彼女は復讐を乞い願う
とりあえず、狼少女を持ってたレーションで餌付けして基地に連れてきた。
マリアがすぐさま飛んできてシャワールームに連れ込んでたのでもうちょいしたら綺麗な姿で出てくるはずだが…………おお。
「かわいくなったじゃねぇの。」
「う、うぅ。」
ビニールで覆われたシャワー室、そこから出てきた彼女は白く滑らかな肌に白水晶のような髪とルビーの目が目立つ美少女になっていた。
毛並みもかなり念入りにシャンプーされてたようでフワッフワになっている。
「もふもふ…………さい、こう。」
マリアも思う存分獣耳を堪能してご満悦だ。肌の艶がすごい。
「とりあえず、検査とか予防接種とかやりながらいろいろ事情聞こうか。マリア、その子つれてこっち来てくれ。」
そう声をかけて皆で検査機械があるアンビへ、途中でアディと出くわして驚かせたがまぁ些末なことだ。と、オオカミちゃんを一目見て
「なにその子かわいい。拐ってきたの?」
令嬢さまはそんなことを言ってきやがった。ちげぇよ不名誉な。
……………ん?
なんか今違和感があったが、言葉にできない。
ま、そのうち分かるだろうと割りきって俺たち四人は防疫部の救急車へと入っていった。
で、話を聞くと
「親を殺されてムラハチされたのか。」
「…………うん。」
狼少女が産まれたとき、親はすぐさま人目につかないところで育てることを決めた。
それもこれもこいつの住む地域ではひとつ目やワーウルフ症候群といった先天性奇形は悪魔との契約の証しとされており排除の対象になるからだそうだ。
見たとこオオカミちゃんは先天的に色素が欠落するアルビノと耳及び尻の奇形を抱えてる。
見つかったらとんでもないことになるわな。
父母はそれを理解していてこの子を徹底的に隠していたが、ある日迷い混んできた村人の子供によってそれが発覚。
親は殺され少女は鍬や弓を持った村人に追いかけられながら逃げ出し、あの森までたどり着いたらしい。
「おとうさんもおかぁさんもあいつらに殺された。……………許さない。」
大降りな紅の瞳に暗い色が差す。
こりゃあ不味いね、復讐に捕らわれそうになってる。
こういうやつにできることはひとつ。
「よし、滅ぼそうぜその村。
村人の一人に至るまで、草の根分けてでも丁寧に鉛弾脳天にぶちこんでやる。」
とっとと復讐を遂げさせてやることだけだ。
「だ、め。」
ん?マリアは反対なのか?
「生、ぬるい。ひとりひとり、心臓、から、遠いところの肉を、じょじょ、に、そぎ、おとして、やらないと。」
おーぅ……………古代中国式の極刑をやれとおっしゃる。
まぁ復讐の内容はともかくとして、やるってことは決まりだな。
「今さらだけど、復讐なんて空しいだけだよ!とかって言う人大嫌いでしょ。貴方達。」
アディも苦笑いでそんなことを宣う。
うん、大嫌いだし殺すよ。
当たり前だろ?
そんなふうに人様が味わった辛酸になんの痛痒も味わってない他者がゴチャゴチャいちゃもんつけるのは
―――――――控えめに言ってクソ以下の所業だ。
なんのために刑罰があるか考えろよ、国家が担保してくれる復讐システムなんだぜあれは。
それを否定して被害者を責めるとか頭沸いてるよね。
そもそも
復讐してスカッとしないやつなんざおらん。
やり返したあとに残るのは空しさじゃなく脳汁ドパドパの、中毒レベルのエクスタシーと達成感だ。
サイコパスと精神病疾以外は、という但し書きは付くがな。
ソースは戦場で見てきた敵と味方なので間違いない。
と、ふとあることに気づく。
「あれ?そういえばアディはこいつの耳とか可愛いって言ってたよな?ここら辺じゃ獣の耳って悪魔との契約云々じゃねぇの?」
そう、それはさっき感じた違和感。
「あぁ、それはね?宗派が違うのよ。」
話を詳しく聞かせてもらうとアディたちの領地で信仰されているのは聖十字教カルバン派、ケモミミちゃんの村で奉じられてたのは恐らく聖十字教のルタール派だろうとのことだ。
前者は他者に明確な危害を加えない限りどのような特質を持った人間であろうがそれは神の思し召しであり問題ないとする。
後者は先述のとおりヒトガタから少しでも外れたら悪魔との子として排除するべしと宣う。
なかなか蛮族極まってるじゃないか、気に入った。潰すのは最後にしてやる、嘘だけど。
そんなことを思っているとマリアが耳打ちしてきた。
なんでも前世キリスト教でも奇形児に対して似たような思想の対立があったらしく、どこの世界も人間ってやつは変わらないもんだなとつい苦笑いしてしまった。
さて、次の目標を定めた俺はすぐさま行動を開始する。
まずは特殊部隊の連中にオオカミちゃんの証言が真実かを確かめさせないとな。殺した後で冤罪でしたとかシャレにならん。
一部の人は奇形を天使の顕現と称え、一部の人は奇形を悪魔の落し子と捉えた時代があったんです。
二度と訪れてはいけない時代が。