軍勢は踏みつけ進む
翌日にはマリアはイタリカ王と話を纏め、ワイバーンの襲撃を防ぐ代わりとして辺境領との戦争を黙認する確約を取り付けてきた。
また、それと並行して国内外のカルバン派を信仰する有力者を利用して圧力をかけさせたとかなんとか言っているが、いつのまにそんなコネクションを築いていたのかと空恐ろしい限りである。
「あ、と、開拓に、向かない、土地を、いくつ、か。」
「OK、エクセレントだ。でかしたぞマリア。」
妹はそれだけでなく、彼らにとっては価値の低い土地を頂く契約もとりつけたらしい。
食料を育てにくかったり獣が出たりで開墾に向かないという土地はどの国でもあり、そういったところをもて余しているのが現状だ。
俺たちならば有効に活用できるそこを頂くことで皆が得をする素晴らしい契約である。
………………俺たちがうまく利用できることを示した瞬間にイチャモンつけてこられそうではあるが。
まぁ、人員も増えてタスマニアのみで基地を賄うのはきつくなってきたし、そろそろ国外にも部隊を駐留させる時だと思ってたので正直たすかる。
揉めたら潰せばいいしな。
…………マリアには後でご褒美をあげないとなぁ。なにがいいだろうか。
そんなことを思いながら、セッティングが完了したステージに上がる
「傾聴!」
自分の怒号が丘にこだまする。
ここはイタリカ王国北部から中部にかけて広がる大平原
アデリーナの領とルーが暮らしていた領地のちょうど境目にあるそこは、今回のイタリカ辺境領との戦の戦場として指定された場所である。
俺はこの平原に兵士たちを集め、戦闘前の演説を行う
こういうのは指揮官の醍醐味だよね。俺は前世までは聞く側だったが。
「諸君の今回の敵はワイバーン、イタリカ辺境領軍の二つの集団、さらには帝国では我らが同胞が精強なる帝国軍との戦闘のために息を潜めて時を待っている!」
三つの敵。
孤児上がりが大半を占めるうちの軍では向かい合うことすら考えてこなかっただろう敵
「三正面だ!我々は三つの敵に一つの軍勢として挑まねばならない。しかも、戦場はそのことごとくが帝国に、イタリカ辺境領――――――――敵の本拠地だ。」
こちらの兵力は分散され、さらには三つすべての戦場がアウェイという本来なら絶望的な状況。
「敵は合わせて万を下回ることは無いだろう。また、ワイバーンという人間を一飲みにする怪物まで我々に牙を向いている。」
多勢、かつ、質も良いという強力な敵たち。
この世界の普通の軍隊なら負けて当然の相手に、なれど兵士たちの目に映るのは恐怖でも悔恨でもなく―――――――憐憫
敵への、哀れでしょうが無いという感情。
「あぁ、だが、そうだ。諸君らは正しい。諸君らの思う、敵が可哀相だという感情は、全くもって正しい。」
不適な笑みで宣言するは
追認。
敵が可哀想だ?
あぁ、全くもってその通りだ
と
断じるそれは驕りでもなく、油断でもなく
端的な事実の提示。
「なぜなら、我らは強いからだ。
この世界がすべて束になっても叶わない程に。
俺が課した訓練が、
俺の妹が与えた知識が、
開発部の連中が作った兵器の数々が、そしてなにより
―――――諸君らの熱意と銃を取った決断が諸君を強くしたからだ。」
言葉に熱がこもる。
彼らはここまでよくついてきてくれた
地獄のような訓練を抜けて、兵士として精強と言えるまでに育ってくれた。
その彼ら一人一人が、俺の力の源泉となる。
「敵には地の利がある?
空を飛ぶ我々に地上での利など塵ほどの影響もない。
敵には数万の数がいる?
我らが軍勢には200万の兵と800万の同胞がいる。
敵にはワイバーンがいる?
戦闘機も対空火器も揃えた我らにとっては七面鳥と大差はない。」
敵対者への嘲笑を含めたいやらしい笑みで兵士たちに告げる。
「諸君、諸君らは俺の兵士だ。俺の軍に属する
――――俺の同胞たちだ。
俺の目指すものは世界平和ただひとつ。
その為なら脅し嬲り叩き殺し拐かし売りさばき、なんでもする。今回もそうする
同胞諸君
君たちは俺についてきてくれるか?
俺の
俺の理念に命を捧げてくれるか?
もしそうしてくれるならば俺は約束する。
諸君の勝利と
諸君らの同胞、家族、友、恋人たちの安寧を。」
俺のストレートな誓願は、はたして
ザンッ
と軍用ブーツを踏み鳴らす音が鳴るほどに規律正しく成された敬礼によって返ってくる。
兵士たちの目にはギラギラとした光が点り、熱を放つ。
「………………素晴らしき返事をありがとう、では」
兵士諸君、君たちが望むものでもってお返しとしよう
つまり
「殺戮のお時間だ。」