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リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-  作者: 国広 仙戯
第一章 支援術式が得意なんですけど、やっぱりパーティーには入れてもらえないでしょうか
9/183

●8 友達の資格、親友の基準



 ハヌと二人で、とんでもない事をやらかしてしまった翌日。


 いきなりだが、今日のエクスプロールはお休みである。


 僕はこの浮遊都市フロートライズに来て、もう二週間以上になる。なので既に定住のための部屋を借りているのだけど、ハヌはそうではない。


 ここに来て日の浅い彼女は、未だホテル暮らしだった。だから、今日は二人で部屋探しをすることにしたのだ。


 島のど真ん中に建つ――から伸びる?――ルナティック・バベルでエクスプロールをするため、この都市にいるエクスプローラーの大半が中央区、ないし近隣の区に居を構えている。斯く言う僕も、西区にある小さなマンションに部屋を借りている身だ。本当なら中央区に住みたかったのだけれど、家賃が高くて手が出せなかったのである。


 一方、ハヌはその出自から察せられるように、中央区のホテルに泊まっている。それも、かなり高級なところだ。多分、彼女が抱えている『事情』が理由なのだろう、と僕は推測している。超がつくほどの高級ホテルなら、宿泊客のプライバシー保護も完璧だろうから。


 出かける準備として、僕は玄関脇にある姿見の前に立った。


「……これで大丈夫、なのかな……?」


 鏡に映るのは、いつもと同じ黒の上下に、師匠のお古でもらったディープパープルの戦闘ジャケット、それとコンバットブーツを身に着けた、いつもの僕。


 ラグディスハルト、年齢十六歳。自慢ではないが、幼馴染以外の女の子と二人でお出かけしたことなど、これまでの人生で一度もない。故に、そんな場に着ていく服なんて一着も持ち合わせていないのである。


 僕の一張羅と言えば、エクスプロールに着ていくこの一式しかない。特に戦闘ジャケットについては、お古ではあるけれど、立派なエンチャンターに加護術式を永久付与してもらった由緒正しき逸品である。


 とはいえ。


「……引かれちゃうかな、やっぱり……」


 僕の脳裏に『なんじゃその格好は! 今日はエクスプロールではなく部屋探しと言うたじゃろう!』と怒るハヌが浮かび上がる。


 あるいは、僕の格好がいつものなのを見て取った瞬間、ハヌが溜息を吐いてそっぽを向く――そんな光景が容易に想像出来てしまった。


 ど、どうしよう。今からなら、まだ服を見に行く時間はあるけれど。でも、服を選ぶセンスなんて自信がないし、もし新しい服で行ってダサいって笑われてしまったら――


 そんな風に自縄自縛に陥って悶々と悩んでいたら、


「……えっ、あれっ!? もうこんな時間!?」


 いつの間にか時間の余裕がなくなってしまっていた。


 結局いつもの出で立ちのまま、慌てて部屋を飛び出す。


 大きな道に出てから、GPギンヌンガガップ・プロトコルでストレージに収納していたサイクルバイクを具現化し、全力で漕ぎ出した。


 余談だが、GPを使って物体をデータ化したり再び物質化させたりするのは、SBセキュリティ・ボットが出現する原理とよく似ている。実際、エクスプローラーはフォトン・ブラッドを用いて具現化しているけれど、術力を使用する訓練を受けていない人や一部の地域では、GPの利用にSBが残すコンポーネントが流用されている。


 なら、SBのコンポーネントでなくても誰かのフォトン・ブラッドを抽出すれば同じように利用できるのではないか? と思うかもしれないが、これが不思議と不可能だったりする。原理は判明しておらず、目下研究が続けられているが、とにかくフォトン・ブラッドは本人にしか扱えないのだ。


 ある意味エクスプローラーが生業として成立しているのは、そのおかげとも言える。SBから回収できる情報具現化コンポーネントは、今では人々の生活の必需品となっているため、いくらあっても足りることがないのだ。


 閑話休題。


 サイクルバイクで移動する道中、僕の頭の中では先程と同じ煩悶がずっとループしていた。


 やっぱりちゃんとした服を買って来るべきだっただろうか? いやいや僕とハヌは友達だし、別にこれはデートってわけじゃないし、そもそもあの子は僕よりも二つ三つ――下手したらそれ以上に年下なわけで、そんな子を意識するのはちょっと変なことなんじゃないかなって思うし、別に僕はロリコンってわけじゃないし、でもハヌは可愛いし、将来は美人になりそうだし、そりゃ友達が出来たことは嬉しいけど、それはそれとして僕も年頃だから彼女だって欲しいような気がしないでもないし、ああいやいや相手は現人神様だよ何言ってるの僕、だからそんな不遜な考えは一度脇に置いておくとして、やっぱり服は別のを買ってくるべきだっただろうか――?


 などと自問自答している内に、待ち合わせ場所に着いてしまった。サイクルバイクをデータ化して回収し、辺りを見回す。


 果たしてそこには、昨日と同じく灰色の外套を頭から被った小柄な女の子が待っていた。


「……………………ですよねー……」


 さっきまで僕を悩ましていた不安は一体何だったのか。まだ知り合ってから三日しか経ってないけど、早くも相変わらずと言えるハヌの格好に、僕がそこはかとなく抱いていた期待はあっけなく砕け散った。いや、わかってはいたんだけどね、うん……


 ハヌは待ち合わせ場所に指定した、僕達が始めて出会った『カモシカの美脚亭』の前で待っていてくれた。って、あれ? なんだか外套を被った影がソワソワしているような――


「お、おはよう、ハヌ?」


「うなっ!? お、おお!? ラトか! 待ちかねたぞ!」


「ど、どうしたの?」


 声をかけた途端、ビクッ、と振り返ったハヌにそう尋ねると、彼女は僕に身を寄せながら声を潜め、


「むぅ……理由はよくわからぬが……先程から妙に視線を感じる……何故じゃ……」


 言われて辺りを見回してみる。すると、通りを行くエクスプローラーらしき人たちが確かにチラチラとこちらを見ていた。中には、僕と目が合ってすぐに顔を逸らす人まで。


 すぐに察しがついた。


「――ハヌ、行こう。こっちだよ」


「ぬ?」


 僕はハヌの手を引いて歩き出した。ハヌも一言だけ疑問の声を上げるも、僕が何かを察したことに気付いてくれたのだろう。いつかの時と違って、素直に付いて来てくれる。


 僕は手近な路地へハヌを連れ込み、暗がりで足を止めた。振り返り、彼女と対面する。キョトンとした金目銀目がフードの奥から僕を見上げて、


「……どうしたのじゃ、ラト?」


「えーとね……」


 何て言えば良いものか。迂闊だった、としか言いようが無い。僕は膝を突いて、ハヌと視線の高さを合わせた。


「ハヌ、多分ね……その外套が、逆に目立ってるんじゃないかな?」


「なんじゃと?」


 ハヌは自分の体を見下ろして、愕然とする。


「何故じゃ? これは目立たぬために身に着けておるのじゃぞ?」


「うん、それはわかってるんだけど……でもね、昨日の件が原因だと思うんだ、僕」


「昨日? 妾達があのゲートキーパーとやらを倒した件か?」


「そう、それ」


「……意味がわからぬ」


 ハヌは率直だった。この率直さがいい所なのだと思うけど、場合によってはちょっと考え物かもしれない。


「……昨日、僕達は新層が解放された初日、しかもたった二人で、ゲートキーパーを倒しました。それはすごいことです。大偉業です。流石はハヌ様です」


「うむ。妾とラトの力ならば当然のことじゃ。そう、ラトよ。おぬしの力があってこそ、なのじゃぞ? 妾だけを持ち上げるでないわ」


 とか言いながら嬉しそうに胸を張るハヌ。だけど本題はここからだ。


「そう、おかげで僕達は有名人です。多分、今頃あちこちのエクスプローラーが僕達の話で持ちきりだと思います。それぐらい凄い事を僕達はやってしまいました。さて、思い出してください。その時、あなたはどのような格好をしていましたか?」


