fox3
イタリカとロマーナの間に挟まる海の上。
帝国内全体から根刮ぎかき集めたかと思うような大量のワイバーンが飛翔していた。
後ろから迫っていた竜騎士はすでに離脱している。
その数―――――200
ドラゴンこそ居ないものの、広大な帝国からかき集めるように誘導してきただけあってとてつもない数である。
「ドラゴンこそいねぇがあのときの焼き増しみてぇだな。」
苦笑いしながらリアーナが言う。
アデリーナの領地に設営した拠点のモニターには、前線の部隊から送られてきた画像が表示されリアルタイムで戦場の状況が手に取るように理解できる。
それは、まさしく竜の雲
十五メートルクラスの個体もちらほらと見え、空を巨体が覆うように迫ってくる。
「……………っ」
この領地を治める公爵の娘であるアデリーナはその光景をモニター越しに見て唇を噛む。
彼女は、以前にもワイバーンのスタンピートを経験している。奇しくもその時領地を襲ったワイバーンは、ドラゴンと合わせてであるが約200
今回の帝国による人為的スタンピートと同じような規模であった。
「フラッシュバック………あの時のことを思い出して辛いなら無理しなくていいんだぞ?」
リアーナが特に表情を出さずに話しかけるが、アディはそれを首をふって拒否する。
「乗り越えたいの……………。今なら、貴方たちもそばにいるから、なんとか耐えられる。」
絶対的な信頼に足る戦力、それが側にあることは安心感を生んだか、領地が竜たちに踏みにじられる地獄のような光景のフラッシュバックにアデリーナはなんとか耐えることができていた。それでも、無理をしているのは明白だが……………。
「OK…………。んじゃあ手早く終わらせよう
―――――――状況開始」
そうして放たれたリアーナの号令により待機していた部隊が動き出す。
今回のワイバーン撃退はリアーナは参加せず、出番は少し後になる。
地上に降りていればともかく、高空を飛ぶ彼らに対してはリアーナよりよほど有効な部隊が居るからだ
すなわち
「タイタン13からHQC。タスマニア本部基地より到着した第01戦闘航空団の戦闘機部隊を迎撃に当たらせる。コールサインはヒドラ隊、繰り返す、019戦闘航空団戦闘群第1飛行隊ヒドラ隊。」
戦闘機を指揮する管制機からの通信によって知らされた、ヒドラ―――神話の多頭蛇にして不死の怪物の名を与えられた戦闘機部隊。
その、隊長をつとめるは
「Hidoraquarter to HQC mission started―――――久しぶりだな、お嬢。」
「頼むぞ、オヤジ。」
そう、以前にもワイバーンを撃退したオヤジことリアーナの軍のエースオブエースである。
以前はウルフ隊の名称を与えられていた彼の戦闘機隊は編成が見直され、新たな機体を受領していた。
「せっかくおニューの機体をぶんまわせるチャンスなんだ。使ってやらなきゃ損だろ?」
くつくつと喉を鳴らして、彼が駈るのはF2と呼ばれるマルチロール機。
F16ファイティングファルコンライクでありながら機体設計の変更により低空低速域での運動性はオリジナルを凌ぐ。
格闘戦により適した機体と言えるだろう。
また、この機体は改修に改修を重ね、素材の見直しによる一定のステルス性向上とHMD使用による側面、背面へのミサイル攻撃
そしてエンジン換装とエルロン、アクチュエーター改良による運動性向上まで行われる徹底ぶりである。
また、本来対鑑攻撃用に重量のある対艦ミサイルを四発積めるというペイロードはそのままに、火力的にも増大している
さらには、この機体………というよりリアーナの空軍の戦闘機にはある特別な機能が実装されていた
ヒドラ部隊はそんなF2改修型20機による部隊なのだ。
そんな彼らはまず高度を上げて上空に占位すると
「Hidra1 fox3 fox3」
「Hidra2 fox3 fox3」
各員がそれぞれにワイバーンをロックオン。
データリンクによって各機重ならないように目標が割りふりされたそれに向けてAIM120空対空ミサイルを一斉に放った。このミサイルは射程150キロを越えるだけあってリアーナへ通信が入ったときにはすでにロックオン済みであったのだ。
さらには速度はマッハ4、慣性航法とGPS、そしてミサイル自身のレーダーを併用した高性能誘導装置を備え、高機動を誇る空対空ミサイルの追尾はいかなワイバーンと言えど逃げることなど不可能。
ヒドラたちは二回に分けてそのAIM120をワイバーンたちに全弾撃ち尽くした。
ドゴゴォッ―――――
と、空中に爆炎が咲き乱れる。
近接信管により竜たちに到達、接触する寸前に炸裂したミサイル群の破片が竜たちの羽根を、頭を、体を、ズタズタに引き裂き焼いていく。
衝撃派により吹き飛ばされたものも、バラバラと血肉を海へと降らせる。
「ギャッ」
「ヴァァッ!」
混乱の極みにある竜の群れへ、さらに追い討ちがかかる
ヒドラ隊による赤外線、画像併用型追尾式ミサイルAIM9サイドワインダーによる第2波攻撃だ。
またも各機4発ずつ、そのすべてを放っている。
ただでさえとんでもない運動性のサイドワインダーを冷静な判断ができないところへ撃ち込まれてかわせるはずもない。
ワイバーンたちはさらに数を減らして残りは50もいない状態に追い込まれた。
が―――――彼らの悪夢は終わらない。
「Hidra quarter cloud shooting fox2」
隊長のコールに合わせて、隊員たちがコクピットにあるパネルを操作。そののちにロックオンを行いつつ、自身から右側にある操縦菅に取り付けられたミサイルの発射ボタンを押す。
すでにAIM120もサイドワインダーも撃ち尽くしたというのに、なぜ
――――――その答えは、隊の後方から駆け抜けていったAIM9が証明してくれた。
クラウドシューティング
これは自機がロックオンした相手を僚機が攻撃するという連携システムである。
この応用により、有人機がロックオンした敵を後方を飛んでいる無人機がミサイルで攻撃するといったことも可能となる。
ちょうど、今のように。
そう、ヒドラの後方にはサイドワインダーを装備した無人戦闘機FQ58ヴァルキリーが編隊を組んで飛行していた。
先程のミサイルは彼らが放ったものというわけだ。
このヴァルキリーは小型かつ高ステルスを誇る無人機で、対空中戦向けに設計、プログラミングされている。
もともとはアメリカのXQ58という試作機だったのだが、現実のそれは空中戦に耐えるほどの性能はまだない。
リアーナ達の兵器作成技術とマリアのプログラミングによってやっと実用化できた代物だ。
とまれ、この攻撃により残っていたワイバーンも一瞬で潰滅。
リアーナたちは初戦で制空権を手にいれたのだった。