狼は風に吹かれる
狼は考えた。
気付けばエリーと出会ってから、ウルは考えることを止めていた。エリーといるときは、考えることが要らなかった。
考えなくても、ウルはウルで居られたのだ。
雪が降り始めた。
とても冷たい雪だ。
それでもウルは考え続けた。
ウルには分かった。。エリーがどうして自分から離れたのか。
けれども、どうしてウルが考えているのか、ウルには分からなかった。
エリーは知らないだろう。人間の真の恐ろしさを。それは狡猾さであり、強欲さであり、執念であった。きっと、どれだけ逃げても追いかけてくるのだろう。ウルは、誰よりも人間の恐ろしさを知っているのだ。
ウルは思い出した。
自分を置いていけと懇願する老いた仲間のこと。
自分が囮になるから、と命を棄てた仲間のこと。
背後から聞こえる轟音と仲間の断末魔。
そして、その最期の顔。
それは、エリーの浮かべた顔と同じだった。とても優しくて、胸が苦しくなるような笑顔。
ああ、このときを以て、狼は考えることを止めた。
狼は気付いた。
そもそも考える必要などなかったのだ。
O
ウルは走った。とても速く走った。小さな小さな少女の匂いが消えないように。狼の鼻は、とても良いのだ。
小さな小さな少女を見つけた。
ウルはもっと速く走った。
小さな少女が振り向いた。
ウルはもっともっと速く走った。
少女は泣き崩れてしまった。
ウルは止まって、少女を自分の背中に乗せた。
「━━ねえ、どうして来たの?」
「お前を、守るために」
「……っ!」
照れ屋で、素直じゃない狼は言い切った。とても強い言葉だった。
妖精はわんわん泣いた。妖精には分かったのだ。その言葉が真実であることも、その意味も、覚悟も。
「泣き止んだか?」
「泣いてない」
「いやでも…」
「泣いてなんかない!」
「そうか」
二人はいつかのやり取りを思い出す。
どれだけ無言だっただろうか。とても心地よい時間だったが、そう長くはいられない。
「ねえ、感傷に浸る余裕はないわ」
「ああ、そうだな」
それから二人は話し合った。
何故だろう。二人なら何も怖くなかった。
その日の雪は冷たかったが、とても暖かい風が吹いていた。