「その時の格好? それはもちろん、この――」


 と、身に纏った外套の端っこを摘み上げたハヌが、いきなり硬直した。自慢げな口元が唇を半開きにしたまま、石像と化す。


「……ご理解いただけたでしょうか?」


「……うむ……よきにはからえ……」


 どうやら僕の皮肉に冗談で返すぐらいの余裕は残っているらしい。


 はぁ、と僕は大きく息を吐く。


「というわけで、とりあえずそれは脱いだ方がいいと思う。今じゃ逆に、その外套がハヌのトレードマークみたいになっていると思うから」


「仕方ないのう……」


 結構気に入っていたのか、名残惜しそうに外套を脱ぐハヌ。地味な灰色の布が一枚剥がれると、現れるのは極東特有の衣服、『着物』である。


 ハヌが着用しているそれは、僕の知っている着物とは微妙に違う点がいくつかある。だけど、その特異さは少しも変わらない。絶妙なグラデーションがかかった薄紫の布地に、絢爛華麗な刺繍――この間見たのとは少し柄が違うようだ――が施されているミニスカート風のそれは、言うまでもなく非常に目立つ。しかも足元は、ここいらでは珍しい白足袋と漆塗りのぽっこり下駄だ。


「……前から思ってたんだけど、ハヌの格好って色々とチグハグだよね……」


「? どういう意味じゃ?」


「いや……外套を被って顔とかを隠すのはいいんだけど、それなのに独特な音がする下駄を履いたままだったり、とか……」


 歩く度にカランコロンと特有の音がするのでは、素性を隠しきれていないと思うのだけど。


「何じゃ、そんなことか。瑣末なことじゃ。気にする必要などない」


 とハヌはにべもない。顔さえ見えなければ大丈夫、ということなのだろうか。


「――にしても、これはこれで派手だよね……」


「……そうかの?」


 ハヌは再び自分の身体を見下ろし、小首を傾げる。


「もっと派手なものもあるのじゃが」


「あー……つまり、これが地味な方なんだね、ハヌとしては」


「うむ」


 とはいえ、表通りを歩けば人々の注目を集めてしまうのは間違いないだろう。


 そも、服装は別にしてもハヌの容貌はそれだけで人目を惹く。存在感が強い、とでも言おうか。今だって暗い路地にいるのに、彼女だけ全身から光を放っているかのように煌びやかなのだから。


 と、僕の背後から物音。ガチャリ、と扉が開き、誰かが建物から出てくる気配だ。


「……ハヌ、ちょっと動かないでね」


 僕は反射的にハヌの手を握り、隠蔽術式を発動させる。今日はまだスイッチを介してリンクを結んでないので、物理的接触が必要だった。




「あー、ダルっ」「なぁ、もう小休憩入る奴がゴミ捨て兼任とかやめてくんねぇかな?」「しょうがねぇじゃん、そうでもしないと誰も捨てに行かねーんだから」




 そこらに積まれた荷物の陰で見えないけど、声と会話からして男性が二人。確か、この路地の片側の建物が飲食店だったはずだから、そこの従業員だろう。僕は耳を傍立てる。




「そういや見た? 昨日のニュース」「あ、ルナバベの階層ボスがいきなり倒されたってやつ?」「そそ、それ。二人しかいないクラスタで、どっちも子供ってやつ」「見た見た、女の子が可愛かったよな。将来美人になるぞ」「男の方は冴えない感じだったけど、あれ兄妹かな?」「その割には黒髪と銀髪だったぞ? 違うんじゃね」「しっかし、すげえよな。今まで階層ボスを術式一発で倒した奴なんていたっけ?」「記憶にねえなぁ……もはや伝説レベルだろアレ。歴史に残るんじゃね?」「それが、二人とも現場から逃げちまって素性がわからないんだとよ。知り合いのエクスプローラーが、絶対自分のクラスタに入れるんだって息巻いてやがったけど」「あー、確かに争奪戦になるだろうな。男はともかく、女の子の術式はマジ怪物だし」「スカウト合戦であちこちの集会所がえらい騒ぎらしいぜ。これでまた変な事件とか起こらなきゃいいんだけどな」




 そこからは、ホールで働くウェイトレスの中で誰の胸が大きいだとか、誰のお尻の形が良いだとかの話に転がっていき、二回目の隠蔽術式が切れる頃には二人はお店の中へ戻っていった。


「……何じゃあやつら、女は胸と尻だけあれば良いと申すか」


「違うよねハヌ、そこじゃないよね今大事なのは」


「む?」


 思わず間髪入れずに突っ込んでしまった僕に、ハヌの怪訝そうな視線――というか、ジト目が向けられる。


「よもや、ラトも女の価値が胸と尻にあると思うて――」


「ないない! ないよ! いやだからそっちの話はいいから!」


 話が思いも寄らぬ方向へ転がっていくので、慌てて全身全霊で否定した。今度は前回のように、小っちゃいのも好きだよ、なんて失言はしないよう気をつける。


「そ、そんなことより! もう完全に僕達の顔が広まっちゃっているみたいだね。どうしようか……」


 しかも案の定というか何というか。一部のクラスタがハヌ獲得に動いているみたいだ。あれほどの威力を持つ術式に、立体型アイコンという前代未聞の術式制御力を持つ人材なのだ。引く手数多なのは、夜が明けて朝が来るぐらい当たり前の話だった。


 けれど、ハヌには人目を避ける事情があることを僕は知っている。実際、昨日もゲートキーパー撃破という偉勲を立てたにも関わらず、皆の祝福も受けずに逃げるという選択をしたほどだ。


 事情はわからないけれど、僕は友達として、そんなハヌの力になりたいと思っている。だから、こうして悩んでいるのだけれど――


 考え込む僕に、ハヌは不思議そうに訊く。


「? 問題はなかろう。今のようにラトの術式で身を隠せば、誰にも見つからんのじゃろう?」


「うーん……それはそれで一つの方法なんだけど、いくつか問題がね……」


 人混みの中で隠蔽術式を使用するのは色々と危険なのだ。相手にはこちらが見えないから、通行人と正面衝突したり。移動車両の類に撥ねられる可能性もある。それに、いくら僕の術力が弱いからといって、無限に支援術式が使えるわけでもない。当然ながら、身体に貯め込めるフォトン・ブラッドの量には限度があるのだ。


