狂信者の所業
今回はストレス回です。
ルーがいかにして村人に虐げられたかを描写します。
わたしはルー、イタリカ王国のとある村で産まれた。
わたしが物心ついたとき、両親たちは私をかたくなに外に出そうとしなかった。
それは、わたしの産まれた村………ううん、領地がわたしのような“異端“を受け入れてくれなかったから。
特異な見た目から娘が迫害されることを恐れたお父さんとおかぁさんは人目につかないように納屋に徹底的に隠した。
それでも、わたしは幸せだった
両親はこんな自分を愛し、慈しんでくれた。
ケダモノを思わせる耳を、尻の尾を、かわいいと言ってくれた。
叱るときには叱り、誉めるときには徹底的に甘やかしてくれた。
閉じ込められたのだって私のことを思ってのことだとわかっていたし、納屋でじっとしている私を見るたびに苦しそうな顔をして、抱き締めながらごめんね、ごめんねと繰り返していたから恨むことなどできなかった。
そんな人達に囲まれた私は自由は無くても満たされていた。
なのに、あの日
私の居る納屋に村の子供が入り込んだあの日
全てが狂った。
私を見たその子は驚いて悲鳴をあげるとすぐに逃げ出した。
なにも知らない私は心配して
「大丈夫!?」
と声をかけたけど、それは逆効果。
「バケモノに殺される!助けて!」
その子が放ったその言葉は今でも私の心に残り、ぐじぐじと膿を残している。
そこからはあっというまだった。
村の人達が押し寄せてきて、父さんと口論になり
―――――――父さんは村人の包丁で刺し殺された。
私を抱き締めてかばってくれた母さんも鍬や鋤で刺されて
「逃げて………………っ!」
口から血を吐きながらそう言い残して果てた。
私は母さんの腕から抜け出して無我夢中で走った。やつらの放つ矢が飛んできて何度も刺さりかけた。
彼らを降りきるために森に入って、歩き続けた。
裸足の足が石と地面に落ちた小枝でボロボロになりながらどれ程の時間が経ったかもわからないくらい歩き続けた。
獣の出る森でいくらかの夜を過ごし、飢えと乾きに苦しんでいたときその音は聞こえてきた。
「みずのおと……………。」
川がある、乾きを癒せる。
頭のなかが一瞬でそれだけになって、森からでようとした。でも
人の声がする。
村人に親を殺され追われた記憶を思い出して足がすくむ。
と、声の主がなにやらこちらに呼び掛けて手にもった筒をならした。
根元的な恐怖を掻き立てる轟音と閃光、そして相手はこちらに気づいているという事実。
わたしに選択肢はなかった。
そうしてその人の前に姿を表すと―――――――
「ん…………。」
朝日で目が覚める。
どうやら私はあの人達に拾われて、彼女たちのうちで眠っていたようだ。
本当に訳がわからない。
村から追い出されて森を歩き続けて、川で出会った人に拾われて
「でも…………やさしかった。」
お風呂に入れて貰ってフカフカのベッドで寝かしてくれた。
お風呂ではとっても可愛らしい女の子がかわいいかわいいと私の耳元で囁きながら頭や、異形の尻尾をフワフワになるまで洗ってくれた。
ちょっとだけ目付きがやらしくてこわかったけど…………。
つ、と頬を涙が伝う。
まさかまたこんな風に愛してもらえると思わなかったから。
「んぅ?ないてる、の?」
ベッドがもぞもぞ動いて声が聞こえてくる。
うわ、ビックリした。
「だいじょう、ぶ?」
そういってマリアさんが布団の中から出てきた。
この人は昨日わたしを洗ってくれたひとなんだけど
い、一緒に寝てたんだ。いつの間に入り込んだんだろう。
「う、うん大丈夫…………あの」
「ん?どう、か、した?」
彼女はこてん、と不思議そうに首を傾げる。
うぅ、そんな姿も可愛い。
「ありがとう…………ここまでしてくれて。」
「ん。」
わたしが言ったお礼にマリアさんは短い言葉と微笑みで答えてくれる。
うぅ、本当に、胸が苦しくなる。
………………もう、失いたくなくて。
「まって、て。おねぇ、ちゃんに、伝えて、くる。」
優しく頭を撫でられて囁かれる。
ぞくぞくする…………。
「う、うん。」
そしてわたしはそれからさらに驚かされることになる。