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支援術式が得意なんですけど、やっぱりパーティーには入れてもらえないでしょうか  作者: 国広 仙戯
第五章 正真正銘、今日から君がオレの〝ご主人様〟だ。どうぞ今後ともよろしく

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●1 エクストラハードモード 2





 全身を覆う輝きは、あるいは〝SEAL〟の輝紋が励起しているのかと思ったが、違う。あれはフォトン・ブラッドの煌めきではあるが、正確にはギンヌンガガップ・プロトコルが発動した際の余剰光オーバーレイだ。それがユリウス君の全身を覆っている。ということは、つまり――


『ふぅーはははははははははぁっ! 遠からんものは音に聞け! 近くば寄って目にも見よ! この雄姿を! この晴れ姿を! 刮目せよ! これが〝切り札〟というものだ!』


 サンライトイエローの輝きが密度を増し、ユリウス君の姿を飲み込んで膨張する。一瞬の閃光が煌めいた直後、そこに出でたるは――


『我が名はユリウス・ファン・デュラン! 勝利を呼ぶ気高きヒーローとは、そう余である!』


 ――黄金の、巨人……?


 そうとしか呼べない存在が、さっきまでユリウス君がいた空間に屹立していた。


 ――あれは……何だろう……?


 第一印象を言えば、美術館にあるような英雄の石像に酷似している。筋骨隆々の偉丈夫で、ユリウス君には似ても似つかない。目測だけど、身長だって長身のカレルさんやジェクトさんよりも遥かに大きい。多分、二メルトル半ぐらいはあるだろう。


 さらにわかりやすく説明するため、強いて例えるのなら――かつて僕が戦ったシグロスの『竜人形態』にそこはかとなく似ている。同時に、今はロゼさんの手持ちの戦力となった『ハーキュリーズ』にも、どことなく近い雰囲気が漂っている。


 総じて一言で言ってしまえば――〝金色に輝く全身鎧を纏った、機械仕掛けの大戦士〟――となるだろうか。


「…………」


 突然現れた謎の威容。その全身からは、いわゆる〝強者のオーラ〟とでも言うべきものが、溢れんばかりに立ち上っていた。


『――いちいち名乗りを上げている場合ですかっ! 空気を読みなさいユリウスッ!!』


『おいおい、坊ちゃん。俺の足止めもそう長くは保たないんだぜ?』


 アシュリーさんのツッコミとジェクトさんの呆れ声から察するに、やはりあの黄金の巨人はユリウス君らしい。


『ああ、わかっているとも我が戦友達よ! この余がいま、卿らの危機に駆けつける!』


 バッ、バッ、と黄金の戦士――さっき〝サウィルダーナハ〟とか言っていただろうか――がやけに大仰なポーズを取りながら応答する。その正義の変身ヒーローにでもなったかのようなノリに、僕は戦闘中だというのにうっかり気が緩んでしまいそうになる。


 ――な、なるほど、こういうタイプなんだ……


 ユリウス君の自由奔放さに、甘引きしながらもむしろ納得してしまう。


 こう言っては何だが、ヴィリーさん&カレルさん配下の〝カルテット・サード〟は、巷では『四人とも頭のネジが何本か外れている』という噂がまことしやかに流れているのだ。アシュリーさんの苛烈なまでの生真面目さ然り、四人全員が一筋縄ではいかない性格をしているのだという。


 それだけに、ユリウス少年の素っ頓狂とも言える言動には、まさに噂通りだな、と頷く他なかった。


『いざ現れよ、我が無双の槍よ!』


 かっこよくポーズを決めたユリウス君の右腕に、さらにサンライトイエローの輝きが収束し、ストレージから何かが具現化する。


 データから変換されたのは、これまた黄金に輝く大きな盾。


 ――あれ? いま槍って言ってなかった……?


 内心で首を傾げると、その理由はすぐにわかった。


『充――填っ!』


 謎の溜めを挟むポージングを経た後、盾と思しき物体の両サイドに空いていた穴から、幾本かの光の棒が飛び出した。さてはハーキュリーズのそれとはまた違った形のスパイクシールドか、とも思ったけど、それは早とちりだ。


 槍である。五本の光の槍が、まるでバーベキューの串のごとく盾を貫くように、横から生えていたのだ。


 ――あれが、無双の槍……?


