カップ焼きそば転生
気がつくと俺はカップ焼きそばだった。
何を言っているかわからないだろうが、俺にもわからん。わかるのはただそうだという事実のみだ。
前は人間をやっていた気がする。
気がする、というのは記憶がないからだ。
正確には記憶というより思い出がない。人間であったころの思い出だ。
ただし、知識はある。
俺はカップ焼きそばであるが、メジャーなメーカーのものではない。地方のメーカーが製造販売している製品だ。ビニールで封をされ発泡スチロールの正方形の容器に、プラスチックのはめ込み型の蓋がされていて、角にお湯を捨てるための穴が開いている。中には麺と小袋が3つ。かやくとソースとふりかけだ。
そして、食器棚の一番下の戸棚に他のカップ麺と共に保管されている。
カップ焼きそばがそんなことをわかったところで意味があるのかどうかわからない。
動けないし喋ることもできないし。
自分がカップ焼きそばになったのだから、カップ麺と意思疎通できるかとも思ったがそういうわけでもない。
だがまあカップ焼きそばである。仕方があるまい。
カップ焼きそばらしくしていよう。
幸い、待つのは苦ではない。
長期保存が可能なカップ焼きそばだからだろうか。
人間であったころはどうだったろうか。
わからない。
だがまあ問題はあるまい。
今の俺はカップ焼きそばなのだから。
どれだけ時間が経過したのかはわからないが、戸棚が開いてついに俺は手に取られた。
ようやくの変化だ。
待つのが苦ではないとはいえ、それはそれとして暇ではあった。
ついにカップ焼きそばとしての本懐を遂げる時が来たのはうれしいことであった。
開けられてかやくを入れられてお湯を投入。
待ち時間は3分だ。
しかし2分30秒経過したところで持ちあげられる。
こいつ、なかなかやるじゃん。
待ち時間3分ということはそれまでに湯を捨てないといけないということだ。
湯を捨てるというアクションが必要な以上、3分経ってから動きだしては遅いのだ。普通のカップ麺との違いである。
ちょい固めが好きな人であればなおさらだ。
俺はいい相手にあたったとうれしくなった。
湯がすてられる。
ぼこん。
ぐちゃ。
俺の意識は途絶えた。
気がつくと俺はまたカップ焼きそばだった。
シンクをぼこんと鳴らして、驚いた拍子に蓋が開いて麺が落ちた瞬間に意識が途絶えた俺であったが、気がつくとまた未開封のカップ焼きそばになっていた。
時間が戻ったわけではない。
保管されている場所が違うことからそれがわかる。
いや実は時間も戻っているのかもしれないが、まあ特に意味はないからいいだろう。
とにかく別のカップ焼きそばであった。
今回もまた待つ。
備蓄食料として購入された場合はそれなりに待つこともあるだろう。
その日食うために買われた場合はその限りではないだろうが。
ともあれ待つのは仕方がないのだ。長期保存可能であることはカップ麺の長所でもあるのだから。
そうしてまた、開封の時が来た。
お湯が注がれ……!? なんだと!?
大変なことが起きた。
お湯が足りないのだ!!!
カップ焼きそばは内側の線までたっぷりお湯を注がなければならない。
そうでなければ麺が正常にもどらないからだ。
しかし、今回、お湯の量が全く足りていなかった。
麺を少し濡らしたお湯は3割程度しか満たされていない。
馬鹿がっ。
ポットから注ぐならお湯の量を確認しておくのは基本中の基本だろうがっ!!!!!!!!
それが俺の最後の思考となった。
そしてまたまた俺はカップ焼きそばになっていた。
なんだこれは。
俺はなぜカップ焼きそばになっているのだろうか。
わからない。
どうすればいいのだろう。
わからない。
なにができるだろう。
なにもできない。
なぜならば、カップ焼きそばだからだ。
自分で動けないし、意思疎通の手段もない。俺はエスパーでもない普通のカップ焼きそばだった。
ただ時が来るのを待つだけの身だ。
そしていつか食べられる。
食べられる?
食べられていないじゃないか。
シンクをぼこんしたり。
お湯不足だったり。
今回はどうだろうか。
ちゃんと食べてもらえるのか。
不安が募る。
そしてその不安は的中する。
お湯を注ぐ前にソースを開封して麺にかけられたのである。
俺は意識を失った。
それから俺は何度もカップ焼きそばになった。
なんどもぼこんしてシンクにぶちまけられた。
お湯の量が不足した。
ソースをかけるタイミングを間違えられた。
3分待つ間に電話がかかってきて30分放置された。
かやくの袋が麺の下に入り込んでいた。
買い物袋に入ったまま10年放置された。
何度も。
何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。
何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。何度も。
これは一体何なんだ。
俺はなぜこんな目にあっているんだ。
なぜカップ焼きそばなんだ。
わからない。
わからない。
わからない。
17から先は数えていない。
多分三桁は超えている。
俺はまだカップ焼きそばだった。
俺はまたカップ焼きそばだった。
今度はどうだろう。
今度もああなるだろうか。
今度こそ食べてもらえるだろうか。
もし食べてもらえたらどうなるだろうか。
こんなことを考える意味はあるのだろうか。
わからない。
わからないが。
なぜか今回が最後だと思った。
開封されて。
小袋が取りだされ。
かやくを面の上に開いて。
お湯を注がれる。
3分。
お湯を捨てる。
ぼこん。
ソースをかけてよく混ぜて。
ふりかけをかけて。
ああ、ああついに。
食べ物を粗末にしないでください。作中のカップ焼きそばはスタッフがおいしくいただきました。