2 朝
朝の目覚めは格別な痛みの体験。
体の動かない場所にさらなる痛みを追加して、
今日は何本の点滴を使うだろうとほくそ笑む。苦しいけれど、辛くはない。
声も出せないほどに、目眩と吐き気に襲われながら、
注射針の刺さった腕を渾身限り握りつぶす。
岩の下から這い出るような、おぞましい唸り声。
若い女の看護師がやってきて、おどおどしながら言ってくれる言葉ーー「大丈夫?」
彼女には何もできない。何をしたって、誰が来たって、何も変わらない。
痛み止めの量を増やすなんて言うから、私は猛烈に反対した。
ああ、この女は何も言えず、何もできず、手と唇をわずかに震わせながら、今にも泣き出しそう。
なんて気持ちいい表情。
同情されるのは嫌。私の前に立つのなら、ただ怯えてほしい。
自分の無力さに自我を押しつぶされながら、
決して助けることのできない病人を恐れたらいい。
痛みが少し薄れてきたら、
彼女は何も言わずに立ち去っていく。
ああ、痛み止めが効いてきた。痛みがどんどんなくなって、
私の感覚は、どこか世界と隔絶される。
点滴に入っているのはケシの夢。私は起きながらに夢を見せられ、
地上に立っている足裏の感触が奪われていく。
私はまだ生きていける。
痛みが終わりなく続くのなら、どこかで命を断ち切りたいーー
そう思ったのは昔の話。
激痛のなかで、私は「もう死んでしまう」と思う。
だけど、この痛みがいつかまったくなくなるのなら、
私はいつまで生きられるだろう。