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5 窓辺の耳鳴り

窓から見える無数の……

空気や光を数えていると言ったら、医者に「馬鹿なことはやめろ」と言われた。

ズュートは何も言わず窓に近付いて、

思い切りガラスを殴って割ってしまった。


「下に人がいたらどうするの?」

「その時は痛みを数えてやればいい」


もう1枚も割ろうとするから、

彼の腕にしがみついて止めた。

痛みと息切れ、動悸、震え……


「薬……薬ちょうだい……薬を……」


ズュートは黙ったまま、拳の血が落ちないようにしながら部屋を出て行った。

風が吹いて私の髪を撫でると、内在する痛みが全身を激しく揺さぶる。

ああ、空いたままの窓……

ぎしぎしと痛みを訴える惨めな窓枠。

その向こうの青い空は憐憫のように痛みを生成して、

涎のように垂らしている。

その下に歩いている青年、私より少し年上くらいの顔つき。

その二重瞼の裏には刺すような痛み。

耳の奥にはどんな痛みが隠れているだろう。


「ここまで来られるかい?」

と青年は手招きする。

でも返事すらできずに、私は暗くなっていく視界を操縦する。

無理……

手を伸ばして、何かが掴めると思ったのは間違い。


「そこまで行く。待っててくれ」

駆けだす青年の足音が、鼓膜と三半規管に突き刺さる。

世界が耳鳴りに支配されると、どこまでが現実なのかもう分からない。

指先にかすかな痛みを感じて目を開ける。

息ができなくて目を閉じる。


耳鳴りが酸っぱい鉄の味に変わって目を焼こうとする。

背中に当たる床の固さが、痛みに満ちて笑っていた。

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