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異世界転生したけど滑舌悪いのが治らないんですけど?

作者: ゴロタ

性懲りもなく短編投稿

 



「あ~あ~………あうあ~…あ~あん? きゃだっぷっ!!」


「みてみてロレェンツォ! ベリーシャがご機嫌みたいだわ」

「ふふっ……そうたね、モルガナ。僕たちの愛し子は、とてもご機嫌な様子だね」


「あうっ……あ~う~………………だばうっ!!」


 私は両親の言う様なご機嫌では決してない。


 むしろ不機嫌、不愉快なのだ。


 その証拠に持っているクマのヌイグルミを、ぶうんぶうんと乱暴に振り回している。

 しかしその様子は、両親からするとご機嫌な様子に写るらしい。解せぬ。


 不機嫌の理由?

 簡単な事さ。

 私が見た目通りの幼子では無いって事に起因する。



 私はいわゆる転生とやらをして、地球とは異なる世界へと前世の記憶を持って産まれた。


 前世では15歳、現世では3歳、合わせて18歳………………。


 ちなみに現世の私は、ポイプー伯爵家のベリーシャ・フィロ・ポイプー、伯爵令嬢です。


 え?家名がふざけてるって? いや知らないよ。むしろ名家の部類らしいよ。うちは。


 はぁ………それにしても、3歳位になれば片言の単語位は喋れるはずなのですが、どうやらこの身体 発育遅れてません?

 両親の言葉は理解出来るのですが、何故か私の方の言語が不自由でイライラしてます。


 私があぶだぶしか言えて無いのだが、両親は気に病むでもなく、ご機嫌でらっぶらぶ。私の発育遅れは心配では無いご様子で、こりゃあ直ぐに弟か妹が出来る日も遠くない。


「あぶだぶだ~………うにゅ~………あうあって~だびぶっ!」


 ちっくしょおっ!私の口よ、仕事しろ!!


「父上、母上、ベリーシャが何か訴えて居りますよ?」

「あらあら?何かしら? ご飯はさっき食べさせたから、オムツかしらね? ルーン?確認してくれる?」


 母親はそう言いながら近くに控えていた乳母のルーンを呼んで、私のオムツの中を確認させてくれた。


 そう、母親は貴族で伯爵夫人。 自分では私の世話はしない。たま~に抱き上げて、申し訳程度に揺すってくれる程度のスキンシップしかしない。

 でもこれでもまだ良い方らしい。 メイドがコッソリと噂話をしているのを聞いて知ったのだけど、貴族は子供の教育やスキンシップを、自分達では一切しないそうなのだ。 最悪生んだらそれっきり、触れもしない。


 世話をするのも教育するのも、専門の者に任せるのが普通らしい。

 もちろん我が両親は、私を愛していない訳じゃない。口では結構愛し子とか言ってくるし。

 まぁ、それがポーズじゃ無いのなら、だが。


「奥様。確かにベリーシャ様はオムツをご交換した方が、宜しいご様子で御座います」


 ああ、恥ずかしい。

 3歳にもなってまだオムツがとれないとは。しっかしこの身体、発育が………以下略。


 ルーンさんにオムツを交換してもらっている最中、ずっと私の瞳は濁って淀んでいた。

 羞恥を押さえるためには、心を無にするしかない。我慢だ。深く考えちゃだめ。

 18歳の私がルーンさんに下の世話を…………って、いかんいかん。考えちゃってたよ。


 ちゃんとトイレトレーニングも開始しているので、そろそろオムツを卒業できる日も近いと私は願っている。希望的観測。




 あー…………憂鬱なオムツ交換を済ましたから、気分転換に外にでも行きたいなぁ、もうっ!!


「だばぶ~……………にゅきたっぷ……………あぶしっ!!」


「うん? ベリーシャはお外に行きたいのかな?」

「だぶ!」


 おお、覚いな兄よ。

 さっきも私が訴えていた事を察してくれたな。

 愛い奴め。私が唾液でべとべとにした、クマのヌイグルミを進呈して差し上げましょう。ほれ、ほれほれほれ。



 おっと? み、見間違いだよね? 唾液でべとべとのクマのヌイグルミを渡されそうになっているのに、兄は物凄く嬉しそうだった。マジかよ。 人格出来すぎじゃね?