 ひとしきり悩んだ結果、浮かんだのは実にシンプルな案だった。


「――変装、とかどうかな?」


「変装?」


「うん。つまりは、ハヌがハヌであることがわからなくなればいいんだよね? なら髪型と服装を変えれば、別に顔を隠す必要はないんじゃないかな――って」


「ふむ……確かに一理あるの」


「ハヌは普通の服……っていうとアレだけど、みんなが着ているような服は持ってるの?」


「いや、妾は宮殿から持ってきた物しか持ち合わせがない。全てがこれと同じような形じゃ」


 となると、選択肢は一つしかない。


 それは、ハヌと合流する前に散々考えてきたことだけに、口にするには少し勇気が必要だった。


「――な、なら、一緒に服を買いに行こうか……?」


「うむ、そうじゃな。それしかあるまい」


 僕の内心など知りもしないハヌは、あっさり頷いた。それはもう拍子抜けするほどに。


 なんというか、やはり僕が無駄に意識しすぎているだけなのだろうか……?


 友達と服を買いに行ったことは勿論、女の子と――それが例え年下だとしても――二人きりで出かけたこともない僕にとって、それはもう一大事なのだけれど。


 しかしハヌにとっては、必要だから買い物に行く、というだけの感覚なのかもしれない


 というか、ハヌとお出かけする、ただそれだけで浮ついているく僕の方が幼稚過ぎるのだろう。きっと。


「……む? 待つのじゃ、ラト」


「え? どうしたの?」


 移動するために立ち上がった僕に、ハヌがばっと両手を広げて制止をかける。彼女は硬い表情で僕を見上げ、


「今気付いたのじゃが……この状況はもしや……『トモダチ同士のお出かけ』、とやらに該当するのではないか!? ち、違うか!?」


「ええっ!? 今気付いたの!?」


 僕なんか昨晩からずっとそう思ってたんですけど!? とは流石に言えず、僕の方も今更ながらハヌが同じ認識をしてくれたことが嬉しくて、思わずテンションが上がってしまう。


「そ、そうだよ! お出かけだよ! 友達同士の交流って奴だよ!」


「や、やはりか! やはりそうじゃったか! お、おお……こ、これが音に聞く……!」


 瘧のごとく、ぶるぶると小刻みに震えだした己が手を見つめるハヌ。頬を朱に染め、身震いするほどに小さな胸を満たすのは、期待か、不安か、緊張か。


 遅ればせながらハヌと心が通じた嬉しさのあまり、僕は思わず張る必要も無い虚勢を張ってしまう。


「ま、任せて! この街じゃ僕が先輩だから、ちゃんと立派な服屋さんへ案内するからね! 大船に乗った気でいてよハヌ!」


「うむ! 頼りにしておるぞ! 妾とラトで、さらに親睦を深めるのじゃ!」


 端から見れば馬鹿二人にしか見えないだろう僕達は、しかし当人達にとっては非常に心地よい高揚感に身も心も包まれ、踊るような足取りで街へ繰り出したのだった。






 僕のストレージにバスタオルがあったので、とりあえずは純白のそれをハヌに貸して、目立つ服を隠してもらった。


 それから二人でそそくさとデパートへ向かい――立派な服屋と言った手前、高級そうな場所というとここぐらいしか思いつかなかった――、そして現在。


「ご、後生じゃああああああああ! ラトぉおおおおおおおおお!」


 うーん、おかしいな。《SEAL》でマップ検索した時、ここの店員さんはとても親身になって相談に乗ってくれる、気さくな優良店だと聞いていたのだけど。


「も、もう嫌じゃあーっ! 妾は着せ替え人形ではないぞぉおおおおおおーっ!」


「はぁい、次はこちらなど如何でしょうか? お嬢様にとってもお似合いになると思います♪」


「もっ、もうよい! これでよい! これを買う! じゃ、じゃからもう試着は――」


「あらあらいけませんよお嬢様。せっかくお兄様がプレゼントしてくれるのです。もっとちゃんと吟味して選ばなければ! それにこんな上玉そうそう逃がしてなるものですか――おっと失礼しました今のはお忘れください。ところでこちらのドレスの次はあちらの一式も試してみましょうそうしましょう」


「うなぁああああああああっ! は、はよう妾を助けよ! ラト! ッラトぉ――――――――――――ッ!!」


 涙ながら魂切る絶叫を上げるハヌが、店員さんに連れられて試着室の奥へと吸い込まれていく。


 何がどうなっているのかというと、実は僕にも何が何だかよくわからない。


 デパートに入ってすぐ、ハヌの体格から考えて子供服売り場へ足を運んだところ、今も彼女と一緒に試着室で――もとい、ハヌ【で】遊んでいる店員さんと出くわしたのだ。




「――あらあらまぁまぁ、可愛らしいお嬢様ですね。いらっしゃいませ。どのような服をお求めですか?」


「ふむ? 妾はよその服についてはあまり知らぬのじゃが」


「あー、じゃあすみません、店員さん、この子に似合う服を――」


「あらまぁ、ご親類のお兄様ですか? 本日はプレゼント用でしょうか?」


「え? あ、いや、えっと……そ、そうですね?」


 どうやら僕は従兄弟か何かだと思われたようだ。訂正したり説明したりが面倒なので、適当に頷いておく。


「それはそれは。当ブランドをお選びいただきありがとうございます。お兄様としては、どのような服をお贈りになりたいとお考えですか?」


「あの、えっと……すみません、僕もあんまり詳しくなくて……その、出来れば店員さんに、この子に似合う服を選んでいただきたいんですが」


「まぁ! そういうことであればお任せください! 私の全身全霊を上げて、お嬢様にピッタリの服をご用意させていただきますわ!」


 うわぁ、すっごく嬉しそうな笑顔だなぁ、キラッキラッしてるなぁ。などと呑気に構えていたら、むんず、と店員さんがハヌの腕を掴んだ。


「おうっ?」


 とハヌが驚いたオットセイみたいな声をこぼした瞬間、


「それではお嬢様こちらです! さあ、試着を始めましょう!」


 ばびゅーん、と疾風のごとき勢いで二人の姿が試着室の中へと消えていった。


 そこからはもう、出てくるわ出てくるわ、多種多様な服に着替えさせられたハヌのファッションショー。どこぞのお姫様のようなふわふわドレスから、一体どの地域あたりなのか見当もつかないエスニックな衣装、そして子供服と呼ぶには際どさが過ぎる物まで。


 ありとあらゆる服を身に着けては現れるハヌの顔が、五回目ぐらいから徐々に曇りだした。


「の、のう? 店員、おぬしは妾に何を――」


「ああ……! お似合いです、お似合いですよお嬢様! すごい! ここまで何でも似合うなんて……! 何という素質でしょうか! モデルになれますよお嬢様!」


 何か言おうとしたハヌを遮って、次から次へと売り場から服を持ってきては試着させる店員さん。


 うん。僕の気のせいでなければ、あの人、絶対楽しんでるよね?


