●5 怪物の才能と血筋 1
「か、怪物?」
そんなことを言われたのは初めて――というわけでは当然ない。
なにせ僕の異名には〝勇者ベオウルフ〟や〝雷神〟以外にも、しっかり〝怪物〟というものがあったりするのだ。
だから、ある意味では聞き慣れている名称ではある。あるが――
「それって一体どういう意味で……?」
「そのままの意味さ。君は、この世界で、最大の、怪物に、なる」
詳細を知りたくて聞き返したのに、エイジャは節をつけて繰り返した。いやドヤ顔しないで。全く情報量が増えていないよ?
「いや、だから、怪物って、どういう、意味なの……?」
僕もつられるように節をつけて、再度聞き返した。
「既にラトは、その気になれば化物じみた力を発揮できるが……見た目までそうなるという意味か? 先刻のように」
結局、隣のハヌが踏み込んだ質問をしてくれた。先刻のように、とはエイジャが表示した映像を指している。全身が真っ黒に染まり、輝紋が宙に浮き出て、目の中までもが漆黒に染まった姿――確かに〝怪物〟と言っても過言ではない見た目ではあった。
が、エイジャは首を横に振った。
「いいや、そんなわかりやすい話じゃない。怪物は怪物でも――オレが言いたいのは『人を超越した存在』という意味での怪物さ」
いや茶目っ気たっぷりに片目を閉じながら言っても、とんでもない発言をしていることに変わりはないんだよ?
「人を超越した、存在……?」
ある意味では不穏に過ぎる表現に、あのロゼさんが眉をひそめた。
その通り、と言わんばかりにエイジャは頷く。
「言っただろう? マイマスターは『〝守護者〟と〝破壊者〟、双方の力と資格を得た』――と。実を言うとこれらは本来、併せ持つことの出来ない相反した属性と力なんだ」
そういえば、と思い出す。
エイジャはこうも言っていた。〝破壊者〟は〝守護者〟と対を成す存在だ――と。
「いわば火と水さ。相反する力が触れあえば強烈な反応が起こる。場合によってはお互いがお互いを消滅させてしまう。『〝守護者〟の持つ『白の力』と、〝破壊者〟の持つ『黒の力』とはそういった代物なんだ。わかりやすく言い換えるなら『聖なる力』と『邪なる力』――とでも言った方が理解しやすいかな?」
何故だか皮肉げな表情を浮かべて、エイジャは軽く肩をすくめた。双方の力を『聖邪』に例えた自分自身を、まるで小馬鹿にするように。
「だが現在、マイマスターの中には『白』と『黒』、双方の力が秘められている。これは実に希有な状態といえる。突然変異なのか、それとも、どこかの誰かが意図して交配した結果なのか――それは知りようもないが、ともかくオレの知る限りでは、二つの力を同時に所有する人間なんて、この世界で初めての存在だよ」
世界初、という響きは光栄なようにも思えるが、きっとそんなことはないのだろう。何故ならエイジャの口にした『交配』という単語があまりにも不謹慎すぎる。本人はわかっていてその言葉を選んだのか、それとも――
「しかも、二つの力はマイマスター・ラグディスの中で混ざり合うことなく、それぞれが独立している。一つの肉体に収まっているというのに、各々の領分がしっかり区分けされているのさ。まぁ、だからこそ、前代未聞の奇跡が起こっているのだろうけれど」
「……ちょっと待って、エイジャ。なんだか……そういう構造って、僕どこかで聞いたことがあるような気がするんだけど……」
ものすごく嫌な想像が脳裏に浮かび、僕は思わず片手を上げてエイジャの話を止めてしまう。
混ざり合うと激しく反応を起こす力が二つ。僕という器の中に入っているが、しかし互いに触れ合うことなく共存している。コップで例えるなら、間に仕切りがあって、白い液体と黒い液体が同時に入っている状態みたいなものだろうか。