 盾の上部から下部へかけて、等間隔に並んで空いた穴と、そこに装填された五本の槍。あれは、あの形は、槍と言うよりはむしろ――


『きゃーっ!? なにあれ!? 何アレ!? 何あれ!? ナニあれーっ!? パワードスーツ!? パイルバンカー!? ちょっとやだ嘘、アタシ大好物よ!? ああいうの超大好物なんですけどーっ!!』


 別の戦場で翼蛇ククルカンと戦っているはずのフリムが、目敏くこちらの状況を見て黄色い悲鳴を上げた。さもありなん。フリムは〝無限光アイン・ソフ・オウル〟の異名をとるほどの武具作製士クラフターだ。こんなものを見て黙っていられるわけがない。


 そう。僕の従姉妹が言う通り、ユリウス君が身に纏っているのはいわゆる〝パワードスーツ〟で、その右腕に装着されているのはどう見ても〝五連装パイルバンカー〟とでも呼ぶべき――こう言っちゃなんだが、およそエクスプローラーが扱うには不向きすぎる――【ロマン武装】だったのである。


『ちょ、ちょっとフリム! 危ないからよそ見なんかしちゃダメだよ! ちゃんと戦闘に集中しないと!』


『うっさいわねーだってしょうがないじゃないあんなの見せられて黙ってられるわけないでしょこのおバカ! ああそっちのユリウス君だっけ? あとでちょっとそのスーツとかバンカーとかアタシに見せてくれない? っていうか今は同盟組んでるし見せてもらっていいわよね? 情報共有じょーほーきょーゆうっ!』


『――あなたもあなたで空気を読みなさいこのおバカフリムッッ!!』


『うっひゃっごめんなさいーっ!? ――ああもーアシュリーに怒られちゃったじゃないのよハルトのせいでーっ!』


『僕のせいなの!?』


 あまりにも理不尽すぎる物言いに講義の声を上げるけど、空恐ろしいことに、僕の幼馴染みは一連のやりとりをしながらも高速で空中を駆け、翼蛇ククルカンとの戦闘を継続していた。念話とはいえ、かなりの早口で喋っていたのは戦闘中ゆえの高速思考によるものだろう。


 ――と、そんな漫才みたいな話は置いといて。


『ゆくぞジェクト! 余にタイミングを合わせるのだっ!』


『へいへい、早くしてくんな、お坊ちゃん』


『ふぉおおおおおおおおおおっ!!』


 気合の声を上げたユリウス君の背中から、勢いよく山吹色のフォトン・ブラッドが噴出した。僕のよく使う〈ドリルブレイク〉よろしく、巨体が砲弾のように撃ち出される。五連装パイルバンカーを装着した右腕を振りかぶり――


『喰らえぇいっ!』


 グローツラングの横っ腹にゴツイ拳を叩き付けた。


 ズゴン! と重い音が響いた瞬間、ジェクトさんが入れ替わるように素早く土蛇の側から離脱する。


 そして、


『穿て! 第一の槍〝ゲイ・ルー〟!』


 張りのある声と同時に炸裂音が響き、パイルバンカーの一本が撃ち出された。


 ズガァン! とサンライトイエローの光槍が、グローツラングの装甲の隙間へ深々と突き刺さる。


『GGGGGGRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAA――!?』


 さらに、


『第二の槍〝ゲイ・アッサル〟!』


 二本目のパイルがグローツラングの腹を抉る。ユリウス君はそのまま連続でパイルバンカーを発射していく。


『第三の槍〝アーラーワル〟! 第四の槍〝ルイン・ケルトハル〟! 第五の槍〝タスラム〟!』


 立て続けに放たれた光の槍が、五度グローツラングの胴体を穿つ。


『GGGGGGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAAAAAAAA――!?』


 音量を増したグローツラングの悲鳴が上がった刹那、しかしそれを吹き飛ばすほどの大音声が響き渡った。




『今こそ我が敵を焼き尽くせ! ――爆ぜろ〝ブリューナク〟ッッ!!』




 転瞬、百本の雷霆が同時に落ちたかのごとき爆音が轟いた。


 グローツラングの腹に突き刺さった五本の杭が、激しく雷電を迸らせ、爆裂したのだ。


 鳩尾を殴られたかと錯覚するほどの重低音が腹の底を揺らし、ビリビリと大気を震動させる。


『GGGGGGGGRRRRRRRRRRRRRROOOOOOOOOOOOOOAAAAAAAAAAAA――!?』


 凄まじい稲妻が土蛇の全身を駆け巡り、金属とダイアモンドでできたゲートキーパーを灼き焦がした。弾ける雷光が、内側から巨体のあちこちを爆発させ、水飛沫のように金属部品が飛び散る。


『GG……RR……――』


 やがて光が収まった頃そこにあったのは、どこか焼きすぎて皮が破けたソーセージにも似た、巨大な金属の塊だった。


 ――す、すごい……たったあれだけの攻撃で……!?


