ルー
「如何ですか?ルーさん。」
HMDシステム付きのオプスコアヘルメットにボディアーマー、HK417で身を固めた男が傍らの少女に声をかける。
彼の名はマイク、リアーナたちが以前にエールを買いに旅行に行ったときに運転手をした歩兵部隊の隊長である。
そんな男の問いに、狼のような耳と尾を持った少女―――――ルーは震えた声で答える。
「こんなの…………ありえない。」
彼女たちが居るのは飛行中のヘリの機内。
機体はルーの村の近く、村が砲撃を受ける様を観察できる位置でホバリングしている。
ローターのダウンバーストと砲撃着弾の音は大きく、本来なら普通の声量では会話相手の声など聞き取れないほどである。
しかし、ルーとマイクの頭と咽頭にはリアーナの軍で開発した高精度ノイズキャンセリング機能つきマイクセットが取り付けられて明瞭な会話を可能としていた。
「村が…………焼け………ううん、塵になって吹き飛んだ…………。」
冷や汗とともに喘ぐように吐き出された言葉は、兵士の頬を緩ませた。
「これが我々の軍の力です、これでも全軍出撃させた火力には遠く及びませんが。」
自慢げに、玩具を見せつける子供のような表情で大の男である歩兵隊長が放ったそれはルーをさらに驚愕させる。
これでも、まだ全力ではないと。
そんなことはあり得るものなのだろうか?
「絶対だと………思ってた。」
納屋の中が、そして村の中が彼女の“世界“だった。
村人たちは彼女にとって絶対の強者で
怖く
逆らえないものだった。
それが、いま
こんなにも容易く壊れていく。
怖い――――――
少女の身体が震える。
絶対だと思っていた“世界“が、こんなにもあっけなく散り散りになっていく。
例えそれが自らを傷つけてくるような世界だとしても、恐怖が体に染み込んでくる。
そんなふうに精神を揺さぶられたルーは自らの肩を抱くように縮こまり震える
と――――
「大丈夫ですよ。」
ふと、マイクから優しい声音で話しかけられる。
「リアーナ司令や、マリア様………それに自分達は貴方の味方です。貴方の敵には我々が鉄槌を下す、我々は貴方の傍で貴方を守ります。
だから、大丈夫。」
この強きものたちは君のそばに居ると
この力は君の敵に向くものなのだと
理解させるような―――――甘い言葉。
ルーの心に新しい世界がインストールされる。
「…………つっ…………。」
唇から血がにじむ。
これからは虐げられることはないと、わかったから。
本当の意味で、今、理解してしまったから。
両親が死んで、いつだって自分の周りは敵だった。
村人に殺されかけ、迷いこんだ森で獣に食われかけ。
味方であった両親すらも何ともならない村の現実に、彼女を閉じ込め隠すしかできなかった。
今、それがひっくり返る。
世界が敵から味方に裏返る。
その感覚は幼いルーの心を蕩けさせていった。
代償は大きかった。
愛する両親のことはきっと死ぬまで忘れられない
でも、
――――――――これからは彼らが居てくれる
ポロポロと、大きな紅玉の瞳から涙を流してルーは泣き続けた。