 とはいえ、服選びをお願いしたのは僕の方なので文句を付ける筋合いもなく。そもそも子供向けとはいえ女性服のお店で声を大きくする度胸もないわけで。


 それに、何だかんだ言って、色んな服に着替えさせられるハヌはやっぱりとっても可愛いわけで。


 何だろう、お兄様とか呼ばれたせいだろうか。兄が可愛い妹を見る気持ちってこんなものなのかなぁ、と妙に和んでしまう。


 だけどハヌにとっては我慢ならないことだったらしく、十五回目ぐらいで、


「もうよいっ! 妾は玩具ではないぞ!」


 とうとうムキーッと怒鳴り、なんと下着――以前にも目にしたクラシックパンツこと『ふんどし』――一丁で試着室から飛び出してきた。


「わあっ!? ハ、ハヌッ!? 何してるのっ!?」


「ラト! ここはもうよい! とっとと次へ――」


「わあああああっダメダメダメダメだよ!? 服着て服ぅぅぅぅ――――――――!?」


「服などもういらん!」


「えええええええええ――――――――ッ!?」


 あられもない格好で両手に腰を当て、堂々と胸を張るハヌに僕の驚愕は止まるところを知らない。


「ダメだって! いやもう――絶対にダメだって!」


 裸で外に出たら、それこそ服を買いに来た意味がない。本末転倒もいいところだ。僕は必死にハヌを押しとどめようとする。すると、


「あらあら、いけませんよお嬢様。いくら親族とは言え、女性が男性にみだりに肌を見せるのは関心いたしません」


 いや待って。さっきハヌにボンデージみたいなの着せていたのはあなたですよね?


「そんなお嬢様にはこのコルセットで! 淑女のたしなみを! 身につけていただきましょう!」


「ぬあっ!? は、離せ! 離すのじゃ! 妾は――!」


「さあさあこちらです。きっとお似合いになりますよ。ビスク・ドールもかくやという程に。うふふふ楽しみですうふふふふふふふ」


「は、離せェ――――――――――――――ッ!」


 抵抗虚しく、再び店員さんに試着室の奥へと攫われていくハヌなのであった。




 というわけで、最終的に五十着以上を試着させられたハヌは、その目から光を失い、文字通りの着せ替え人形となってしまった。


 もはやここまで来ると、店員さんの服選びがどこの次元まで突き抜けていくのか、ある意味楽しみだったのだけど。


「――さあお兄様! これでいかがでしょう!?」


「……えーと……」


 僕はハヌを【見上げた】。


 それはもう、服というよりは舞台装置のようなもので、どう考えても着たまま移動できるようには思えず、というか服に【着られている】ハヌが、まるで聖なる護符の壁に封印されている悪魔のようにしか見えなかった。


 ――どうしてこうなった?


 考えてみれば当然の話で、僕は言い忘れていた肝心なことを、店員さんにそっと囁く。


「……すみません。目立つのはNGなので、もっと地味なのをお願いします……」




「お買い上げありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」


 幸いなことに、僕の後出し注文に対しても店員さんは「お任せ下さい! それはそれで!」と、それはそれでちょっとどうかと思う返事をしてくれつつ、最終的にはこちらの希望に沿った服を選んでくれた。


 その結果――


 ふわふわしたライトブラウンの肩出しニットセーターと、すらりとしたホワイトのタイトパンツ。そこにだぶっとしたベージュの帽子と縁の太い赤い伊達眼鏡を合わせ、肩に届くぐらいの長さで切り揃えられた銀髪は、アップにしてバレッタで留めてある。髪型の変更も店員さんがサービスで――むしろ嬉々として――やってくれた。


 セットアップされている間、当のハヌが物言わぬ人形と化していたのは言うまでもない。


 プレゼント用と偽った手前、代金は僕が出した。流石にブランド品だけあって予想以上の出費となってしまったけれど、昨日ハヌと半分こしたゲートキーパーのコンポーネント代を考えれば、まだまだ安いものである。


 ちなみに、当初僕は換金したコンポーネント代を断固として受け取らないつもりでいた――ほとんどというか、ほぼ完全にハヌ一人で倒したようなものだったから――のだけど、ハヌから「真のユウジョウとは分かち合うことじゃ。受け取らぬということは、ラトは妾のシンユウが嫌ということか……?」と妙に悲しげな瞳で見つめられてしまい、あっさり折れてしまった。


 受け取ってしまったからにはしょうがない。なら、そのお金は出来るだけハヌのために使おう――そう思っていたので、今回の支払いは僕にとっては僥倖だった。


 ふらふら歩くハヌに、僕は心配して声を掛ける。助けてあげられなかったという罪の呵責もあるけど。


「だ、大丈夫、ハヌ?」


「う、うむ……じゃが正直疲れた……どこかで休みたいぞ……」


「だ、だよね。じゃあ……喫茶店とかどう?」


「ラトに任せる……」


 僕は疲労困憊しているハヌの手を取り、デパート内の喫茶店へと誘導する。


 本当を言うと、僕も自分の服を買おうかと思っていたのだけど、ハヌがこの状態では流石に連れ回すわけにもいかないだろう。かと言って、一人で放置するのも心配だ。


 さっきの店員さんにも「当店にはメンズブランドもございますので、是非とも、ぜ・ひ・と・も! お兄様もお立ち寄り下さいね♪」と言われたのだけど、ハヌならともかく僕はあまり目立つ方じゃない。変装の必要はないように思えた。


 それに、いくら店が違うとはいえ、同じ系列なら僕まで着せ替え人形にさせられるかもしれない――そう考えると、どうしても足を向ける気になれなかった。


 後にしてみれば、行っていた方が良かったのかもしれない。




 ついには歩くことすら出来なくなったハヌを背負って喫茶店へ入り、小一時間アワトほど。


 フルーツパフェやパンケーキなど甘いものを食べてハヌの体力と気力を回復させると、僕達は本来の目的である部屋探しへと出かけた。


 ちなみに、喫茶店の支払いも僕持ちである。ハヌは初めて食べるものばかりだったようで、一口食べるごとに元気を取り戻し、最後には上機嫌になっていた。これは僕としても重畳である。


「おお……なんたる美味……! これだけでも俗世へ飛び込んだ甲斐があるというものじゃ……!」


 ハヌのその言葉の意味は、僕にはちょっとよくわからなかったけれど。


 さて、肝心の部屋探しだが、こちらは服と違って非常にスムーズに事が進んだ。


 なにせ街中を歩いていて、誰からも注目されないのだ。ハヌの変装が功を奏している証だ。時折、すれ違った人がちらりと振り向く気配を感じたけれど、それはきっと『一撃でゲートキーパーを倒した少女』ではなく、可愛らしい女の子だな、という視線だったように思う。


