裁くは強者にあり
いろいろと話しているうちに獣少女は自身をルーと名乗った。
うん、こうやって名前を教えてくれるということはそこそこ打ち解けてきたということだな、よきかなよきかな。
そして、俺たちがルーと出会った翌日にはAGCの部隊から証言内容の裏付けがとれたとの報告が上がってきた。
村の人数は234人、今は村外に出掛けているものが5人いるのでそっちもひとりひとり監視しているらしい。
仕事早ぇー。
俺、アディ、マリアの三人はアンの給仕でランチを取りつつ作戦を練ることにした。
ルーはまだおねむだ、よほど疲れてたんだなぁ。
「砲弾なり爆弾なり落としゃ一発だろ。そのあとで逃げたやつや残ったやつは特殊部隊と一緒に俺が狩る。」
「ケモミミ、たん、の親を、殺した、人達、は?」
「そちらは先に確保しておいてルー様に直接殺させて差し上げては。」
「貴方たちわりと容赦ないわね…………。」
こんな感じで会議は進み、今回の作戦内容が決まった。
まずはルーが直接恨みを抱いているであろう何人かの村人をAGCの部隊が確保する。
そしたら村をまるごと徹底的に爆撃、いや、砲撃する。
逃げ出した村人は各種センサーが充実した無人偵察機で捜索して草の根分けてでも探しだし、捕縛あるいは殺害。
一連の流れは全てルーの目に入れるようにする。
復讐相手の惨たらしい死に様は彼女の濁ってしまった心を幾ばくかは浄化してくれるだろう。
そして、最後に
「アンの言うとおり、直接恨んでる相手だけは自分の手で殺さなきゃ気がすまねぇだろ。捕縛したやつらはルーが望むならあいつに殺らせてやろう。」
あの子自身の手でカタをつけさせる。
それがスジだ。
と、あと方付けなきゃいけない問題がひとつ。
「アン、たしかうちの軍には聖十字教ルタール派の信者やそれに近しい価値観のヤツって居なかったよな?」
「おりません、タスマニアでは西部の教皇領以外はカルバン派が主流でございますので。
マジェスティがご心配されているようなことは起こり得ないかと。」
エクセレント。
俺が懸念していたのはそもそもうちの兵たちは村人とルーどちらに肩入れするのかということだ。
もし兵士の中にルーを迫害したやつらのようなルタール派の信者などが居たらそいつは不穏分子になりうる。
つーかうちの軍では一部の宗教への入信を禁じようか、宗教は他者への危害を肯定した途端に狂うからな。
前世でもさんざんあった、カトリックによる異端審問や…………イスラム原理派、カルトによるテロみたいに
宗教戦争やら過激派のテロのせいでそこらにぶちまけられた無辜之民の臓物を片付けるのは前世で腹一杯だ、もう二度としたくねぇ。
「じゃあ作戦参加部隊には事情を全て知らせてから開始しよう。
自分達が殺す相手にはなるべく嫌悪と殺意を抱いていた方がいい。」
罪無きものを殺すのと自らが悪と思うものを殺すのなら後者のがメンタルへのダメージは遥かに軽い。
幸いうちの兵士は狂った宗教に入信していないらしいのでルーの境遇を知れば彼女に同情し村人へはきっちりと殺意を抱くだろう。
「それがよろしいかと。AGCのオペレーターたちも事情を知って村人たちを早く殺させろ、肉を削がせろと言っておりましたし。」
アンがそんなことをシレっと報告してきて、アディの顔がピシリと凍る。
おーう…………予想以上に効果覿面なようで。
「よし、そんじゃ作戦を始めよう。」
正義を担保するのは強さと勝利だ
俺たちにはそれがある。
つまり、俺たちこそが絶対の正義なのだ。
ルーの故郷のヤツらはその俺たちを怒らせ、野蛮な中世的価値観であらゆる近代的価値観に喧嘩を売りつけた。
それは強者にクソをぶん投げるがごとき挑発だ、そうだろう?
その、ツケ
―――――――――命で購ってもらうとしよう。
啓蒙思想の終着点という感じですね。
宗教の自由とテロのリスク排除を天秤にかけて迷いなく後者を取れるのはかなりぶっとんだ人間だと思います。