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リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-  作者: 国広 仙戯
第一章 支援術式が得意なんですけど、やっぱりパーティーには入れてもらえないでしょうか
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●1 出会い



 それはまぁ、いつものことで。




「ヒーラー募集中でーす! 全体ヒール使える人一緒に行きませんかー?」


「あ、あのっ、ぼ、僕、ヒールが使えま――」


「えっ? 君ヒーラーなの? マジ? ……全体ヒール使えるの?」


「あ、あの、こっ、個別ヒールしか使えないんですけど、で、でもっ、ちゃんと――」


「あーごめん、ごめんねー。今俺ら、全体ヒール使える人しか求めてないからさー」


「は、はい……すみません……」


 はい、ワン・アウト。




「剣士はおらぬか? 我々は剣一つを恃みとするツワモノのパーティーである」


「あ、は、はいっ! ぼ、僕、剣、使えます!」


「ほう? 確かに見たところ、背中に吊った大段平と腰の脇差は相当な業物のようだな。おぬし、剣術スキルのランクは?」


「びっ、B+、ですっ」


「B+か……残念だが、我らの一員となるには剣術ランクAからでなければ話にならぬ」


「そ、そうですか……」


 残念。これでツー・アウト。


「ところで、その大段平と脇差、見れば見るほど素晴らしい業物だな。いや、抜かなくともわかるぞ。凄まじい剣気を感じる」


「え? あ、はぁ……」


「どうだろう、言い値を払う。それらを譲ってはもらえぬか?」


「ええっ!? い、いえっ、すみませんっ! こ、これ、祖父の形見ですのでっ!」


「むぅ、そうか……それならば無理は言えぬな。しかし、気が変わったらいつでも言ってくれ。しばらくはこの辺りにいるのでな」


「は、はい……すみません、失礼します……」




「あと一人空きがありまーす、誰か一緒に行きませんかー?」


「あ、あのっ、僕っ、だ、ダメですか?」


「……はぁ?」


「えっ?」


「……あのね、ボク? 見てわからないの?」


「えっ……?」


「あたし達のメンバー、みんな女の子ばっかりでしょ? つまり女の子だけのパーティーなのよ。それなのに、どうして男の子のキミが入れるとか思うわけ?」


「あっ……す、すみません……」


「ハーレムとか妄想してたの? でも、もーちょっと空気読むこと覚えたほうがいいわよ。悪いこと言わないから」


「す、すみません……」


 これにてスリー・アウト。




 いつもならこの辺りで心がポッキリ折れてしまうのだけれど、今日はもうちょっとだけ頑張ってみようと思う。何故なら、


「あと一人ー、どなたか一緒に行きませんかー? 初心者の方でもオッケーですよー、年齢制限も無しですー」


 という素晴らしい声が聞こえてきたから。


「あ、あのっ、僕っ、僕でもいいでしょうか!?」


「ああ、どうぞどうぞ、歓迎するよ! うちは新しく結成したばかりのクラスタだから、誰でもウェルカムなんだ」


「あ、ありがとうございます!」


「君は……見た所、剣士かな? 初心者かい? 特技とかある?」


「は、はい、一応剣士で、初心者じゃないですけど、ここに来たのは最近で……あ、特技は支援術式です!」


「えっ……支援術式……?」


「……」


 流れ出す微妙な空気。なんだか嫌な予感。


「うーん……支援術式かー……えっと、ごめんね、ちょっと待っててくれるかな?」


「あ、は、はい……」


 待たされること約二(ミニト)。なんだか仲間らしき人と相談していて、二人してこっちに戻ってくると、


「あー、君が入団志望者? なに、支援術式が得意なんだって?」


「あ、は、はいっ」


 どうやら一番偉い人みたいだ。


「残念だけど、ウチは始まったばかりのクラスタとはいえ、これでもトップ集団入りを目指してるんだ。だから、一応は初心者でも歓迎はしているんだが、それだって将来性を見込んだ上での話なわけで……つまり、本当に誰でもオッケーってわけでもないんだ」


「は、はい……」


「で、正直に言わせてもらうと、君みたいなエンハンサーは将来性がかなり厳しい。君自身どう思ってるかは知らないが、少なくとも俺達はそう考えている。だから申し訳ないんだが、この話はなかったということで」