 賃貸業者の店に着くと、ハヌの部屋はすんなり決まった。彼女の提示する条件では候補が少なく、またハヌらしい即断即決が発動したのだ。


 地域は中央区、セキュリティとプライバシー保護はハイレベルで。これだけでもかなり候補が絞られるが、ハヌはさらに、一階の部屋を希望した。


 それは何故かと問うと、


「高い場所は落ち着かぬ。妾は人らしく、大地に添って生きると決めたのじゃ」


 と、わかるようなわからないような、不思議な答えが返ってきた。


 ここフロートライズは【浮遊都市】なんだけれども――まぁ、そのあたりに突っ込むのは野暮な気がしたのでやめておいた。


 ともあれ、セキュリティが厳重なマンションの一室は、やはりそれなりに高価な家賃が設定されている。しかし、ハヌは微塵も迷わず決定してしまった。ちなみに家賃も広さも、僕が借りている部屋の三倍以上である。


 必要な手続きを済ませて店を出ると、時刻はもう昼時を大きく過ぎていた。


「ハヌ、お腹空かない?」


「うむ。実を言うとの、先程から腹と背中がくっつきそうだったのじゃ」


「……あれ? でもここに来る前にフルーツパフェとパンケーキと苺のショートケーキとモンブラン食べてたたよね?」


「? そうじゃが……それがどうしたのじゃ?」


 キョトン、と小首を傾げるハヌ。その拍子に鼻に引っかけた赤縁眼鏡がズレるけど、そんな所作がより一層、それが天然の反応であることを強調しているようだった。


「……ううん、何でもないよ……」


 女の子ってわからない。女の子って不思議すぎる。僕には一生かかっても理解できない存在な気がする。もしかしたら、あの可愛い蕾のような唇の中は、亜空間へ通じているんじゃないだろうか。


 僕はハヌと手を繋ぎ、彼女を中央区の露店街へと連れて行くことにした。


 露店街。その名の通り、星の数ほどの露店が所狭しと軒を連ねる地域である。ここはフロートライズの都市自治体から、自由取引市場としての特区認定を受けている。そのため、誰でも店を開くことが出来るのだ。


 地域全体、どこの通り沿いにも隙間がないほど露店が並び、またそれを目当てに人々が集まるため、毎日盛況に賑わっていた。


「おおっ……! なんという人の数じゃ!」


 ハヌが感嘆の声を上げるのも無理はない。そう狭くはないはずの大通りを、向こうの景色が見えなくなるほど人が埋め尽くしているのだから。


 この浮遊都市フロートライズは、遺跡であるルナティック・バベルを擁するため、他と比べてかなり発展している。なにせ情報具現化コンポーネントの供給元がすぐそこにあるのだ。否が応でも経済活動は活性化せざるを得ない。


 その故あって、人口密度もかなり高い。空に浮かんでいるとは言え、フロートライズは小さな島だ。それなのに、同程度の面積を持つ島の平均人口が二十万人程度であるところを、フロートライズはその二十倍以上を誇るという。


 その内の一パーセントがエクスプローラーないしは関係者だという話だけど――実際のところはわからない。何故なら僕が列挙したのは、あくまで自治体が公開しているデータでしかないからだ。


 少なくとも、エクスプローラーの数は日々増減しているはずなので、いつになっても正確な数字はわからないに決まっている。


 新しく入ってくる人、引退する人、復帰する人、そして――いなくなってしまう人。


 最後の一つに分類されてしまわないよう、明日からまた頑張らないといけないなぁ――などとぼんやり考えていると、


「ラト! ラトよっ! こりゃ何をしておる! アレじゃ! アレを食べるぞ!」


 ただでさえ煌めくような金目銀目を期待でさらに輝かせたハヌが、待ちきれないとばかりに僕の手を引っ張った。


「あの串? あれは牛と豚の合挽き肉を捏ねたもので――」


「御託は良い! 旨そうな匂いがする……! さあ、はよう!」


「あははは、ハヌは本当に食いしん坊だなぁ」


 ハヌに引き摺られるように、食べ物を売っている一角へと移動する。


 当然ながらお店は食品店だけではない。さらに言うと、露店だけでもない。


 この露店街を離れて少し歩けば、そこはもうルナティック・バベルだ。だからこの辺りにはエクスプローラーを対象とした、きちんとした店舗を構えている店も多い。


 武器や防具、汎用術式や各種道具はもちろん、中には傭兵を斡旋するというところまで。そういえば、最近の初心者エクスプローラーはああいった傭兵を雇ってエクスプロールのイロハを学ぶというけれど、本当なのだろうか?


 そんな、エクスプローラーが多く集まるような中央区の繁華街にハヌを連れてきた僕は、詰まる所どうしようもなく愚かだったと言うしかないだろう。


 ちょっと考えればわかったことだ。昨日の今日で、こんな場所にハヌを連れてくるべきじゃなかったことぐらい。


 だけどこの時の僕は、生まれて初めて《友達と外出している》という、ただそれだけのことに浮かれすぎていて、そんな当たり前のことにさえ気付かなかった。


 ハヌといくつかの露店を回り、食べ物やら日用品の買出しなどを楽しんでいた時だった。


「――ちょっとそこの君、そう紫の服の」


「……えっ?」


 不意に背後から突然声を掛けられ、振り向くと、


「君、《ブルリッシュ・ヴァイオレット・ジョーカーズ》の男の子の方、だよね?」


 見知らぬ男性と目が合った。いや、合ってしまった。


 瞬間、ぎくりと心臓が凍りつき、顔から血の気が引いていくのが自分でもわかった。


 ――やばい、見つかった……!?


「――あ、あの、そのっ、ぼ、僕は……えっと……!」


 咄嗟に誤魔化そうとして、でも上手く言葉が出てこず、僕は不自然にどもってしまった。


 その態度は、相手にとっては肯定以外の何物でもなかったのだろう。


 がしっ、といきなり両肩を掴まれた。


「やっぱりか! き、君っ! 頼むっ、一緒にいた女の子を是非――」


「おい待て待て! そいつに先に目をつけてたのは俺の方だぞ!」


 顔を近づけ口角泡を飛ばす勢いで話しかけてきた男性を、別方向からの声が遮った。見ると、人垣の中から別の男性がこちらへ歩いてきていた。


「な、何を言ってるんだ! こっちが先に声を掛けたんだぞ!」


「人の獲物に手を出す奴は馬に蹴られて死んじまえって、あんた知らないのか?」


 装備こそ外しているが、どちらもエクスプローラーに違いないだろう。体つきや身のこなしでなんとなくわかる。まぁ、発言の内容からしても、だけど。


「あ、あの、えっと……」


 二人が僕の側で喚き合っていると、その騒動を聞き咎めた周囲の中からさらにエクスプローラーらしき人達が現れ、


「おい、あんたら往来で何やって……ん? そこの彼はもしや――」「あっ! いた! 昨日のゲートキーパー戦の!」「えっマジ!? どこどこ!?」「ほらあの男の子! 映像と同じ服着てる!」「おい女は!? 女のほうはいるのか!?」「いやいやスカウトするならウチが先だから!」


 あっと言う間に大騒ぎになってしまった。最初の二人なんかは口論が激化して、とうとう殴り合いまで始めてしまっている。というか、さっきの話からすると僕とハヌはずっと尾行されていたということだろうか? もしかしなくても、僕のこの格好が原因で。


