4 荊の血
誰かに嘘をついて傷付けた日。
後悔は痛みを甘美な罰にしていく。
これは私に与えられた1日の過ごし方。
どんな喧嘩をしても次の日には忘れているなんて、まったく考えられない。
不確かな連続が世界を一瞬で変えていく。
次にはもう、私の知っている全ての風景がなくなって、
それらは痛みという腐食に耐えられず、いずれ養分となる。
「今」はどんな花を咲かせるかなんて、痛みを知らない者の言うこと。
そんなものは一生経っても開かない。
蕾すらなく、私はただ、自分という棘付きの茎を握りしめるだけ。
「それくらい自分にもできる」なんて言ってきた隣の病室の少年に、
丸めた荊を握らせて、
「二度と来ないで。目障りだから」と言ってしまった。
私の部屋の床に数滴の血液が落ちたから、すぐに薬剤師のズュートを呼んだ。
「彼はきっと、血が流せるだけ幸せだ」
「私が不幸みたいに言わないで」
血を拭き終わったズュートは、大きな目を開いて私を見下ろす。
「君は不幸だ。僕のように、他人の不幸で興奮できないんだから」
「自分の不幸に悦びを感じられたら幸せよ」
彼は血の付いた布切れを投げつけてきて嘲笑する。
「じゃあ少年に言ってあげなよ。こんな血くらいで幸せなんて思うなよって」
「穢らわしい……」
ズュートは急に醒めた目をして、何も言わずに出て行った。
痛みが強くなってきたけど、点滴の追加は頼まない。
ほとんど喘ぎ声のような声を出して、血の染みた布切れを強く噛みしめた。
痛い……痛い、痛い痛い痛いいたいいたいいたいたいたいあいたいたいいぃぃぃ
血の臭いが気持ち悪くて、私は激しく嘔吐した。