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賢者を魔王城に忘れてきた

作者: ちっくさん

※以前投稿した『第二王女は世界に愛される』を読んで頂いていない方は、ポカーンとしてしまうと思われます。

是非、『第二王女〜』に目を通してからお楽しみください。

迫り来る黒竜のブレスを、足から放った風の魔法でブーストさせブレスの下を掻い潜るように直前で回避する。

すれ違いざまに雷の極大魔法を脳天に叩き落とすと、眼窩や口蓋から白煙を上げつつその巨体は緩やかに倒れてゆく。


一殺。


これで一息つけるかと思ったが眼前にはキメラの群れ。


溜息と共に身体強化魔法を重ね掛けし、炎の魔力で生成した大剣をもって次々とその首を切り落としてゆく。





私の名前はコーデリア。

コーデリア・アレンバッハ。

王都大聖堂の大司祭より、魔導の真髄に辿り着きし者としてこの世界唯一の『賢者』の称号を賜っている。

全属性を持ち、魔力量も他の追随を許さない当代きっての魔導士として、宮廷魔道士隊の隊長であった父の跡を昨年継ぎ、我がフォレスタリア王家を名実共に支えて来た。




およそ1500年前より続く人族と魔族の『人魔大戦』。


終止符を打つべく異世界より召喚された勇者達と共に魔王の居城へと旅立ったのが半年前になる。


そして今、私は一人で魔の森を王都へ向けて進んでいる。





あ、はい。

何故かわかりませんが、一人置いていかれました。

魔王、そして魔将軍へのこちらからの攻撃が全く効かず、同行していた過去最高の『護り喚びの巫女』である第二王女が命を賭して行った土壇場での新たなる勇者召喚の儀。


・・・うん?


この辺りからの記憶が曖昧だ。


白鳥が・・・居たような気がする。


その後は、壁と地面を見ていた記憶しかない。



どのくらいの時間がたったか分からないが、創世神様からの神託により、危機は去ったとの事。

そして第二王女から「頑張って帰って来てね!」との励ましのイメージも頭の中に直接伝わってきた。




第二王女ロリータリア・フォレスティー様。

私が命を捧げ、数多の困難からお守りすると決めた尊きお方。



ーーえぇ、とても、尊いのです。

我が姫は、この世界の宝。

至高の存在。

召喚の儀によって命が散らされることなく、本当に良かった。

あの方の前では、王都で一番の劇役者であるアリス嬢すら霞んでしまう。




あの慎ましやかな胸。


零れ落ちそうな大きな瞳。


気品の中にも見え隠れする、純粋さ。


美しさの中に、妖精の如き可愛らしさも兼ね備えた唯一無二の存在。




もう一度、我が姫の尊き御姿をこの目に焼き付ける為にはこんな所で命を散らす事など出来ない。

その為には今まで行使した事のあまりなかった身体強化の魔法を重ね掛けし、迫り来る魔獣の悉くを退ける。



頭上を、身体の側を、魔獣の攻撃を髪の毛1本の距離で躱して行く度に刻みつけられる脳がヒリつくような感覚。

後衛職では味わえない『命の距離』が、私の細胞のひとつひとつを活性化させる。


溢れ出る高揚感。

私の中の何かが、もっと!もっと!と訴えかけてくる。




・・・こんな戦闘狂では無かったはずなのですがね。

振り回されるサイクロプスの棍棒を、身体を軽く傾けながら躱しつつ苦笑する。


視界の隅ではタイラントシープがギラギラとした捕食者の目でこちらをを窺っている。




ーー今日は久々に肉が食べられそうだ。







魔王城を後にし、体感では半年程がたったであろうか。

私は、勇者達と踏破した時とほぼ同じ速度で魔の森を進んでいた。



女神の加護を受けた聖者のローブも、アジリティにプラス補正のかかる風精のブーツもすでに穴だらけで、世界樹から削り出した魔法効果を増幅させる杖も半ばからへし折れ持ち手の部分しか残っていない。

食事も睡眠もろくにとれず、肉体的には満身創痍といっていいだろう。



ーーだが、私は歓喜している。


まだ走れる。


まだ飛べる。


この命は尽きていない。


この心は折れていない。



命の音が聴こえる。


私の。


魔獣の。


青々と茂る樹々の。


小指の爪程の小さな生き物の。




ーー命が歓喜している。




この世界に生を受けてから今までで一番『生きている』と実感している。






魔の森を抜けるのもあと少しという所で、私は歩みを止める事となる。




『それ』は人型をしていた。

大きさは私と同じくらいだ。


だが、本能の警告は五月蝿いくらいに早鐘を打ち鳴らしている。

背に冷たい汗が落ちる。



そして『それ』が言葉を発する。



「お主は修羅か?鬼か?

