辺境伯の憂鬱。
私はヴァイス=セレス――――――タスマニア南部辺境伯にして国家鎮守の要…………と言われている。
精強な騎士、整えられた砦と陣地、それらを活用することで南方隣国を寄せ付けぬ我が領は私の誇りであり存在意義だ。
こうした国境守護のためには武器、防具のために莫大な量の鉄が必要となる。常備軍たる騎士を備えているなら、尚更。
しかし、それにも関わらず我が領には鉱山のひとつも存在しないというのだから気苦労も鼠算式だ。
そうなると、当然鉄も鋼も王家からの購入に頼っているわけだが……………それらには金がかかる。
金銀でも出れば金策もでき、負担も軽くなるが、ウチで取れるのは安価な銅や使い道がわからない、加工もできないせいぜい部屋の装飾にしか使えないような鉱物ばかり。
とある金属が貴族の間で妙薬として好まれているのだが、その利率も良いとは言えない。加工が“不可能ではないが難しすぎる“のだ。
食料も困るほど取れないわけではないが、売り出すには足りないと言う半端さ。
私には息子がいない。王国法に照らし合わせれば順当に行くとリアーナがこの領地を継ぐだろう。
守護の要が聞いてあきれる。娘に不良債権しか残せる物がないこんな男にそんな立派な称号は似合わないだろう。
母親という、子供にとって必須の存在ですら、産後の肥だちが悪く、彼女が物心つく前に死んでしまった。
これからこの領地を押し付けられた彼女は、私を恨むのだろうか。
そんなことばかり考えてしまう私は―――――きっと、貴族に向いていないのだろうな。
チタンが認識されておらず、マグネシウムがサプリメントとして飲まれていた時代の話です。