そんな兄の年齢はパッと見 7、8歳位であろうか。

 言葉使いに幼いところは全く無く、流石ポイプー伯爵家の次期当主落ち着き払っていらっしゃいます。私だったらたとえ実の妹からであっても、唾液でべとべとのヌイグルミは受け取れない、否! 受け取らない。断固拒否だ。



「あら~? ウォルター凄いわ!ベリーシャが言いたい事が良く分かるわね?」

「そうだね。僕らはご機嫌か不機嫌か位しか判断できないよ」


 はい。ダウトォォォォォ!!!


 あなた方はそれすらも外してますからっ!不機嫌な私をご機嫌って言ってましたからっ!


「……………………そうなのですか? でも僕にはわかるんです。何となく、ですが」


 やっぱり兄よ、貴方は凄いな。両親が私の機嫌が、ご機嫌か不機嫌か分かる発言には一切触れていない。その歳で空気も読むのね? 私なんて「あなた方、外してますからっ!」って、内心でですが突っ込んじゃってたよ。貴方は超人か?はたまたニュータイプか?


「うふふ…………。じゃあベリーシャの事を頼むわね? お庭に連れて行って上げてくれる?」

「はい。分かりました」


 そのまま笑顔で良い返事をすると、兄は私を軽々と片腕に抱き上げた。

 その行動に驚いたのは、乳母のルーンであった。


「ウォ、ウォルター様!? いけません!ベリーシャ様を抱き上げるのは、わたくしのお役目で御座います」

「いや、良いよ。 それに僕がベリーシャを抱いて、庭まで連れて行って上げたいんだ」

「で、ですが…………」

「ばだぶ?」


 あーもーどうでも良いから早よ庭へ行け、な?


「ああほら、ベリーシャも早くって催促しているみたいだから行くね?」

「ああっ! お待ち下さいませ、ウォルター様ぁぁぁ!!!」


 渋って引き留めようと必死のルーンをその場に残し、兄は意に介せずスタスタと歩きだす。

 うむ、これぞ貴族やな。


 そんな私は「うぶうぶ。あうばー♪」とご機嫌で兄の可愛らしいお顔を、ペチペチと小さなお手々で叩いたり、引っ張ったりと楽しんだ。兄のほっぺは、ふにゅっふにゅでしてよ?

 どんなに叩いたり引っ張ったりしても、兄は終始笑顔だったのだが、その行為をたまたま目撃してしまったメイドの表情は、真っ青になっており、震えながらどこかに走り去ってしまった。




庭へと出た私は今度は兄そっちのけで、草をむしるのに心血を注いでいた。


ブチッ…………ブチブチ………ブッチィィィ……………。


お、おふぅ………。この手に伝わるぶちぶち感。最高に気持ち良いじゃんか。 夢中になってむしりまくって楽しんで居たら背後で聞き覚えのある悲鳴が上がった。


「ぎゃあーーーーー!!! ベ、ベリーシャ様っ!? お手が、お手が汚れますのでお止め下さいませーーー!!!」


どうやら悲鳴を上げたのはルーンであったようで、ルーンの隣には先ほど庭へ出る前にすれ違ったメイドが一緒に立っていた。


あ、貴女ね? ルーンに密告(チクっ)たのは。 やれやれ………ルーンは色々うるさいから密告(チク)るのは、今回だけにしてよね。


悲鳴を上げ続けるうるさいルーンへと、私はむしった草を顔面へとお見舞い(プレゼント)してやった。


「ぎゃ、ぎゃあーーーーー!!!ぎゃあーーーーー!!!」


結果は失敗だった。 ルーンは大声で2度叫んだ。さっきの倍はうるさかったからだ。





 ***




 それから4年の年月が経過し、私は7歳となっていた。


 そんな私の言葉使いというと


「兄しゃまっ! 待ってぇ~~。置いてかにゃいでぇ~~~」


 舌っ足らずで、たま~にちゃんとした言葉が出ない。滑舌も悪い。口よ、本気で仕事しろっ!!


