表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/30

22 土がため

昼寝からの目覚めは最悪な鉄の味。

口のどこかから出血している。

そのうえ渇いていて、まともに開けることもできない。

背中も腹部も手も足も痛くて動けない。

見ていた夢は体中を八つ裂きにされて、それでもなお生きているという内容。

私の肉片が部屋のそこら中に散らばって、どす黒く沈殿している。

意識だけはしっかりしていて、私の体を切断した犯人を探している。

それはいつも両親。顔ももう覚えていない、私の両親……。


ナースコールすら押せないまま喘いでいると、

ズュートがバケツを持ってやってきた。

「痛み止めを……」と言う私の声は自分にも聞こえないくらいかすれていて、

ズュートはただ、立っている。


「痛み止めにしようか。それとも土がいいかな」


彼は私の苦しみを積極的に止めようとはしてくれない。

痛がっている私をいつも側で見つめている。

白衣のポケットにはたくさん薬が入っていて、

そのひとつを私の口に入れさえすれば、とりあえず落ち着く。だけど、

彼はそうしようとしない。

私も、それを望んでいない。


「もっと見ていたいけれど、今日は時間もなくてね」


突然、ズュートはバケツの中身を床にぶちまける。

それは土だった。濃い茶色の柔らかそうな土。

床に広がった土を、ズュートは踊るように踏みしめる。

私の呻き声を聞きながら、彼はしばらく土を踏み続けた。


「まあ、こんなものでいいかな。

 あとはポラリス、君がこの土を固めるんだ。

 そうすればこの部屋でだって冬が感じられる」


たまらなくなって喚き声を出し、私は暴れるようにベッドから落ちた。

そこには冷たい土があって、すぐ側にズュートの足がある。


「お願い、私の顔を踏みつけて!」

「そう言ってくれると思ったよ」


彼の足が、土まみれの彼の靴が、

私の右頬にゆっくりと力を加えていく。冷たくて重くて痛い。

左頬には土の痛みを感じて、私はただ喘いだ。

体全体が痙攣ーーそれが落ち着きそうにないのできっと、

私は失禁している。

意識が朦朧としてきて、耳鳴りと割れそうな頭痛のなかで、

ズュートの声が聞こえた。


「かわいいね、ポラリス」


何度も何度も、こだまするように、彼の声が聞こえた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