのものな動きや雰囲気に反した、ともすれば庇護欲をそそられるような可愛らしい―――――どこか見覚(・・・・・)えがある顔(・・・・・)だった。



「あぁ、こちらこそ宜しく。アリス。」



少しの違和感を覚えながらも、俺は心強い戦友となるであろう彼女ににこやかに微笑んだ。



そうして暫し新しい戦友と雑談を楽しんでいると、そこに通信が割り込んでくる。



「対辺境伯軍部隊よりHQC、全車両、全兵員出撃準備完了。許可を待つ。」


おぉ、給油や整備が終わったようだ。

今回、アンはここの砦で防衛部隊の指揮を取りつつスフォルツァ公爵達要人を警護。俺は前線に出張って直接敵軍を壊滅させる予定になっている。

なので、俺はメイドと一言二言会話を交わしてヴァランクスに乗り込む。彼女の方はは砦の中へと仕事をしに入っていった。



「アリスもこっち乗るか?徒歩じゃ付いてこれないだろうし。」


「いいの?」


いいもなにも、ここで完全に離れてしまうと連携が取れなくなる。

馬なら俺たちを追走することもあるいは可能かもしれんが、アリスは装備からして安価な皮鎧、そんな高価なもの持ってなさそうだし。

徒歩だと俺たちから死ぬほど遅れて到着することになる。

そうなると


「俺たちの戦闘は戦場全体を吹っ飛ばすのが基本だからな。下手なタイミングで介入されるとアリスが出てる間は攻撃できずにダメージを与えるチャンスを逃したり、最悪お前を巻き込んで殺しちまうかもしれん。」


アリスは驚いたように目を開いて、

「わかった」

と言いながら車に乗り込んできた。

ドアの開け方教えてないのに普通に乗り込めたってことはさっき俺が乗り込むとこ見てたな。抜け目がない。


「戦場全体を攻撃なんて、ブリタニアの宮廷魔術師団でも無理なのに……………まるで神話だね。その話は本当?」


俺はマジだよーと軽い感じで返しつつふと思い出したことを整理する。

ブリタニアって言ったら、うちの国がある大陸の近くの島国だ。

もともとは島の中に何ヵ国かが集まっていたが、侵略によってひとつの国に纏まった。他の国にはない魔術師団があり、儀式と契約により超常の力を使えるらしい。

タスマニアン・ラプソティーではそこからの留学生も攻略対象だったはず、そいつはブリタニアの貴族で、魔法が使えた。


「まぁ、実際どんな感じかは見てのお楽しみだな。」


アリスの強さも、俺たちの戦闘を見せたときの反応も、今回の戦闘は楽しみなことが多いね。


にやにやとしながらエンジンをかけて、アクセルをふかす。

ディーゼルエンジンの振動とともに景色が後方へと流れていく。

ふと後ろを見てみると、俺たちの乗るヴァランクスの後に戦車や自走砲、汎用車両が群れを成して追随してくる。


ワルキューレの騎行だ。



ふと、そんな言葉が胸中に浮かんだ。

どんなに数を揃えても剣や槍では貫けない

騎士の誇りも、鍛えた武勇も、すべてを打ち砕き嘲笑する軍勢は、いま、

戦場に威容を表す。


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