 ダメ押しのフォー・アウト。


「す、すみませんでした……」


 すごすごと退散する背中に聞こえる、ひそひそ声。


「あのな、初心者でもなんでもいいから勧誘しろとは言ったが、エンハンサーみたいな微妙な人種を抱え込んでどうするんだ。ちゃんと将来設計を考えてくれよ」


「す、すまない……しかし、そんなに微妙なのか? 運用次第でなんとか――」


「そうやって使い方を考えなきゃいけない時点で普通の戦術パーツじゃないだろ? 前は前、後ろは後ろ。攻撃は攻撃、回復は回復。シンプル・イズ・ベスト。それがウチのモットーだよ」


「……なるほど」


 耳が痛すぎてもげてしまいそうな話だった。






 ということで、本日もソロで探検エクスプロールすることが決定されてしまったわけで。


 もはや日課レベルのソロ活動である。


 この界隈に来てからというもの、誰かと連れ立ってエクスプロールした記憶がとんとない。


 その理由はまぁ、お察しの通りである。


 今日も結局、集会所とカフェとバーを兼ねているこのお店――『カモシカの美脚亭』から活気が消えて【がらん】としてしまうまで、僕はエクスプロールの相方を見つけることが出来なかった。


 もはや溜息すら出ない。


 ――あーなんだかなぁー、いっそのこと今日はもう休んじゃおっかなぁー……


 そんなだらけた事を考えた時だった。


 ふと、目に映る光景がいつもと違うことに気付いた。


 いつもならエクスプロール前の人々が集まり、各々のクラスタやパーティーを編成して出発していった後、テーブルと椅子の間に取り残されているのは僕一人だけなのに。


 なんと、今日はお仲間がいた。


 隅っこのテーブル席にポツンと座っている小さな影。やけにブカブカな灰色の外套で全身をすっぽり覆っていて、その正体は杳として知れない。


 初めて見る顔だ。いや、顔はフードに隠れていてわからないから、これは言葉の綾なのだけど。


 誰だろう? あの人も僕と同じエクスプローラーなのだろうか?


 もしかしたら、あの人も僕みたいに他のパーティーに入れてもらえなかった〝はぐれ者〟なのかもしれない。


 あるいは、既にどこかのクラスタの一員だけど、一緒に行くはずのパーティーメンバーが遅刻しているのかもしれない。


 まぁ多分、後者の可能性が高いと思う。だって、僕はあの人がパーティーメンバーを探して動いている姿を見かけていないのだから。今だって、まるで誰かを待つように椅子に腰掛けているし、テーブルには香茶のカップが載っている。どう見たって待ちの姿勢だ。


 本日、五度目の挑戦をしてみるべきだろうか?


 もしかしたらメンバーに空きがあるかもしれない。ダメだったら、予定通りソロで行くだけの話だし、やってみて損はないだろうし、ここまで来たら当たって砕けろの精神で。


 どうせ駄目で元々なんだから。


「あ、あのっ!」


 僕は謎の人物に近寄ると、ほとんど破れかぶれになって、自棄っぱちな笑顔と一緒にこう言った。




「支援術式が得意なんですけど、やっぱりパーティーには入れてもらえないでしょうか!?」




 我ながらひどい売り込み文句だった。


 僕の声が壁や床に吸い込まれ、しん、と静まる店内。まるで一(セカド)が永遠にも感じられるような静寂。


 主観的には一〇ミニトぐらい。客観的には多分一セカドぐらいの間を置いて、外套の人は振り向いた。


 チリン、とどこかで鈴のような音が小さく響く。


 振り返ったフードの中は、未だによく見えない。


 お断りされる予感しかなかった。


「……うむ、よいぞ」


 やっぱり駄目だったか。仕方ない、頭を下げて帰ろう。


「す、すみません、失礼しました……」


 溜息を吐きたいところを我慢しつつ、背中を向けると、


「おいおぬし、何処へ行く?」


「えっ?」


 呼び止められて、振り返る。


「妾はよいと言ったのじゃ。なのに何故、おぬしは帰ろうとする?」


 言われた言葉をすぐに理解できなくて、僕は少しの間、唖然としてしまった。その間、声の調子から察するとこの人は女の子で、しかもかなり幼い雰囲気だなぁ――なんてどうでもいいことを考えていた。


 はっ、と我に戻る。


「――あっ、はい! すみま……ええっ!? いいんですかっ!?」


 予想外の展開に驚く僕に、こくん、と頷く外套の人。


「よい。そのパーティーとやらに入れてやろう」


「……へ?」


 あれ? パーティー【とやら】? ……おかしいな、何か変だぞ?


