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妖精は雪に埋もれた

妖精は泣いていた。



仲間を失ったこと。


人間にまた会ったこと。


ウルと別れたこと。



涙を頬に流しながら、妖精は飛んでいた。どこかもわからぬまま、飛んでいた。



エリーは元々孤独を知らなかった。


毎日楽しく仲間と過ごし、馬鹿みたいに悪戯をしかけて、怒られるのだ。



しかし、今はもう誰もいない。



人間が妖精の里を襲ったのは雪の日だった。妖精の血も赤いのかと、大笑いしていた男の顔は忘れられない。嬉々として仲間の羽を回収していた女の後ろ姿も、妖精から奪い取った蜜のビンを奪い合う人間達の姿も、エリーは決して忘れないのだ。


妖精は寛大な種族だ。他種族が急に来訪し、どんな嘘を言っても歓迎の態度を崩さなかった。それが致命的な弱点となり、仲間は眠りに落ちた。


彼らが苦痛を感じずに死んだことだけが、エリーの唯一の救いであった。


エリーが助かったのは、たまたま外に出掛けていたからに他ならない。せめて、仲間と一緒に出掛けていたら、と夜の数だけ考えたものだ。



そして、暗い雪が降る中、エリーはさまよい続けた。





それは、雪が解けた頃のことだった。


木陰に見慣れぬ姿を見かけたのだ。何故だか其れは、とても小さい存在に見えた。


エリーは、妖精だ。悪戯とお話が大好きな妖精だ。


だから、彼を驚かせてやろうと羽音を立てずに慎重に近付き、話しかけた。結果は大成功。彼の驚きようといったら今でも忘れられないくらいだ。


しかし、エリーは気付いてしまった。彼がケガをしていることを。


エリーは己を恥じた。

あの雪の日から、幾度の夜を越え、朝を迎えたのに、未だに自分は、駄目なのか。ケガをした者に悪戯をしてしまうほど追い詰められているというのか。


それで、エリーは急いで宝物を取り出して彼の傷を癒したのだ。



エリーは彼と一緒にいることにした。


彼には色々なことを聞いたが、その度にぶっきらぼうな返事をされた。


彼と一緒にいると、色々なことを知れる。ウサギを殺すのは可哀想だったが、しばらくすればその意味を理解した。吹雪から身を守る手段も知った。妖精はそんなことを気にしなくても生きていけるので、今まで知らなかったのだ。


そして、もっと大きな収穫と言えば、彼が結構の照れ屋で、素直じゃないことだ。妖精にはお見通しなのである。


そういえば、彼の名前を聞き忘れた。まるで、名前というものを知らないような振る舞いだったのだから、仕方ない。しかし、一度タイミングを逃すと切りだしにくい話題であり、お話を好む妖精は、初めてお話について悩んだ。


ああ、そうだ。もし、彼に名前がなかったら自分が考えてあげてもいい。


『ウルーズ』はどうだろうか。遠いどこかの言葉で、「幸せ」を意味するらしい。ずっと昔、妖精の里を訪れた旅人さんが言っていた。


うん、彼にぴったりの名前だろう。喜んでくれるだろうか。





ο


あの明るい雪の日、ウルから名前を聞かれて、初めて自分が名乗っていないことに気が付いた。


ウルは照れ屋で、私の名前を知っていようと知らなかろうと呼んでくれないから、そんなこと気付けないのだ。全く、しょうがないウルである。



ウルは、私に沢山のものをくれた。


そう。思い返してみれば、私に生きる意味をくれたのはウルなのだ。ウルと会ってから、夜が怖くなくなった。あの暖かい毛皮にくるまるのは、私だけの特権だ。誰にも譲るつもりはない。



だから、私とウルは一緒にいたらいけないのだ。



「━━ウル」



人間の恐ろしさを知るのは、私一人で十分なのだ。

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