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14 ヒグラシの遠い空
どこからともなくカナカナカナカナと声が聞こえてくると、
私はその背後にある喪失感が辛くて立てなくなる。
あんなに嬉しそうにはしゃぎ回っていたたくさんの意志たちが、
これから何かをなくしていかなくてはならないことに気付いて呆然としている。
たぶん、今日は1日中ベッドで寝ている。
誰が来ても最低限の返事だけして、
私は窓から見える空を眺め続ける。
ヒグラシの声は、空を昇らない。
私と同じくらいの高さで、
夏の日差しから消えていく色を惜しんでいる。
ズュートが来ても、私はほとんど喋らず、
トン・イータが来ても、すぐ帰ってもらった。
空が遠い。
とても遠い……
存在する痛みすら薄れていきそうなほど、
空が遠かった。