しかし、二つの液体を仕切っている板を外すと――
「そうさ、つまりは【爆弾】だね。流石はマイマスター・ラグディス、よく気付いたね」
さらっと言ってくれた。いや褒められても全然嬉しくないのだけど。
「ご想像の通りさ。今のところは安定して分割されているようだけれど、もし何かの拍子に二つの力が混ざってしまったら――ボン」
と、閉じた掌をパッと開いて、爆発を表現する。しかし、
「――となるかどうかは断言できない。断言できないが、まぁそれに類することが起こる可能性は充分にあるね」
僕だけでなく、この場にいる全員が絶句する。ハヌもロゼさんもフリムも、何とも言えない視線を僕に向けてくる。一人、ムーンだけが事情を理解しておらず、キョトンとしていた。
「な、なんでそんな微妙な言い方を……」
爆発してしまうのなら爆発してしまうと、いっそはっきり言って欲しい。エイジャの奥歯に物が挟まったような言い方には、余計に不安を煽られてしまう。
エイジャは残念そうに首を横に振った。
「なにせ史上初のケースだからね。データがないことを断言するわけにはいかないさ。今現在、君の中で起こっていることは未解明のことばかりなんだよ、マイマスター。もしかすると、二つの力は完全に分離されていて融合を起こすことはないのかもしれない。あるいは、どちらも君の中では休眠状態にあるのかもしれない。――このように楽観的に考えれば、希望はいくらでも見いだせるだろう? すぐ最悪の可能性ばかりを想定するのは、君の悪い癖さ、ラグディス」
そんな無茶な。自分の肉体が一種の爆弾みたいなものだと言われて、最悪の可能性を考えない人間がどこにいるというのか。
ふふ、とエイジャは微笑む。
「それにオレは先程こう言っただろう? 安心してくれたまえ、君には元々【その素質】があった――と。元より君の中には【白と黒の力が同居していた】んだ。勾邑はそこに新たに黒の力を補給したに過ぎない。君の『器』はとうの昔から、二つの力を受け入れることが可能な形状になっていたのさ」
「え……?」
意味がわからない。
素質があった? 何故?
どうしてそんなことになっているのか。
話を聞くに〝守護者〟も〝破壊者〟も、どうやら特別な力を持つ存在をそう呼ぶらしい。
であれば、ハヌの出身地である『極東』にほど近い田舎生まれの僕など、まったくの無関係のはずなのに――
「鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているね、マイマスター。まぁ君のことだ、そんなことだろうとは思っていたけれど」
ふふふ、とエイジャは蠱惑的に笑う。
「けれど、オレは知っているよ。最初の契約の際、君の体液を採取させてもらっただろう? そこから様々な情報を読み込ませてもらったんだ。だから、君の体のことなら何でも知っているのさ」
何ともいやらしい言い方をするエイジャ。殊更にねっとりとした口調で言うものだから、思わず甘引きしてしまう。
「まず、君の中に最初から『黒』と『白』の力が存在していた件について、わかることから説明しようか。まず、黒の力については不明だ。少なくともオレにはわからない。勾邑に注入される前からマイマスターの中に潜んでいた『黒』はどこから来たものなのか? まったくもって不思議だが、何故か既に【あった】んだ。オレと君が出会った時には、もう。それだけは確実に言える」
もう何度目かわからない悪寒が背筋を駆ける。エイジャにすらわからないという、僕の中に最初からあった『黒の力』――あんな恐ろしい見た目になるような要因が、ずっと前から僕の中にあったって? 一体どうして?