 ユリウス君曰く『ブリューナク』によって内側から破壊された機械の怪物は、しかしジェクトさんに動きを縫われた状態のまま、全機能を停止していた。


 ほどなく活動停止シャットダウンシーケンスへと移行し、光の球へと還っていく。


『……ふっ! 他愛もない! 余が相手するまでもなかったな! はぁーっはっはっはっはっ!!』


 巨体を誇るゲートキーパーを一撃――五撃? 六撃?――で破壊した黄金の戦士は、少年特有のやや可愛いらしい声で高らかに笑ったかと思うと、


『――では後は任せた、戦友達よっ!』


 そのまま後ろに、バッターン! と倒れてしまった。硬くて重いものが床にぶつかる音がしてから、パワードスーツの具現化も解けてユリウス君の小柄な体が現れる。再び姿を露わにした〝カルテット・サード〟の一人は、腕を組んだ傲然とも思える体勢で、不思議なほど堂々と仰臥していた。


 ――へ……?


 とんでもない攻撃を放ち、まさに異名である〝鎧袖一触アトゥー・シュバリエ〟にふさわしい攻撃でゲートキーパーを屠ったというのに、これはどういうことだろうか。


 首を傾げている僕の頭に、アシュリーさんの呆れ声が響く。


『まったく……相変わらず手加減を知らない愚か者ですね、あなたは。ゼルダ、ユリウスを回収して後方へ連れて行きなさい! 私達は先に団長達と合流します!』


『ガッテン承知でありますです!』


 すぐさま凜とした声で指示が飛び、〈シリーウォーク〉で空中を駆けていたゼルダさんが一陣の風と化した。藍色の影がさっと走ったかと思えば、床に寝転がっていたユリウス君を浚って後方へ――つまり僕がいる方へ――と連れてくる。


「それじゃあベオさん、ちょっとコレ置いていくのでよろしくであります!」


「ぐぼはっ!? ――お、おのれゼルダ! 余をぞんざいに投げ出すとは何事だ! この偉大なる英雄を敬い称えるべきではないかね!?」


「一発撃っただけでガス欠になるヒーローなんて偉くとも何ともないでありますよー。ユリウスは言って精々『使い捨て爆弾』って感じでありますですしー。あ、中身を補充したら再利用できるので、『大砲』って言った方が正しいです? まぁどっちにしても【一発屋】なのは変わらないでありますけど」


「屈辱だぁーっ! 卿らはいつもそうだ! 余の力を求めるくせに、ことが済んだら途端に冷淡無情になる! まったく余を何だと思っているのだね!」


「一発こっきりの〝切り札〟を擬人化したらユリウスになります――って前にアシュリーが言ってましたですよ?」


「ははははは全く以てその通りだな! 口惜しいが余の負けだ! 煮るなり焼くなり好きにしたまえ!」


「はいはい、それじゃあここで大人しく休んでいてくださいですねー。じゃあ、あとはよろしくですよベオさん!」


「えっ!? あ、は、はいっ?」


 目の前で漫才みたいなやりとりを見せられたかと思えば、ゼルダさんはシュタッと片手を上げ、再び藍色の疾風となって消えてしまった。


 この場に、僕とユリウス君だけが取り残されてしまう。


 僕はもちろん、脳内では他の戦場を俯瞰視点で眺めつつ、必要なところに適切な支援術式を送信しているのだけど、物理的にはここで彼と二人っきりという状況である。


「…………」


 思わず、今なお尊大に腕を組んだまま仰向けになっているユリウス君へ視線を向けてしまう。すると、不意に目が合ってしまった。


 ――ひぇっ……!?