「あ、あの……」


「なんじゃ?」


 聞き返す声にはこれっぽっちも悪意を感じない。どうも本気の素で聞き返しているみたいだけれど――


「ちょっとお聞きしたいんですが……他のメンバーの人って、今どこにいらっしゃるんですか……?」


「おらぬ」


「はい?」


「おらぬ、と言った。妾は一人じゃ」


「…………」


 おかしい。歯車がずれている気がする。


「あの、えっと……変なこと聞きますけど、ルーターはお持ち……ですか?」


 本当は念押しのように『ですよね?』と聞こうと思ったけど、何かを踏み抜いてしまいそうな気がしたのでやめておいた。


 小柄な外套の人は、なんだか妙に可愛らしい仕種で小首を傾げた。


「? ルーター?」


 あ、駄目だ。ルーター知らないやこの人。僕わかっちゃった。この人ぶっちぎりの初心者だ。


 この瞬間、僕は大きな勘違いに気付いた。


 後者だったのではない。前者だったのだ、と。


 つまり、この人は僕と同じ〝はぐれ者〟だったのだ。


「――ごめんなさい……何でもないです……」


 道理で会話が噛み合わないはずである。僕はさっきまでの恥ずかしい会話に蓋をして、改めて話題を変えることにした。


「ええと……ここに来たのは最近ですか?」


 こくり、と外套の人が頷く。チリン、とまた鈴の音が鳴った。どうやらフードの下に、何か金属質のものを身につけているらしい。


「うむ。今朝、この街に来たばかりじゃ。ここへ来れば、エクスプローラーになれると聞いたのでな」


「あー……すると、やっぱり初心者さんですか?」


「ふむ。そうなるの」


 なのにどうしてそんなに自信満々なんですか。僕はそれがとても不思議です。


 僕が微妙にモニョっていると、今度は外套の人が、


「して、ルーターとは何じゃ? その、パーティーとやらに必要なものなのか?」


 うわぁ、これは完全に一から教えないといけない感じだなぁ――なんて思ってたら、不意にフードの奥に隠れていた瞳と目がパッチリ合ってしまった。


 その両目の美しさに、僕はしばし言葉を失う。


 まるで猫みたいなヘテロクロミア。右目が海のような蒼で、左が金塊みたいな黄。オッドアイの人を初めて見たわけでもないけど、その左右非対称の色にはやっぱり吃驚するし、綺麗だなって思う。


「……? どうしたのじゃ?」


 大きな金目銀目がキョトンとする。それで僕は正気を取り戻し、慌てて、


「あ、いえ、その……」


 誤魔化すように、ごほん、と咳払いを一つ。


「――そのですね、僕はこう見えても初心者ではありませんので、それなりのことを教えてさしあげられると思います」


「ふむ」


「ですので、さっきのパーティーに入れてくださいっていうのは、とりあえず忘れてください。僕達二人だけの時は、その状態をコンビと言います。コンビの場合はルーターを使いません。ルーターを使う時はパーティーを組む時です」


「ふむふむ。なるほどのう」


 感心したように外套の人は頷きを繰り返す。


 僕は緊張している自分を自覚しつつも、必死に顔に出ないよう努力する。


 何故なら、エクスプローラーについて説明するとなると、僕みたいなエンハンサータイプについても話さなくてはいけなくなるからだ。


「えっと……なので、改めてお願いしますが、説明が全部終った後でも、出来れば今日一日だけでもいいので、その……僕とコンビを組んでいただけませんかよろしくお願いします!」