「だが、『白の力』については単純明快さ。君の体に流れる血――〝ロイヤルブラッド〟は、『白の力』を持つ〝守護者〟の傍系だからね。多かれ少なかれ『白の力』を有しているのは、むしろ当然のことなのさ。もちろん、そちらのミリバーティフリムも多少なりとも『白の力』を体に宿しているはずだよ。活用できるかどうかは、また別の話だけれど」
「――え? アタシ?」
急に矛先を向けられて、フリムが紫の瞳をパチクリさせる。
エイジャは、然り、と頷き、
「君達に流れる〝ロイヤルブラッド〟は元を辿れば、〝守護者〟の主流である〝純血〟に仕える家系だったんだ。長い歴史の中で多少【混じってしまう】のは、ごく自然な流れだとは思わないかい? そして逆に言えば〝純血〟側にも、君達〝ロイヤルブラッド〟が混じって特殊な存在が生まれるのも……ね」
意味ありげな視線を、エイジャはハヌに向ける。が、ハヌは目を合わせようとはしない。エイジャの話に耳を傾けてはいるが、対立姿勢を崩す気はないようだ。
「つまり、ラグさんに宿る『白の力』は遺伝で、『黒の力』の由来は不明だと――そういうことですか」
「その通り。君は本当に単刀直入だね、ロルトリンゼ。座右の銘は〝シンプル・イズ・ベスト〟かな?」
エイジャの発した慣用句に少しだけギクリとする。彼は僕の記憶を覗き見でもしたのだろうか? それともルナティック・バベル内に蓄積された記憶だろうか。〝シンプル・イズ・ベスト〟という表現は、少なからず僕の古傷を抉るものなのだ。
「ともあれ経緯は不明だが、君は『白の力』を持つ血筋でありながらオレと出会う前よりその身に『黒の力』をも秘めていた。言うなれば【生きた爆弾】だったわけさ、とっくの昔からね。君と初めて会った時のオレの驚き、わかってくれるかい?」
当時のことを思い出したのか、エイジャがくつくつと喉を鳴らす。僕も脳裏に記憶が蘇るけれど、エイジャが大いに驚いていたという印象はあまりない。どちらかというと、楽しんでいたような――
「……ラトがそのように希有な存在であることはあいわかった。して? 何を以てラトが怪物になるというのじゃ? おぬしの話を聞いておると、ラトがただの爆弾であるとしか言っておらぬようじゃが」
ハヌの尖った声がエイジャに突き刺さる。ギロリ、と鋭く光る眼光もまた剃刀のようだ。
「わからないかい? この世界を守る〝守護者〟の力に、この世界を壊す〝破壊者〟の力まで持っているんだよ? どちらにでもなれるし、どちらをも超える存在にだってなれる――それこそ、【その気になれば何でもできる可能性がある】ってことさ」
どうして理解できないのか、と残念がるようにエイジャは首を横に振る。
「でもそれって、可能性があるってだけなんじゃ……」
思わず心の声がそのまま口から出てしまった。実際、僕自身には何の自覚もない。白だの黒だの言われても、そんな力を実感した覚えなどまったくないのだ。
「そもそもの話なのですが、『白』と『黒』の力とは、具体的にどのようなものなのですか? 世界を守る、壊すだけでは抽象的に過ぎるかと」
ロゼさんが肝心な部分に切り込んだ。そういえば、既に僕は『黒の力』なるものを使用――エイジャが表示したものを見る限りでは――しているようだが、それがどういったものかはさっぱり理解できていない。何となく、すごいことが出来そうなのはわかるけれど――
「いい質問だね、ロルトリンゼ。ある程度は予測できているだろうけれど、詳しく解説しようか」
パチン、とエイジャが指を鳴らすと、さっきとは比べものにならない数のARスクリーンが空中に現れた。僕達を取り囲むようにして展開した大量のARスクリーンには、どうやら『黒くなった僕』が映っている。ゲーム中に撮影した映像のようだ。
「そして、これは先程の質問の回答にもなる。ロルトリンゼ、君は聞いたね。オレのゲーム中、マイマスターは失格状態にあったにも関わらず、何故ゴルサウアに攻撃することが出来たのか――と」