 はふはふ荒い息を吐きながら、兄の後を追い掛ける私。

 すっかり立派なお兄ちゃん子に成長してしまい、何処へ行くにも兄の後を追う小さなストーカーと化していた。


 いやぁ、だってさー。兄が間に入ると全てがスムーズなんだもの。

 それもこれも私の口が悪いせいなんですがね。


「うん? ああ、ベリーシャ。顔を真っ赤にして一生懸命に追いかけてくる何て、本当にお前は可愛いねぇ?」


 デロンデロンにやに下がる兄の美しい相貌。

 うわおっ☆ 貴族学校の女子には見せられんご面相となっておいでだ。


 兄はこの4年で美貌に磨きがかかり、無表情で居ると凍えてしまいそうな冷たい美貌の少年に成長した。

 何やら学校では【氷の君】とか言われて、女子にキャーキャー騒がれているらしい。


 えっ? 一体誰の話って感じ? 私の前では兄はいつも目尻と口元をダリーンと下げてニッコニコ全快の笑み満載なので、氷の君って何ぞや?って感じです。笑み崩れない兄は兄じゃないです。


 でもこの間、兄の学校での友人であるフラウヴォ様が、我が家に遊びに来た時の、何とも言えない残念な表情で私と兄のやり取りを見ていて実感した位ですかね。

 あ、やっぱ私の前と他の人の前とでは、態度や表情が違うんだな、と。


 ま、兄も私も誰にも迷惑はかけていないと思うので、別にこのままでも構わないよね?


 そんな事よりも、問題は私の滑舌だよ。

 7歳にもなって、さしすせそがちゃんと発音出来ないってどうなってんの?


 後3年したら貴族学校へ通わねばならないってのに。


 後3年もあるじゃんと、思うかも知れないけど楽観視するのは決して良くない。

 他の貴族の目がある学校という中で、ちゃんと喋れないのはマイナス点だと思う。

 その上兄が【氷の君】などと呼ばれて注目を集めて居るのだから、その妹の私も注目を集めてしまうであろう。


 ここまで私を育ててくれたと言っても、過言では無い兄に恥をかかせるのは流石に悪いと思うし。


 私だってもう精神は22歳さ。立派な大人だ。 今後も滑舌に重点を置きつつ、その他の貴族の令嬢としてのマナーや知識、ダンスや裁縫なども学び、体型維持のため朝方に兄と一緒に走り込みなどをしたりもした。





 だがしかし……………だがしかし最強の敵である私の口は、それから3年経ってもさほど成長を見せなかった。


 なので全力で開き直ってやった。

「お兄しゃま!ベリーがやりましゅ!」ってな。 ハハハ………笑え、笑えよ。ちくしょお! バカヤロー!!!




***




 貴族学校は10歳で入学、16歳で卒業だ。

 ちなみに16歳で成人ともなる。


 最終学年である15歳の兄とは、1年しか一緒では無いが兄は事の他喜んだ。


 だが私と一緒に居る兄はデロンデロンの締まりの無い顔をしているので、最初は大騒ぎになった。


【氷の君】と一緒に居る、あの少女は何者だ?ってね。

 直ぐに私が妹だとは、分かったみたいだけど。


 いや、だってねぇ?

 顔立ちが似通ってるからね。流石は兄妹。


 兄の顔面崩壊を間近で見たらしい女子たちは、嘆く者と喜ぶ者とに見事に別れた。


 嘆く者は度々私に突っ掛かって来ていたのですが、直ぐに兄から直接お叱りがあって鎮静化した。


 そしてその1年は【虹色の眼福】と呼ばれたのであった。兄が無表情じゃなくて、本当に嬉しそうに微笑んで、デロデロしていたからね。


 これだけ妹大好きで大丈夫かな?

 兄の今後が若干不安ではある。







 ウォルター視点





 先日妹が産まれたらしい。


 だがさして興味は湧かなかった。それよりも伯爵家の次期当主としての習い事の方が楽しかった。


 父上と母上は、貴族として少し変わっており、産まれたばかりの妹の元に足しげく通っていた。


 そんな両親を見て、不思議に思って僕も妹に会ってみようと思った。




 そして初めて妹を見た瞬間、ズガンと身体に衝撃が走った。




 不機嫌そうに歪んだ表情が、とてつもなくラブリーだったからだ。

 クマのヌイグルミを苛立たしげに振り回す所までチャーミングだった。

 僕の脳内では【天使降臨☆】の文字がエンドレスで舞い踊り続けて居た。



 そんな不機嫌そうに歪んだ表情で「あぶだぶ」喋る天使である妹が、現在どの様な気分であるのか、何を言いたいのかが何故か僕にだけは大体だが分かった。 これは間違いなく妹への愛の成せる御業だ。僕の愛を神が認めて下さったのだ。