「……ん? どうしたのだ、余の顔に何かついているのかね?」


「あ、い、いえ……!」


 こちらを射抜くような真っ直ぐな瞳に、つい委縮してしまう。けれど言葉を濁した僕に対し、ユリウス君の勢いは止まらない。


「――おお、そうかわかったぞ! 余の英雄的行動に感銘を受けたのだな! うむ、よい心掛けだ! よかろう許す! いくらでも余の顔を眺め尽くすがよい! ふはぁーはっはっはっはっはっ!!」


「は、ははは……」


 何だかよくわからないけど、盛大な勘違いをされてしまったらしい。でも、訂正するのも骨が折れそうなので、僕は曖昧な愛想笑いを浮かべてスルーすることにした。


 この子、年齢とか背丈とか色合いとか言葉遣いとか、どことなくハヌに似た雰囲気を感じていたのだけど――しかし決定的に違うところがある。


 彼はどうやら、思い込みが激しい性格らしい。自己評価が正しく出来ていないというか、変身願望が強いというか。そのあたり、ハヌにはない属性ではある。


「――――」


 と、大口を開けて笑っていたユリウス君がいきなり黙り込み、静かになった。唐突に笑い声が止んだので、気になって見てみると、


「……………………ふがっ……んぐっ……にゃむ……」


「……えっ? ね、寝てる……?」


 思わず呟きが漏れた。聞いての通りである。ついさっきまで元気に笑っていたユリウス君が、まるでスイッチが切れたかのように眠っていたのだ。


 ――そうか、フォトン・ブラッドの枯渇イグゾーストだ……


 多分、さっきのグローツラングを葬った一撃で全てのフォトン・ブラッドを使い切ってしまったのだろう。ちょうど、〈エアリッパー〉を撃って昏倒してしまうハヌと同じように。


 ――ああ、なるほど。だから〝切り札の騎士(アトゥー・シュバリエ)〟なのか……


 一回しか使えない、しかし最強のカード――〝切り札〟。


 普段は役に立たないが、ここぞという時では精彩を放つ〝最終兵器〟。


 究極の一撃で敵を必殺する〝鎧袖一触〟とは、まさにこのことだ。


 今なら、出会った頃のアシュリーさんが僕に辛辣な評価を下していた理由もよくわかる。


 何故なら、ユリウス君の戦闘スタイルは【僕とよく似ている】からだ。


 僕も素の状態では下の上、ないしは中の下程度のエクスプローラーでしかない。だけど知っての通り、支援術式を重ね掛けして〝アブソリュート・スクエア〟まで持っていけば、強化係数一〇二四倍の能力を発揮することが出来る。


 そして、支援術式の効果時間の三分が過ぎてしまえば、今のユリウス君と同じように、体力を使い切って動けなくなってしまうのだ。


 ちょうど身近にそっくりなケースが存在していたのだ。こんなピーキーな戦力が味方にいて、日々運用に頭を悩ませていたからこそ、アシュリーさんは僕に向ける目を厳しくせざるを得なかったのである。


 まぁ、アシュリーさんがユリウス君に手を焼くのは、戦闘スタイルがどうこうというより、彼の性格に依るところが大きい気もするのだけど。


 ――と、ぼんやりと想像している間も、僕の意識の半分以上はまだ二つ残っている戦場へと向けられている。


 現在、アシュリーさん達はカレルさんの班に合流し、かつて僕とハヌが戦った水竜と同型のゲートキーパー〝タケミナカタ〟との戦闘に入っていた。


 グローツラングを始末したアシュリー班が他の戦場へ合流するのは、最初から決まっていたことだ。


 いくらトップ集団の一角である『蒼き紅炎の騎士団』に、僕達『BVJ』が加わっているとは言え、流石にゲートキーパー三体に三正面作戦を続けるのは無理がある。


 故に、まずは対グローツラング戦を速攻で終わらせるため、『NPK』の幹部〝カルテット・サード〟全員を一つの班にまとめ、戦力を一極集中させた。そして、高火力で迅速にグローツラングを活動停止させた後は、アシュリー班を他の戦場に合流させ、ゲートキーパーを一体ずつ各個撃破していく――それが今回の作戦の肝だったのだ。


 作戦は見事に功を奏し、一つ目の関門である土蛇グローツラングはコンポーネントに回帰した。次のターゲットは、カレルさんとロゼさんが足止めしているタケミナカタである。


『UUUUUURRRRRRRRRRRYYYYYYYYY――!!』


 聞き覚えのある電子音が轟き、幾本もの水の槍が高圧噴射され――


 ていない。


『――しつこい奴だ』


 カレルさんの溜息交じりの呟きが、ルーターを介して頭に流れ込んでくる。


 さもありなん。彼の異名こそ〝氷槍〟。炎の剣士として高名な〝剣嬢〟と対をなすカレルさんの力とは、即ち【冷凍】。


 タケミナカタが中空に召喚する水は全て、現れる端からカレルさんの手によって固い氷へと変えられていたのである。


『UUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYY――!!』


 機械型SBのくせにムキになったのか、タケミナカタはさらに咆哮の音量を上げ、新たな水を湧出させる。しかし、


『〈ニーズヘッグ・ブレス〉』


 まさしく氷よりも冷たい響きで、カレルさんが攻撃術式を発動。途端、周囲の空間が真っ白に染まるほどの、しかし【真っ赤な】冷却風が吹き荒れた。


 無数のガラスがひび割れるような、歪な音が連続して鳴り響く。


『UUUUURRRRRYYYYY!? UUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYYY――!?』