おおよそ人族としての範疇を超えておる。

我ら魔族のそれに近い・・・

いや、魔人と呼ぶほうが似合うかもしれんな。


我のみひと足先に戻ってきて、こんなモノと出会えるとは・・・

邪神様に感謝せねばならん。」


身の丈程もある漆黒の大剣を空に掲げた後、想い人に出会えたような目をこちらに向け『それ』は続ける。



「我ら魔族と人族は、相容れない生き物。

互いの屍を越えてゆくしかない。

我は魔将軍コーガ。お主の命を屠るモノだ。」



「けん、じゃ・・・コー、デリ、ア」

このところ言葉を発する必要が無かったからか、それともコーガの魔力にあてられたのか、上手く言葉を発する事が出来なかった。



「・・・ふむ。

お主からは肉食獣の匂いしかしないのだが、賢者とな。ふはは。

我を謀るつもりか。


いや、我らに肩書きは不要か。

・・・さぁ、殺し合おうぞ!!」



目の前に音のみを残し、コーガの姿が消える。


ーー刹那。


視界の端で私の左腕が宙を舞う。


それと同時にコーガの右手がぐしゃりと潰れる。

「ははっ!!すれ違い様に右手を持ってかれたか!!驚く程速く、重い拳とは!!ふはは!!そのくせ賢者と言い張るか!!!!面白い!!」


横薙ぎの剣を前に転がるように躱し、コーガとの距離を詰める。

右腕に強化魔法を重ね掛けし、ただ殴る。


目の前には漆黒の大剣。


チイッっ!

半身で躱し、腰を落とし足を刈る。


一歩引くことで躱され、無防備な背中へコーガの蹴りが放たれる。


躱すのは不可能と判断して、身体強化を全力で背中へまわし耐えるが、地面スレスレで樹々をへし折りながら30メートルほど飛ばされる。


そこへ追従する様に追いかけてきたコーガの大剣が大上段から振るわれる。


身体強化を右腕に全力で振り、コーガの大剣を受け流し、そのままの勢いで頭目掛けて左脚を蹴り抜く。


たたらを踏むコーガ。



「ふっ・・・血が滾るのぅ・・・」

どちらともなくニヤリと笑みを浮かべ次の瞬間、私は握り込んだ拳を相手の顔面へと打ち込む。


コーガは大剣を叩きつけてくる。



殴る。


打ち込まれる。


殴る。


打ち込まれる。


殴る。




・・・勇者タイチの嘘つきめ。

なにが『レベルを上げて物理で殴ればいい、それが最強』だ。

攻撃全振りで強化重ねているのに全く歯が立たないじゃないか。



(いや、あなた純後衛職じゃないですかっ!!限度がありますよっ!!それに素手だし、敵は元々物理全振りの高レベルじゃないですかっ!!それについてってるアンタがオカシイ!!)



・・・タイチの声が聞こえた気がする。




そうだ、私は賢者だ。

1番得意なのは魔法の筈だ。



うん。

コーガから距離をとる。



「ぬ?もう諦めたのか?」


「いや、魔法、つかう。私、は、けんじゃ、だから。」


「ふはは、まだ言うか!いいだろう受けてやろう!」

コーガは動きを止め、仁王立ちでこちらを向く。



「さぁこい!!!」




聖女カエデの言葉が脳裏に浮かんでくる。


『コーデリアさん、全属性使えるってかなり羨ましいです!だって、あのお方の・・・スズキさんの技を再現できるって事じゃないですか!赤の炎、青の水、緑の風、茶の土、黄の光、黒の闇、そして無。7色の竜巻ですよ!レインボーサイク・・・はっ!私は何を?!何か大きな力が私を邪魔した!?」




・・・ひとつ、ふたつ、みっつ、よっつ。

魔力球を浮かべる。


・・・いつつ、むっつ、ななつ。

今持てる魔力を全てに乗せ、頭上に展開し、回転させる。




「ぬっ?!なんだこの魔力は?!