 それからは僕も妹の元へと足しげく通った。



 そんな妹は3歳になってもちゃんとした単語を話せなかった。

 その事に心配する使用人や、親族たちに全く怯まなかった父上と母上は、大丈夫大丈夫言葉が遅れているだけだよと言って、のんびり笑っている変わり者であった。



 それからゆっくりではあるが、段々と妹は言葉を覚えて喋り始めた。

 しかし何年経ってもさしすせそが発音しづらいのか、僕を呼ぶ時は「兄しゃま」と、舌っ足らずであったのだが、むしろそれは妹の可愛さを爆発させる起爆剤であった。そう、いわゆるご褒美ってやつさ。





 貴族学校へ通うのは正直、面倒だった。

 授業で習うものは既に家で習っていたものばかりであったため、無駄な時間に思えて仕方がなかった。

 こんな無意味な時間を過ごさせるのならば、僕は妹と一緒の時間を有意義に過ごしたいと、学校に居る間はずっとイライラしていた。

 そのせいで女子からは【氷の君】とか言う、妙なあだ名で呼ばれ始めてしまったのであったが、別にどうでも良い。何の感慨も湧かない。



 そんな僕の休日は、もちろん妹のために使っている。

 妹のさしすせそ発音が未だに改善しないことも理由のひとつである。

 僕的には可愛いからずっとそのままでも良いのだが、周りが放っておかなかったし、妹も諦めずに発音練習をしていたので(しょうがないから)応援した。



 貴族学校で仲良くなったフラウが遊びに来た時も、特に繕うことなく、妹をデロデロに甘やかして過ごしていたら、残念な者を見るような目付きで見られたが、知ったことでは無い。




 妹がついに学校へと通う歳になった。そんな妹であったが、10歳を迎えても発音が上手くいかず、僕のことは「お兄しゃま」と蒸気した頬を膨らませながら呼んで、ちょこちょこ後を追い掛けてきてくれる姿も天使の様だった。


 良かった。僕の天使は10歳になっても天使のままである。ある程度 歳を重ねると、天使は天使で無くなってしまうらしいという、悪夢の様な伝説に見事打ち勝ったのだ。



 神よ!あなた様に感謝を捧げます!!



 10歳になり更に可愛く麗しく成長した妹に、変な虫が付かない様にするため、周りを警護するのに僕は余念が無い。ほぼ一緒に行動した。授業以外は常に側に付いた。


 それに物凄く嬉しかった。至福、の一言に尽きる。1年しか一緒に通えないのだが、それでも僕は嬉しかったのだ。



 僕が自身の卒業を迎える頃は、本当にもう憂鬱であった。

 僕が卒業した後、誰に妹の警護を頼もうかとあちこち奔走した。


 そして見付けた。良い生け贄………ごほんっ! 護衛役は以外と近場に居た。


 フラウの弟のフォルスだ。

 最初は不満も露に嫌がって居たフォルスだったが、僕が少し躾けてやったら、随分と従順になった。


 よしよし、お前は影ながらリーシャを護るんだぞ?

 命じたからな?

 わかっているよな?

 失敗は許さないからな?

 万が一失敗なぞしたら、お前の首と胴はおさらばするからな?




 頼んだぞ、フォルス!!!




その後のおまけ


ベリーシャ⇒べたべたに甘やかしてくれる兄が卒業して心機一転。1人で孤軍奮闘、頑張りようやく数人の友人を得て学校が楽しくなって来たところ。


しかし最近何者かに尾行されている様な気がして恐怖に怯えており、兄に相談しようか思案中。


ウォルター兄⇒王子の右腕として辣腕を奮う傍ら、天使(実妹)のチェックに余念がない。

確実に重度のシスコンを拗らせている。


フラウヴォ⇒ウォルターの直属の部下。年々過熱するウォルターのベリーシャへのストーキング行為に頭を悩ませている苦労人。ドンマイ。


フォルス⇒1番の被害者。

ウォルターのせいで人生を狂わされた。

しかしフォルス本人は、ウォルターに躾られて喜んで居る節があるので、同情は無用。

最近はベリーシャに存在を感付かれて、怯えられているのだが、フォルスはまだ気付いていない。



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[良い点] 滑舌残念系ヒロインとシスコン残念系兄、新しくて面白かったです。細かい表現などもクスリとするところがあって楽しく読めました! 「あぶだぶだ~………うにゅ~………あうあって~だびぶっ!」 …
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