 人でごった返す露店街の大通りは、唐突に発生した騒ぎで混乱の坩堝と化した。


 ハヌはどこだっただろうか。確かさっき、フルーツにチョコレートをかけた物が売っている屋台の方へ走っていったと思うのだけど。


 僕自身、突発的過ぎる事態に焦り、動揺し、慌てていた。


 目の前の喧嘩を止めるべきか、女の子はどこだとシャワーのように質問を浴びせかけてくる人達に答えるべきか、それともハヌを見つけて一緒に逃げるべきか――ちゃんと冷静になって考えれば選択の余地のない問題に、僕は馬鹿みたいに悩んでいた。


 そこに、


「――どうしたラト? 何の騒ぎじゃ?」


 僕の記憶通りチョコバナナを五本も両手に持ったハヌが、ひょっこり戻ってきてしまったのだ。


 みんなが小さな女の子を凝視する、しばしの沈黙。


 もぐもぐ、とハヌがチョコバナナを咀嚼している、微妙に間抜けな間が空いた。そして、


『あ――――――――――――ッ!』


 とまず最初に驚きの声が上がり、続いて、


『いたぁ――――――――――――ッッ!!』


 皆さん大合唱である。


 その衝撃で僕の意識が再起動した。


「ッ! ハヌこっちっ!」


 ここが好機、そう見て取った僕は咄嗟にハヌの手を掴み、引っこ抜くようにして走り出した。


「うなっ!? ななな何じゃ!? あああああああ妾の菓子がァ――――――――――ッ!?」


 振り返っている余裕がないからよくわからないけど、駆け出した拍子にチョコバナナをいくつか落としてしまったみたいだ。けれども、そのハヌの悲嘆を置き去りにするかのように、僕は人いきれの中を縫うようにひた走る。


 逃げ出してすぐ、背後で怒号。ハヌと僕がいなくなったことに気付いた人達が、さらに大騒ぎしているのだ。


 僕は走りながら周囲を見回し、ちょうどよく見つけた細い路地にさっと飛び込んだ。


 むすっとした顔でチョコバナナを銜えているハヌを奥の方へやり、壁に身を寄せ、術式〈イーグルアイ〉を起動。僕のフォトン・ブラッドで出来た鳥が宙を飛び、大通りの様子を視覚情報として僕に送ってくる。


 やはりこの人混みの中では、一度見失った人間を再び見つけ出すのは難しいのだろう。通りのあちこちで、僕達を探して右往左往する人々が見えた。


 ほっ、と胸を撫で下ろす。


「……よかった、これで一安し」


「驚いたな……まさか、そちらから飛び込んできてくれるとは……」


「えっ?」


 いきなり耳に入ってきた声は、路地の奥の方から。あまりにも予想外すぎて、素で振り返ってしまった。


 そこには、どう見てもエクスプローラーな男性が七人。


「あっ……!」


 しまった、こんなところにもいたのか。ここで僕達の様子を伺っていたのか。どうしよう、いっそ支援術式を使って壁を登って逃げ――


「待ってくれ、手荒な真似はしない! 話がしたいだけだ、だから待って欲しい!」


 慌てた感じでリーダー格らしき人が両手を挙げ、敵意がないことを示す。思いも寄らぬ平和的な態度に出足を挫かれ、僕の逃げる気がすっかり鳴りを潜めてしまった。


「――あ、えっと……?」


「頼む、本当だ。無理強いはしない。ただ、話を聞いて欲しいだけだ。それでダメなら、大人しく引き下がる。約束する」


 うんうん、と背後に控える六人も頷き、懇願するような眼差しを向けてくる。


 ど、どうしよう?


 僕は対応に困ってしまい、思わず脇にいるハヌをチラ見した。すると、未だチョコバナナを頬張っている彼女は僕の視線に気付き、


「……よかろう、話を聞いてやろう。何用じゃ?」


 おおっ、と男の人達がどよめいた。中にはガッツポーズをとる人までいる。


 リーダー格の人が、安堵したよう微笑む。


「ありがとう。俺は、『スーパーノヴァ』というクラスタでリーダーを務めている、ダイン・サムソロという者だ。と言っても、最近作ったばかりのクラスタなんだが。実は俺達、まだ新興だが、これでもトップ集団を目指していて――」


「能書きは良い。何の用かと聞いておる」


 ゆっくり話し始めたダインさんに、ハヌの鋭すぎる舌鋒が突き刺さる。確認するまでもなく、彼女は不機嫌だった。それは多分、ダインさんがどうこうというより、さっきチョコバナナを落としてしまったことが原因だと思われるけど。


「あ、ああ、いや、すまない、つまらない話だったな。では、その……君と話をする前に、そこの彼と話したいんだが、いいだろうか?」


「え?」


 ダインさんの指先が、何故か僕を差していた。


「……僕、ですか?」


「ああ、そうだ。まずは君に話があるんだ。いいかい?」


 実に柔和な笑顔で、丁寧に伺ってくれるダインさん。どうやら本当に悪い人ではなさそうだ。多分、目的は他の人と同じ『ハヌの獲得』なのだと思うけど、無理強いはしない、ダメなら諦めるって言ってくれているし、少し話すぐらいならいいかもしれない。


「えっと……な、何ですか?」


 僕が聞き返すと、ダインさんは少し難しそうな表情を浮かべ、


「それなんだが……すまないが、奥で話せないかな?」


 路地の奥を親指で示した。一体どんな話なんだろうか?


 まさか、僕の方をヘッドハンティング? いやいや、まさかすぎるよね、そんな……で、でも、もしかしたら……!?


「い、いいかな、ハヌ?」


「……うむ。じゃが、早めに帰ってくるのじゃぞ?」


 一見ぶっきらぼうに見えるけど、でもどこか不安そうな言い方をするハヌに、僕は少し笑ってしまう。実は結構寂しがり屋なのかもしれない、この子は。


「うん、わかった。じゃあ、ちょっとここで待っててね」


 そう言って、僕はダインさんに頷き返す。彼は満面の笑顔を浮かべ、


「ありがとう。こっちだ」


 顎で路地の奥を示し、先に歩き出す。


 そこはかとない期待を胸に、僕はその大きな後姿を追いかける。




 僕が連れて行かれたのは、路地裏の突き当たりだった。


 まだそれなりに陽は高いはずなのに、ともすれば足元が危ういほどに暗い。


 そんな薄暗い空間にいるのは、ここまで案内してくれたダインさんと、僕と、二人の男性。総勢四人だ。他の人達はハヌと同じ場所に残っている。


 足を止めて振り返ったダインさん――年は二十代後半ぐらい。戦士系と思しき体格に、褐色の髪と瞳。理知的な顔立ちをしているが、どことなく見覚えがあるような気がするのは、僕の記憶違いだろうか――は開口一番、僕にこう言った。