お主・・・賢者というのは本当だったのか?!!まずいっっ・・・!!」

コーガが慌ててこちらに飛び込んでくる。





・・・もう遅い。

後は発動させるだけだ。

私はフォレスティーに帰るのだ。



我が姫に再度会う為。


おはようからおやすみまで、いや、おやすみ中も全てを見守る為。

その為に自動記録魔法も開発した。

予知魔法も組み込み、決定的な瞬間に関してはこの目に焼き付ける事が出来る様に・・・



私は、一瞬たりとも目を逸らさないっ!!





『レイ◯ボー・サイクロン!』




7色の光がコーガに殺到する。


音が、衝撃が、光が、全てを消し去ってゆく。


断末魔の叫びすら消え失せる。

後に残るは大きく抉れた大地のみ。






ーー私は、勝った。


魔力枯渇で膝をついてしまうが、この酩酊感がかえって心地良い。

我が姫の為に、魔族の要である魔将軍を屠ったのだ。


良い手土産が出来た。



さぁ、英雄の凱旋だ!

私は立ち上がり王都へ向け、ゆっくりとその足を踏み出す・・・















・・・という夢を観ていた。


あ、いま起きました。

ここ、魔王城の謁見の間です。

王座に座ってうたた寝してたみたいです。


ていぅか、バリバリの後衛職がソロで黒竜とかサイクロプスとかと近接戦闘なんか出来るわけないじゃないですかー。

やだなぁ。

そんなチートみたいな真似、召喚された勇者とかじゃなければできませんって。

私なんか魔王城出た瞬間にギラギラした魔獣達に襲われて、骨の髄まで美味しく頂かれちゃいますって。

そりゃ現実逃避もしますよね?


あ、でも、自動記録魔法は先ほど開発済みですよ?

姫への忠誠心、そして愛が原動力となり、3分で術式を完成させました。

・・・まぁ、帰れそうにないので無駄になるかもしれませんが。




あれ?

白鳥さん?

あ、どうも。

確か姫に召喚された方ですよね?

忘れ物ですか?

ここには何もありませんが・・・

むしろ私が忘れ物の立場なんですけどねwww

ははっwww


え?

元の世界に帰れる筈だったのに帰れない?

いま着てる白鳥装備が女神様の力で強制装備になってて脱げないと。

そんな鬼ステータスの装備をしたままじゃ受け入れ出来ないと、元の世界の神様に言われたと。

で、女神様に外して貰おうと思ったのに出直せと言われたんですか。


ははぁ。

取り込み中?

「愛し合う2人を引き裂くなんて無粋な真似はあきまへん!!馬に蹴られてしまえ!!おーい、誰かスレイプニル連れてこい!!」って創世神様の眷属に追い返されたと。


内外共に完全防音、どんな些細な音さえ通さず、人には言えないアレやコレ、ここでは好きなだけできちゃいます!秘密厳守!『魅惑のぷれいるーむ』という部屋だと。

ほぅ・・・


更に完全防魔と。

例え極大魔法を24時間365日受け続けても破壊されない最高の要塞だと。

ゆえに、創世神様が満足して出てこない限りはこっちからの連絡手段は皆無と。


知らん間に世界が滅亡の危機に陥ってたらどーすんねん?!


あ、そーゆーのはわかるんですか。

創世神様の作った世界だから、危機に陥るとこう、なんてゆーか、眉間のあたりがキュピーンってするらしい。

へー。



そんなわけで連絡つくまでこっちにいないといけなくなったんですか。

大変ですね・・・




え?

これから王都に行く?

一緒に行ってくれるんですか?


あ?

帰れ、る・・・

王都に帰れる・・・


姫に・・・


姫にまた会える・・・



うぉぉぉおおおおぉぅっっつ!!








次回、『賢者を魔王城に忘れてきた』

もとい、『第二王女は世界に愛される』

第3話『ロード・オブ・ザ・セージ 賢者の帰還 』こうご期待!?






短 編 な の に 続 き だ と ? !

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