 ばっ、と腰を九〇度に曲げて勢いよく頭を下げながら右手を差し出す。僕に出来る最大級の『よろしくお願いします』のポーズだ。


 すると、


「……なんじゃおぬし。やけに律儀な性格をしておるのう」


 からかうような調子の声と、右手に触れる柔らかな感触。


 顔を上げたら、フードの奥のヘテロクロミアが弓なりに反っていて、外套の中から伸びた小さな手が僕の右手を握っていた。


 そこだけはフードにも外套にも隠されていない口元が、くふ、と笑った。


「よかろう。妾は今より、おぬしとコンビじゃ」


 その手は思っていた以上に小さくて、柔らかくて、儚くて。


 もしかしたらこの子は僕より年下かもしれない、と思った。


「ありがとうございます! えっと……あ、自己紹介がまだでしたね」


「こりゃおぬし、その言葉遣いはなんじゃ。妾達はもうコンビであろう。他人行儀はやめぬか」


 という、ありがたいやら情けないやら、微妙な感じのお言葉をいただく。僕はその厚意をありがたく受けとることにした。


「――うん、わかった。じゃあ改めまして……僕の名前はラグディスハルト。二週間前まではキアティック・キャバンにいたんだけど、ちょっと思うところがあって、最近この〝浮遊島〟にやって来たばかりなんだ。だから初心者ではないけど、ここではまだ新参者だよ。よろしくね」


 ぎゅっ、と繋いだままの右手に少しだけ力を込める。


「ラグ……?」


「ラグディスハルト」


「ラグディスハルト、か。ふむ。長い名前じゃな。姓はないのか?」


「ああ、僕、ルーツが東の方だからね。名前だけなんだ」


「東の方というと、確か、あの英雄セイジェクシエルの出身地じゃったな」


「そうだね。一応、遠い親戚ってことになっているけど」


「ほう? 英雄の末裔か。頼もしいのう」


「あはは、重荷になることもしばしば、だけどね。君は?」


 今度はそっちの自己紹介をして欲しい、という意味で問うと、彼女は笑うのをピタリと止めて、少しだけ沈黙した。やがて、


「――妾の名は……ハム、という。姓は……すまぬが、故あって言えぬ。……のう、おぬしよ。逆に聞きたいのじゃが、おぬしはこんな妾でも良いのじゃろうか? それとも、信用できぬ、か……?」


 不安そうにこちらを窺ってくる金目銀目に、僕は軽く笑い、首を横に振って見せた。


「大丈夫、気にしないよ。誰にだって言いたくないことの一つや二つ、あるものだと思うから」


 僕がそう言うと、小柄な外套をかぶったハムは、くふ、と再び口元に笑みを浮かべた。


「――うむ。おぬしが気の良い奴で妾は嬉しいぞ」


 きゅっ、とハムの白魚のような手が僕の右手を握る。


「よろしく頼むぞ、おぬし」


 ……毎度のことだけど、僕の名前はちょっと長いので、大体の人がそのまま呼んでくれなかったりする。どうやら今回もそういう流れらしい。


 ちょっと苦笑い。


 僕はハムとの握手を終えると、その手でウェイトレスさんを呼んだ。


「はいはーい、ご注文は何ですかにゃ?」


 赤毛の猫っぽいウェイトレスさん――ここの看板娘のアキーナさんというらしい――に豆茶を注文すると、僕はハムの向かいの椅子に腰を下ろした。


 さて、僭越ながら、僕はこれからエクスプローラーの何たるかを語らなければいけない。


 どうやらハムは、本当に何も知らないままこの〝浮遊島〟に来たらしい。となると、やっぱり初歩の初歩から説明した方がいいだろう。


「じゃあ、説明を始めるね。そもそもエクスプローラーというのは――」


 まずエクスプロールの基本のキから話し始めた僕に、頷きながら熱心に耳を傾けてくれるハム。


 彼女は未だその外套を脱いで顔を見せてはくれないけれど、それはやっぱり、名前を隠していることと関係しているのだろうか?


 出来れば、そのうち顔を見せてくれると嬉しいな、と思う。


 それで、もっと仲良くなれたらいいな、とも思う。


 そして、友達になってくれたらもっと嬉しいな――とも。


 なにしろ僕は、前にいた場所では、最後の最後まで友達が出来なかったのだから。


 そう。実は僕、友達欲しさにエクスプロールの基盤をこの土地へ移してきた人間なのだ。


 あまりに情けない理由だから、人にはちょっと言えないけれど。


 だから今回のこの縁が、友達にまで発展してくれたら、すごく嬉しいんだけどなぁ……


 などと考えつつ、僕はかつて自分の師匠から教わったことをハムに教授していく。


 それから、小一時間(アワト)ほどの講義を終えると、僕とハムは連れ立ってエクスプロールに向かったのだった。



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