 きっとわざとだろう。これまでより早いタイミングでカレルさんが冷却攻撃を放ったものだから、タケミナカタは自ら呼び出した水を浴びるような形で凍結されてしまった。その結果、長大な蛇身の至る所に霜が降り、泣いているような、涎を垂らしているような、あるいは急激に老けてしまったかのような風貌へと変化する。


 無論、タケミナカタには水を操るだけでなく、長大な身についた牙や爪、尾を用いた強力な物理攻撃がある。だがそれも、サファイアブルーの全身を縛り上げる蒼銀と紅銀の鎖、そしてその二本によって制御される不可視の力場〝グレイプニル〟に拘束されているとあっては、まったく無用の長物であった。


 これぞ完全封殺。


 十八番である水での攻撃はカレルさんに潰され、物理攻撃はロゼさんの鎖に止められる。タケミナカタは戦闘が始まった序盤以外は、手も足も出ない状態が続いていた。


『――お待たせしました、副団長。アシュリー・レオンカバルロ以下、助勢に馳せ参じました』


 アシュリー班が合流するまでは堅実にタケミナカタの足止めに終始していたカレルさんは、これに頷きを一つ。


『では総員、攻勢に移る。事前の打ち合わせ通りに動け』


 カレルさんの口調は、普段から抑圧的で威厳があるように感じられるけど、戦闘中ともなると尚更だ。


 しかし『攻勢』と言いつつ、整然と固められていた布陣から前へ出たのは、意外なことにたったの二人。


 カレルさんとロゼさんである。


 確かに打ち合わせ通りとはいえ、攻勢と呼ぶには少なすぎる人数には僅かな不安を感じてしまう。


『私から行こう。〝銀鎖の乙女(アンドロメダ)〟にはとどめを頼みたい』


『わかりました』


 カレルさんの落ち着いた声に、ロゼさんがいつもの恬淡な口調で応える。およそ今からゲートキーパーと直接対峙するとは思えないテンションの低さである。まるでやり慣れたゲームをプレイするかのような、どこか気怠さすら感じるやりとりだ。


 しかし、その直後。


『――〈ナグルファル・クラッシュ〉』


 荘厳な装飾が施されたハルバードを構えたカレルさんの口から、耳慣れない起動音声が紡がれる。


 応じてヴィリーさんに負けず劣らず、道を歩けば十人中十人が振り返るであろう美男子の顔に、ルビーレッドに輝く幾何学模様が浮かび上がった。


 先程の〈ニーズヘッグ・ブレス〉もそうだったけど、カレルさんもヴィリーさんと同じく、独自の系統の術式を使う人らしい。もしかしなくても、全てオーダーメイドしたオリジナル術式だろう。流石はトップ集団『蒼き紅炎の騎士団』の副団長、といったところか。


 果たしてカレルさんの発動させた術式は、油断なく構えられた槍の穂先へと作用した。


 流麗な形状の斧部に【真っ赤な霜】が生じたかと思えば、パキパキと硬い音をたてて真紅の氷が生まれる。術式によって生まれた赤い氷――カレルさんはこれを〝血氷けっぴょう〟と呼んでいる――は瞬く間に成長し、巨大な氷塊と化していった。