「君は、ここらでは《ぼっちハンサー》と呼ばれているそうだね」


 それはまさに不意打ちと言う他なかった。心を深く抉られるその響きに、僕は真実、息が詰まった。


「……えっ……?」


 ついさっきまで温厚な光を湛えていたダインさんの眼光が、今は鋭く尖っている。


 雰囲気が、ガラリと変化していた。


「彼女が何者か……は今は置いておこう。それより、君は彼女の何なのかな? どういう関係なんだい?」


「ど、どういうって……」


 胸が圧迫されているみたいだ。息が苦しい。悪寒が止まらない。なんだろうこの空気。


 とても、嫌な感じだ。


「……あ、あの……僕はその……彼女の、友達で……」


「友達ぃ? 君は《ぼっちハンサー》なんだろう? それはおかしいじゃないか」


 おかしいじゃないか、って断言されても――それは、あなたが決めることじゃない、はずなのに。


 僕は、何も言い返せない。


 さっきまで期待という翼を生やして飛んで行きそうだった心は、今は氷の鎖で雁字搦めにされたように冷たく強張っていた。


「……まぁいい。嘘を言っているようには見えないから、とりあえずは信じよう」


 ダインさんはこれみよがしに溜息を吐き、威圧的に腕を組んだ。《ぼっちハンサー》という奇襲を受けた僕の心はすっかり萎縮してしまっていて、たったそれだけのことに、どうしようもなく怯えてしまう。


「では、こちらからの要求を単刀直入に言おう。君には、彼女とのコンビを解消してもらいたい」


 その言い方は、一応『もらいたい』という言葉を使ってはいたけれど、響きとしては完全に命令形だった。


「あ……あのっ……い、いや、僕は……」


 絶対に嫌だ! そう怒鳴り返してやりたかった。けれども、臆病風が蓋になって、どうしても外へ出すことが出来ない。


 僕は俯き、歯を食いしばる。


 なんて馬鹿な期待をしていたんだろうか、さっきまでの僕は。


 僕がヘッドハンティングされる? そんなこと、あるわけないじゃないか。ありもしない妄想をした結果がコレだ。本当に目も当てられない。


 黙っていても状況が好転するわけないことはわかっていた。だけど、この時の僕には、そうすること以外何も思い付かなかった。


「……ところで、俺と君は三日前に顔を合わせたことがあるんだが、憶えているかい?」


 業を煮やしてか、ダインさんが急に妙な話題を振ってきた。思わず顔を上げて、目を合わせてしまう。


 三日前というと、確かハヌと初めて会った日だ。あの日は確か、『カモシカの美脚亭』で四回ぐらいメンバー募集に断られて――


「――あっ……! あの時の……!?」


 思い出した。四回目で、初心者でも大丈夫だって言っていたのに、話しかけられたら断られたクラスタ。そう、募集の人に支援術式が得意だと言ったら、最後にはリーダーの人が出て来て直接断られたのだ。


 あの時のリーダー。そうだ、あれがダインさんだったのだ。道理で見覚えがあるはずだった。


「思い出してくれたかな? 確か、あの時にも言ったと思うが、うちでは君みたいなエンハンサーには将来性がないと考えている。だから正直、【君はいらない】。いらないんだが……君と一緒にいるあの女の子。あの子だけは別だ」


 確か、ダインさんのポリシーは『シンプル・イズ・ベスト』だったはず。なるほど、ハヌほど強力な術者ともなると、彼の理想にはピッタリだろう。時間が掛かるとはいえ、ゲートキーパー級のSBを一撃で倒す術力。こんなに分かりやすい『シンプル・イズ・ベスト』はない。


「俺達は彼女を仲間として迎えたい。が、どうやらそれには君が邪魔なようなんだ、《ぼっちハンサー》君」


 冷たい声が、暗い路地裏に反響して消える。


 この瞬間、僕は悟った。この人は、僕の名前を覚える気もなければ、口に出して呼ぶ気もないのだ、と。先日の『NPK』の新人さんのように。


「俺達のように彼女を引き入れたい奴らは、他にもウジャウジャいるだろう。だが俺の見立てでは、君がいる限り彼女は首を縦には振らないはずだ。どうやら君にえらく懐いているようだからね。だから、君の方から彼女を切って欲しいんだ。そうすれば、彼女は能力的にも、どこかのクラスタに所属せざるを得ないはずだから」


 ダインさんは、ゆっくりと僕に歩み寄る。身長は彼の方が頭一つ分大きい。僕の頭上から毒液を垂らすように、彼は囁く。


「昨日の戦い、映像で見たよ。彼女に比べて、君は実に無様な戦いぶりだったね。君の役割は、彼女の術式が完成するまで囮となることだったのかな? 言っちゃ悪いが、あの程度のことなら別に君でなくてもいいんじゃないか? いや、言うまでもないな。他の人間でも同じことが出来るんだ。それも、君以上のクォリティで」


 反論、出来なかった。


 怖いから、ではなく。


 ただ圧倒的な、その正しさに。


 僕は、返す言葉を持たなかった。


「なのに、君は彼女を独占するのかい? あれほどの才能を? 君自身の実力はちゃんと考えているのかい? 友達? 馬鹿を言っちゃいけないよ。それはね、【立場が対等な者同士の関係】を言うんだよ」


 じっくりと嬲るように、彼は僕の心に、言葉のナイフを突き刺しては抜き、突き刺しては抜く。


「エンハンサー風情の君と、彼女との差をよく考えた方が良い。あれほどの力を持つ彼女を、どこのクラスタにも所属させず、君が独り占めするのは、とんでもない独善だよ。ものすごい我が儘だ。そして、分不相応だよ。――知ってるかい? 今、ここいらのエクスプローラーが君の事をなんと呼んでいるのか」


 突き刺し、抉り、穿り、さらに奥まで押し込む。


「腰巾着の《ぼっちハンサー》、だよ」


「――ッ!?」


 腰巾着。その言葉は、驚くほど【するり】と、僕の心の奥底まで滑り込んできた。


 それが弾けた時の衝撃は、もはや言葉に出来ない。一瞬、頭の中が真っ白になったかと思うと、すぐに『とある感情』が爆発的に噴き出した。


 それは、『恥ずかしい』という感情だった。


 頭のどこかで、わかってはいたのだ。


 僕は、ハヌとは釣り合わない、と。


 彼女はとんでもない術力の持ち主で、現人神で、とても可愛くて、頭も良くて、知識の吸収力なんて全然敵わなくて、度胸なんて心臓に毛が生えているのかってぐらいで、とっても格好良くて。


 なのに僕ときたら、術力は十年に一人と言われるほどの弱さで、誰も相手にしてくれない《ぼっちハンサー》で、特別かっこいいわけでも無く、友達もおらず、ネガティブで情けなくて。


 今度はそこに、『腰巾着』という蔑称までついた。


 なんて……僕はなんて恥ずかしいことをしていたのだろうか。僕はたまさか、一人でいる彼女に声をかけただけで、特別なことは何もしていないし、特別な人間でもなかったのだ。


 身の程知らず。そう、身の程知らずの腰巾着。金魚の糞。虎の威を借る狐。ライオンの皮を被ったロバ。コバンザメ――今の僕を罵る言葉の、なんと多いことだろう。


 恥知らず、とは正にこの事だ。僕は今の今まで、自らの愚行に気付いてもいなかったのだ。


 こうして、面と向かって指摘されるまで。


「……俺は別に、嫌味を言っているわけじゃあないんだ。逆さ。俺は君のためを思って言ってるんだよ。わかるかい?」


 そう言いながら、ダインさんは僕の背後へ回る。僕の両肩に手を置き、いっそ優しげな声で、彼は説く。


「君が一緒にいる女の子……彼女はきっと、歴史に残るエクスプローラーになるだろう。もしかすると、世界中の遺跡の謎を解き明かす、伝説の人になるかもしれない。それほどの才能と力を、彼女は持っている。君もそう思うだろう?」


