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この作品には 〔ガールズラブ要素〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

彼女

作者: Jの者

30分くらいで書きました。

 あの日、私はただの学生だった。

 ただその日その日をのんべんだらりと過ごし、

 ているだけの、ただの学生。


 彼女……今は『先生』であるが、その時はまだ『刑事』だった彼女。

 彼女は当時三十代。

 彼女が私に駅で突然襲いかかってきた。

 凄い形相で、何か支離滅裂なことを叫びながら。


 私は必死に逃げた。

 広い駅で、すぐには捕まらなかったけど、袋小路でついに……。


 それからはよく知らない、聞いたことだけ知っている。

 彼女は、私に対する『誤認逮捕』、『暴行』、『傷害』、『殺人未遂』……で捕まった、はず。

 どうやら、私ぐらいの女子高生が凶悪な殺人を犯していたらしく、私は犯人に似ていたのだとか。

 その犯人はそれからすぐに捕まったらしいけど、今はあまり関係ない。


 私を襲った彼女は、刑事にしては随分重く罰せられた。

 私の様子が問題だったのだろう。

 当時入院していた私は日々何かに怯え続け、ろくに話もできない状況が続いていた。

 そのせいで、私は彼女に会わないままこんなに月日が経ってしまったのだろう。


 出所した彼女が教師になっていた、なんて知ったのは、私が大人になってからずいぶん経ってのことだった。

 なぜそんなことを知ったのか、というと、私が彼女を調べていたからだ。

 なぜかそのときの私は彼女と会って話がしたかったのだ。


 そしてある日ついに、彼女の家を探り当てた。



「こんにちは、ご無沙汰してます」


「……ごめんなさい、どなたですか?」


 無理もないだろう、多少私の身なりも変わっているし、なにより会わない期間が長すぎた。

 そして、私と彼女との交流なんて無いに等しいのだから。


「私です……〜〜です」


 彼女の顔色が変わった。

 すべて理解したのだろう。


「ごっごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!」


 彼女は、壊れた人形のように同じ言葉を何回も言った。


「あ、あの、落ち着いて、話を聞いてください」


「許して……お願い……」


 彼女は怯えて、もはや話にならない。

 その日は諦めて帰ることにした。


 初訪問の日から何度も何度も訪れるうちに、彼女の態度も変わっていった。

 謝り続けるだけではなくなっていき、私と会話をしてくれるようになった。

 教師をやっている女性らしく、優しい物腰で、話していて気が楽になる。


 その日、私はまたいつものように彼女の住むマンションの一室を訪れていた。



「あら、いらっしゃい」


「こんにちは、先生」


 私は彼女を先生と呼んでいた。

 彼女が教師だから。


 また、たわいもない話をする。

 穏やかな時間が流れていた。

 しかし、ある瞬間から、何かがずれ始めていた。


「あの……先生が刑事だった頃って……」


 私はそう言ったとき、胸の痛みを覚えた。

 呼吸がしづらくなるのを感じた。

 彼女の顔も歪んでいた。


「……あ、そ、そうね……あの頃は……」


 おかしかった。

 彼女の話を聞きたいのに、どんどん目の前が暗くなる。

 しかたなく、私は立ち上がりながら言った。


「ごめんなさい先生、私少し体調が……ヒュッ、ヒュウッ」


 そのとき、私は過呼吸になっていて、その後はろくに喋ることも出来ずにそそくさと彼女の家を出た。

 彼女は私を心配して付いてきてくれた。

 しかし階段で事件が起こった。


 たまたま、ほんとうに偶然、私は足を踏み外した。

 ゴロゴロと転げ落ち、したたかに頭をぶつけた。

 薄れていく意識の中で、最後に聞いたのは彼女が私を心配し駆け寄ってくる足音だった。



 三年、じつに三年もの間眠っていたという。

 その間、彼女は毎日時間を割いて見舞いに来てくれていたとも聞いた。


 でも、私はなぜか彼女が来ているときに目を覚ますことが出来なかった。

 それどころか、私は目覚めているのに目覚めていない振りをするようになった。

 医者や、看護師は気づいていたかもしれないが、彼らはそれを伝えることをしなかった。

 恐らくは暗黙の了解のうちに。


 私は夜に病院を抜け出すようになった。

 夜なら彼女はやってこない。

 彼女は夕方のある時間に眠る私の顔を見にくるだけだから。


 いつからか、私は彼女が来てくれていることなど忘れて過ごすようになった。


 そして、この日の夜も私は病院を抜け出そうとしていた。


 外に出て、誰かにぶつかった。

 暗かったので一瞬誰かわからなかったが、向こうはすぐに気づいたようだ。


「……〜〜さん……〜〜さん!?」


 彼女だった。

 なぜかこの日、彼女は夜だというのに病院の近くにいたのだ。


「……」


 私は何も言えず、彼女を見つめることしか出来ない。

 おかしい。

 あんなに彼女と話がしたかったのに。


「〜〜さん!本当にごめんなさい!でも、目覚めてくれてよかった……」


 彼女の手が、私に触れるか触れないかのその瞬間。


「キャアアアアアアアアアア!!!!!!」


 私は悲鳴をあげていた。


 悲鳴を聞いて病院に務める看護師や医師達が飛び出してくる。

 そして、悲鳴をあげる私と、突然のことで驚き固まっている彼女を見つける。


「あんた!彼女に何をしたんだ!」


 駆け寄ってくる医師は、彼女に対してそう言い放った。

 私は、違うと言いたかった。

 彼女は何もしていない、と。


「いやぁぁあああああ!!!来ないで!!!来ないで!!!アアアアアアアアアア!!!!!!」


 でも、私は狂ったように泣き叫ぶことしかしなかった。

 彼女も、違う、違う、と何度も言っていたが、すぐに警察がやって来て、彼女を逮捕してしまった。


 逮捕される彼女は、じっとこちらを心配する目で見ていたのに、私はただ叫んでいた。


「アーーーーー!!!あーーーーーーーー!!!!」


 看護師の人たちが、もう大丈夫、なんて言っているけど、それすら頭を上滑りしていく。


「あーーーーーー!!!!ぁーーーーー……!!!」


 声がどんどん掠れていく。

 彼女の姿がどんどん遠ざかる。

 彼女のことを知りたいのに。

 また遠く離れていってしまう。


 あの日、あの子を知っていたからわざとあの子みたいな格好をして、出会ったのに。

 ある日、勇気を出して会いに行ったのに。

 その日、頑張って話を聞いていたのに。

 この日、また出会うことが出来たのに。


 一目惚れ、だったのに。


 ごめんなさい。


「ああああああ……あぁぁ……」


 とめどなく涙が溢れた。

今朝なんとなく夢で見たことを書きました。

無性に悲しくて、涙が出てきたくらいに印象に残ったので。

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