11 嫉妬
珍しく看護師が窓を開けてくれたので、
セミの声が痛みを充満させてくれる。
夏は痛みの季節。最も激しい苦痛で世界中が暴れている。
それは、自身も激痛に耐えながら落下して破裂する爆弾のよう。
いたるところで爆炎があがる。
汗の一粒にすら、痛みを滲ませながら。
ズュートが来たのは昼過ぎ。
顔の半分を赤黒く腫らしていて、なのにやっぱりニヤニヤしている。
どうしたのと訊くと、
「昨日、付き合ってる女に別れを告げたら殺されかけた」
と嬉しそうに喋るから、私はいらいらして
「死ねばよかったのに、このクズ」
と言ってしまった。するとズュートは首を横に振りながら、
「君のためだよ、ポラリス」
とため息混じりに言う。
「私と結婚してくれるの?」
「君とだったら喜んで」
彼の本心が分からなくて、私は嫉妬する。
きっと私は、ズュートに愛されたいわけじゃない。
でもこの痛みを認めてくれる彼のことを、私の所有にしていたい。
だから、私以外の女と抱き合うことは許せない。
「いっそ焼かれて死んでしまえばいい」
「火にも痛みがあるのか」
「何にでもあるわ。私の魂にだって」
ズュートは静かになって、悲しそうに目を伏せる。
そんな彼は、とても正常な人間のようで、きっと……
私はそんなズュートの表情を愛している。
セミの声が絶え間なく、空間いっぱいに見えない意志が広がっている。
他のどの季節よりも風は自由。
痛みの具合も好き放題。
「足が痛い」と言うと、
ズュートは「薬を増やそうか」と普通のことを言う。
「違う」と言うと彼はわずかに笑った。
「全ての存在に、痛みを感じてほしいだけよ」
「君が長生きできることを祈っているよ」
ズュートが優しいので、彼が部屋を出た後、
私は泣いた。
痛みのせいじゃない。夏の縦横無尽な激痛のせいじゃない。
ケシの夢が足りないわけでも、眠りが浅いからでもない。
私は、ズュートの優しさを愛している。




