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熱が下がって

転生ものですが、異世界転生ではありません。

 あれから三日三晩高熱にうなされ、寝たり起きたりを繰り返していた。


 その間意識は朦朧とし、ほぼ記憶にない。


 しかし、常にその傍らにはあの天使の姿があったと思う。


 あの天使の正体とは、この私、ガートルードの姉のエヴァンジェリンであった。




「ねえ、ガートルード。お水はのめる? はい、私が飲ませてあげるからお口開けて?」


 そう言いつつ天使の笑顔で水差しを口元に差し出してくる姉エヴァンジェリンに私は見惚れつつも首を振った。


「いいえ、お姉様。今は大丈夫です」


「そう? 飲みたくなったらいつでも言ってね? おなかは空いてない? 汗は? お着替えする?」


 小首を傾げながら尋ねてくる姉に、私は苦笑しつつ首を振る。


「いいえ、お姉様。大丈夫です。でも、少し疲れたからお休みしたいかと思います」


「そう。じゃあ私は自分の部屋へ戻るわね。何かあったらすぐに呼んでね?」


 姉は私の頭を一撫ですると、そう言いながら部屋を出て行った。



「…………はあ」


 姉が部屋から離れていったのを見届け、私は大きく息を吐いた。


 熱も下がり、後は落ちてしまった体力を回復させるだけとなった。


 別に具合が悪いわけではないので、そんなに親身に世話を焼かれるほどのことはない。


 必要があってもメイドがすればいいことを、姉は自分から私の世話をすると言い張ってあれこれ面倒をみてくれる。


 それこそ、熱が出ていた時は寝る間を惜しんで額にのせる水で濡らした手ぬぐいをこまめに代えてくれていたらしい。


 私は意識がなかったのでよくは覚えていないが。


 姉はよわい六歳にして母性の塊のような人になっている。


 たとえ、妹が体調を崩した原因が自分にあるという罪悪感からだとしても。


 ……本当は姉のせいばかりではないのだが、この状況からするにそう思われても仕方がないのだろう。


 あの日、いざこざから滅多に手を出すことのない姉が私を突き飛ばした。


 いざこざの原因は当然のことながら私にあったがここでは割愛させていただく。


 突き飛ばされたと言っても、幼い女の子の力である。


 普通なら尻餅をつくていどのことですんだであろうが、場所が悪かった。


 あの時、私の背後は池だったのだ。


 バランスを崩した私はそのまま池に落ち、溺れ、意識を失った。


 たまたま近くに使用人がいて、すぐに助けられたため事なきを得たが、一歩間違えたら命を失っていたに違いない。


 そして、私はその事故から、ある記憶を思い出した。


 正確に言うと、この私、今のガートルードの記憶ではない。


 このガートルードとして生まれてくる前の記憶。


 前世のガートルードのしての記憶だ。


 ……ややこしい。


 ここはやはり、順を追って記憶を整理するのがいいだろう。


 わたしは枕に頭を預けるとそっと目を閉じた。


 瞼に思い浮かべるのは、一人の少女。


 長いくせがある黒髪。


 目の下の黒子があり。


 いつもツンとすましていた。


 彼女の名はガートルード。




 ――――――前世の私である。


前世も今世も同じ名前のガートルード。ややこしいですね。

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