究極の選択
お待たせいたしました。
「うう…………」
私は小さく呻くと、ベッドの上でごろりと寝返りを打った。
一気に前世から今世を振り返り、かなり疲労した。
おそらく精神が。
今の私の状態を表せば、記憶は最新のもの、つまりは今世のガートルードのものが強くはっきりしているが、人格面ではたった五年の今世より十八年生きてきた前世のものが強い。
ただ、どちらも不安定な部分がある。
これからの生き方を選択していくのにあたり、前世の私でいくのか、今世の私でいくのか。
おそらくこうと強く念じれば、そちらに大きく傾く気がする。
今世のガートルートを選択すれば、きっと次第に薄くなって消えていくのだろう。
まるで、夜見た夢を朝になって忘れてしまうように。
覚えていても、だんだんと思い出せなくなってしまうように。
この状態は、前世の最期によく似た事故が起こったことによる偶然の産物なのだろうから。
今の状態を強く願えば、きっとこれはこれで固定するような気がする。
前世の嫌味な陰険女か。
今世のわがまま傲慢幼女か。
……わりと、究極な選択な気がする。
足して二で割ったら緩和されるどころか陰険な傲慢女で悪化する気が……。
何の因果なのだろうか。
足して割ることが出来るかは別として、やはり片方選択の方向でいこう。
強いて選択するなら前世だろうか。
今はスワロ―伯爵家という狭い世界の中で唯一の王女のように不遜に振る舞っているが、いずれ社交界に出れば伯爵家なんて王家や公侯爵から睨まれたら一発でアウトだろう。
恐ろしいことに、ガートルードの性根では本人の性質だけで破滅へ直行する可能性すらある。
しかし、前世のガートルードであれば、それはないだろう。
自分で言うのもなんだが、計算高いところがあったので。
貴族として生きていくならそちらの方が無難な気がする。
おかしい。貴族として生まれた性格より庶民として生まれ育った性格のが貴族として生きていくのに適しているなんて……。
まあ、弱肉強食であるのは庶民でも貴族でも変わりはないか。
どちらにしても、他人から好かれる、という要素が欠片も見当たらない。
困りはしないが釈然としないものはある。
まあそれはそれとして。
今後の方向性の問題だが……。
……よし、前世ベースでいこう。
善人の皮を被るのは場合によっては仕方ないが、常時は無理。
ストレスで死んでしまうわ。
ただきっと、計算高くて嫌味なだけではきっと行き詰まると思うので、それは、今後の課題……。
うう、もう駄目。
もう限界。
後のことは、後で考えよう。
今はただ、前世の私が定着することを祈って……。
そこで、私は急速に襲いくる眠気に負けて、深い眠りへと落ちていったのだった。
次回もお願い致します。