 巨大化し、肥大化し、膨張し、発達する。


 そうして出来上がるのは、槍の柄を握りとした、極大の鈍器。


 なんという大きさだろうか。僕が以前振るっていた〈大断刀〉が可愛く思えるほどのスケールだ。長いはずの槍の柄が、巨大すぎる氷塊との対比でまるで爪楊枝のようである。


『――ッ!』


 鋭い呼気。次の瞬間、カレルさんが一気に駆け出した。三歩目にしてトップスピードに乗り、跳躍。


 僕よりも頭一つ分以上は大きい長身が宙を舞い、拘束されてジタバタと足掻いているタケミナカタの眼前まで跳び上がった。


『――ふッ!!』


 間合いに入った刹那、超巨大な鈍器を大上段から振り下ろした。


 タケミナカタの頭より巨大な氷が、奴の額に激突する。


『UUURRRYYY――!?』


 激音。


 大質量の物体が激突する重い音、そして氷の砕ける快音が混じり合い、複雑な音響が鳴り渡る。


 カレルさんの叩き付けた氷塊――〈ナグルファル・クラッシュ〉はタケミナカタに甚大な打撃を与え、そしてその衝撃でいくつもの破片に砕け散った。


 それはさながら、夜空に真っ赤な花火が咲くような光景だった。


 巨大な氷は自壊することによって反動を分散させ、敵にダメージを与えつつ、使い手たるカレルさんには何の痛痒も及ぼさない。敵を一方的に破壊する、それは氷の利点を生かした攻撃だった。


 ただ、それだけなら単純な質量攻撃なのだが――


『――はっ!』


 未だ空中に身を置くカレルさんがさらに槍を振る。すると砕けたはずの氷の欠片が、吸い込まれるように穂先へと舞い戻り、再び塊を成した。


 ――えっ……? 速い……!


 あっという間に再形成された赤い氷塊が、今度はタケミナカタの喉元へ横薙ぎにぶち込まれた。


『UR――!?』


 先程と同じ激音が響き、くぐもったタケミナカタの悲鳴がそれに続く。しかしカレルさんは止まらない。連続だ。


『はぁぁぁっ……!!』


 砕けてはすぐ元に戻る巨大な鈍器を、嵐のように振り回す。一撃ごとに激音が炸裂し、怒濤のごとく連なった。


 床に着地するまでに一体どれほどの打撃を放っただろうか。ヴィリーさんの〈フェニックス・レイブ〉を彷彿とさせる連続攻撃を、身動きのとれないタケミナカタは全身で浴び続けるしかなかった。


『――UUURRRYYY……!!』


 だが、ゲートキーパーに『戦意喪失』などというステータスは存在しない。むしろ、ダメージを負うごとに奴らの凶暴性は増していく。


『UUUUUUUUUURRRRRRRRRRRRRRRYYYYYYYYYYYYYYYYY!!』


 タケミナカタの口から、身体中に張り付いた霜が全て剥がれ落ちるほどの咆哮が上がった。ザァッ、と薄い氷の群れが雨のように降り注ぐ。


 深いダメージを受けたゲートキーパーが何をするかなど、先程のグローツラングを見ての通りだ。


 翠色のアイレンズから青白い光が放たれると同時、長大な水蛇の全身から勢いよく水が溢れ出した。その勢いはこれまでの比ではない。先程までのを『蛇口を全開にしたような勢い』と称するのであれば、今度は『ダムが決壊したがごとき』と比喩するのが妥当だろう。


 しかし。


『懲りない奴だ』


 溜息交じり呟いたカレルさんの次なる一言が、まさしく時を止めた。


『――総員、冷却術式を発動』


 そう。この瞬間のために、カレルさんは他のメンバーを周囲に待機させていたのである。


 カレルさんの号令を受け、いくつもの術式起動音声が一斉に紡がれた。


『〈アイシクルエッジ〉!』『〈フリーズランス〉!』『〈氷烈弾〉!』『〈アイスコフィン〉!』『〈フィル・ブリザード〉!』『〈アイス・テンペスト〉!』『〈クリュスタッロス・ヘルヘイム〉!』


 ありとあらゆる冷却術式がタケミナカタに集中する。


 合流したアシュリー班のも含め、数多くの術式攻撃が瞬く間にタケミナカタの全身を包み込んだ。無論、全員の術力は僕の〈フォースブースト〉によって増強済みである。


『――UR……RR……』


 やがて、一斉攻撃によって発生した白い靄が晴れると、そこには水蛇の形をした氷の彫像が出来上がっていた。


 タケミナカタの切り札たる〝タイダルウェイブ〟で発生する水量は尋常ではない。いくらカレルさんが氷属性に長けているとはいえ、短時間で全てを凍らせることは不可能だ。


 故に、質より量。


 カレルさんとロゼさん以外の全員で、数に物を言わせて凍結させる作戦をとったのである。


『では、〝銀鎖の乙女(アンドロメダ)〟。とどめを頼む』


『承りました』


 これまで鎖でゲートキーパーの動きを封じていたロゼさんが、さらりと応答する。


 そうした次の瞬間には、彼女の身は純白の石像と化したタケミナカタの足元へと接近していた。





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