 それはきっと、そうだろう。僕もそう思う。だから、小さく頷いた。


「そんな彼女には、相応しい居場所、というものがあるはずだ。けれど、それは君の隣じゃあない。エクスプローラーのトップ集団の中のはずだ。君もそう思うだろう?」


 それはきっと、そうだろう。僕もそう思う。だから、小さく頷いた。


「彼女の力がこのまま埋もれていくのは、あまりにも勿体ない。もしそうなったら、それは人類の損失だ。その原因となった人物は、人類史上最大の犯罪者と言っても過言じゃあない。君もそう思うだろう?」


 それはきっと、そうだろう。僕もそう思う。だから、小さく頷いた。


「このまま君が、そんな大罪を犯すのを黙って見ていられないんだ。だから……な? 他の誰でもない、君のためなんだ。彼女と、手を切った方が良い。な? 君も、そう思うだろう?」


 それはきっと、そうだろう。僕もそう思う。だから僕は、


「…………………………………………は、ぃ……」


 小さく、だけど確かに、頷いた。


 頷いてしまった。




「――おお、待ちかねたぞ、ラト。話は終わったか? 長かったのう」


 路地の奥から戻ってきた僕を、心から待ちわびたようなハヌの声が出迎えてくれた。


 だけど、僕は上手く返事をすることが出来なかった。それどころか、まともに顔を見ることすら叶わなかった。


 僕は俯いたまま足を進め、ハヌの前で立ち止まった。


「??? ラト?」


 何も応えず、目さえ合わそうとしない僕を訝しむハヌ。


 とん、と右肩に感触。視線を向けると、そこにはダインさん。僕の肩を叩いて、催促しているのだ。


 わかっている。落とし前ぐらい、自分でつけられる。


「どうしたのじゃ、ラト。返事ぐらいせんか。一体、何を話してきたのじゃ?」


「――ごめんなさい。ここでお別れです」


 僕はそう言って、ハヌに向かって頭を下げた。腰を九十度以上曲げ、まるで首を差し出すかのように。


「……何じゃそれは? 何を言っておる? 意味がわからぬぞ……?」


 ハヌの声から、抑揚が消える。怒っているような、戸惑っているような、何とも言い難い口調だった。


「今まで本当にありがとうございました。でも、今日でもう全部終わりです。一緒にいれて、とても嬉しかったです」


「ラ、ラト……? 何じゃ? 何なのじゃ? 冗談ならやめよ。言っておくが、妾はそのような冗談はきら」


「冗談じゃありません。本当に、ここでお別れです。僕は、あなたのような人と一緒にいられるほど、大した人間じゃないんです。だから、もう終わりです。一緒にいちゃいけないんです」


 ハヌの言葉を遮って、僕は頭を下げたまま、早口で言い切った。


 僕は顔を上げ、呆然とした顔をしているハヌと目を合わせた。


 心臓に爪を立てられたような痛みが走ったけど、無視した。


「もう友達は終わりです。いや、最初から友達じゃなかったんです。あなたには、もっと相応しい相手がいるはずだから。僕みたいな小物相手に、友達ごっこするのはもう終わりにしてください。今日からは、本物の友達を捜して下さい。【ハムさん】」


 最後に、決別の証として、その名を口にした。


 彼女が一番最初についた嘘。偽物の名前。僕と――ちゃんと友達になる前の、呼び方を。


「ラ――」


 目を見開いて愕然とする彼女の横を、通り過ぎる。その際、一言だけ、別れの挨拶を口にする。


「さようなら」


 そう言い置いて立ち去ろうとした。けれど、不意に服の裾が引っ張られ、僕は足を止める。


 ハヌが、僕のジャケットの端を掴んでいた。


 僕を見上げる蒼と金の瞳が、焦慮に揺れている。


「ま、待て、待つのじゃ、ラト! お、怒っておるのか? わ、妾が何か悪いことをしたのか? そ、そうじゃ、菓子じゃな? 妾が一人で菓子を食べてしまったから、おぬしは怒っておるのじゃな? わ、妾が悪かった、謝る、じゃから」


「……違う……」


 小さく呟いて、僕は首を横に振った。するとハヌは、その顔を必死なものに変える。


「ち、違う? で、では何故じゃ? 何が気に喰わぬ? 妾が悪いのならば直すぞ、妾とおぬしはトモダチじゃ、シンユウじゃ。何でも申してみよ、それがユウジョウ――」


「……違う……」


 胸が痛い。喉が痛い。頭が痛い。口の中が痛い。背中が痛い。腕が、足が、体中全ての神経が――痛かった。


 歯を食いしばっても、我慢できないほどに。


「――そうか、わかったぞラト。おぬし、あやつらに何か吹き込まれたな? ば、ばかもの! そんな与太を信じるものがおるか。落ち着くのじゃ、ラト。良いか、妾が、妾こそがおぬしの最大の味か」


「――違う!」


 瞬間、僕は激昂した。思わずハヌの手を、力尽くで払い除ける。


 パン、と乾いた音が路地裏に小さく響いた。


 ひぅっ、とハヌが息を呑む音が聞こえた。


「――……ラ、ト……?」


 腕を払い除けられた体勢で固まったハヌは、大きな瞳をさらに大きく開いて、信じられないものでも見るような目で、僕を見つめていた。


 こんなハヌの表情を見るのは、初めてだった。


 まるでハヌらしくない。怯えているような、とても弱々しい――そう、本当に、小さな女の子みたいな。


 だけどそうさせたのは、他でもない、僕自身だった。


「……ごめん……」


 意識せず、僕はその言葉を呟いていた。目から頬を伝う熱い感触は、いつからそこにあっただろうか。僕は鼻声のまま、繰り返す。


「……ごめん……ごめん、なさいっ……」


 嗚咽が、溢れ出た。目の奥が熱くなりすぎて、もう瞼を開いているのも辛かった。声は震えに震えて、まともに言葉を紡ぐこともできなかった。


「僕は……今の僕は、君と釣り合わないから……! 今の僕じゃ、君に相応しくないから……! だからっ……!」


 もう頭の中までグチャグチャだった。


 叩き付けるように叫んだ。


「――ごめんなさいっ!」


 僕は身体強化の支援術式を起動。その場で跳躍、路地の壁を何度も蹴って壁を昇り、屋根の上へと逃げた。


 建物の屋根に飛び出ると、勢いそのまま走り出す。誰とも会いたくなかったし、何も考えたくなかった。


 どうしようもなく迸る感情を、僕はたまらず声に出し、自分でもわけのわからないことを叫びながら露店街を屋根伝いに走った。


 脳裏にさっきのハヌの顔が焼き付いて、いつまでも消えてくれそうになかった。






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