そういえば、その問いに対する明確な答えはまだ聞いていなかった。先刻は『勾邑が悪さをしたせいだ』と言っていたけれど、それは答えになっていない。
「勾邑や君の持つ『黒の力』――すなわち〝破壊者〟の力とは、一言で言えば『世界の理をねじ曲げる力』さ。いわゆる一つのルールブレイク――〝チート〟と呼ばれるやつだね」
「いかさま……?」
何とも言えない奇妙な響きを、思わずオウム返しにしてしまう。
「そう、まさにチートさ。この世界にある法則のことごとくを浸食、改変させることが出来るのだからね。実際、君はゲームのルール上『失格』でありながら、他のプレイヤーを攻撃し、その支配下に置いていた。と言っても、覚えていないのだろうけれど」
エイジャの言葉に合わせて、いくつかのARスクリーンが拡大される。そこに映るのは――何人かの『探検者狩り』と戦闘を繰り広げる『黒い僕』の姿。
「う、わ……」
思わず呻き声が出た。そこに映る僕の行動は、明らかに常軌を逸していたのだ。
まずもって動きが人間離れしている。まるで動物だ。ケダモノじみた動きで飛び回り、型も何もない体勢で長巻状態の黒帝鋼玄を振るっている。
そこには師匠から授かった教えも、ロゼさんやアシュリーさん、ヴィリーさんから受けた指導も、これまでの経験値さえ反映されていない。
極端なまでの緩急。別人としか思えないほど、速くて柔らかい戦闘機動。僕の知っている『達人』の動きに、似て非なる術理。
「な、なに、これ……」
なのに、強い。まったく記憶にないけど、黒い僕は圧倒的に強かった。
どうやら支援術式は使っていないらしく、速度は大したことない。腕力もそうだ。でも――強い。常識の埒外にある動きで『探検者狩り』の攻撃をいなし、想像もしなかったトリッキーな角度から反撃を打ち込み、相手の死角に刃を滑り込ませる。
肉体の性能および実力では格段に上であるはずの『探検者狩り』を、バッタバッタと斬り伏せていく。
「この通り、本来ならマイマスターの攻撃は彼らには当たらない――実際、最初の数撃はそうだったね。相手の肉体を透過して、何のダメージも残していない。だが、それに気付いた後は【修正を施し】、マイマスターは【ルールを曲げた】。ゲームマスターでもないのに、ね」
エイジャが投影する映像には、ご丁寧に僕や『探検者狩り』のステータスが表示されていた。
黒い僕に斬られた相手は、HPには何の変化もないのに、しかし糸の切れた操り人形のように崩れ落ちる。ゲームに関係なく、まるで【本体にダメージを負ったかのごとく】。
「失格になった者はプレイヤーに攻撃できない、攻撃を受けてもHPが残っている限りは傷を負わない――俺の制定したゲームのルールがまるっきり無視されているね。これがマイマスターの持つ、そして勾邑が浸食させた『黒の力』だ」
もはや僕の姿をした、別種の怪物――そんな風にしか思えなかった。僕は当然のことながら、ハヌもロゼさんも、フリムも映像を凝視して絶句している。ここまで酷い映像があるとは、誰も予想していなかったのだ。
「ゲームで言うなら、【バグ】の力だね。世界を浸食し、理をねじ曲げ、狂わせる力――そして、浸食した相手を支配する力でもある。毒か疫病か、どちらにせよ碌なものでないことは間違いないね」
飄々(ひょうひょう)とエイジャは嘯く。どこか楽しそうなのは、きっと気のせいではないだろう。彼は僕の置かれた状況を、明らかに楽しんでいるのだ。
「とはいえ、ベクトルはどうあれ力は力だ。だからこそ途中からゲームに参加した――正しくは乱入したと言うべきかな?――勾邑の行動には目を瞑っていたのだけどね。マイマスターがより強い力を得ること自体は、なんにせよ喜ばしいことだったから。しかし……」
調子よく喋っていたエイジャの声音が、ここに来てトーンダウンした。
「……そう、マイマスターを浸食しようとした勾邑を見た時、これならば精神支配の影響も少なく、むしろ追加補充された『黒の力』でパワーアップするだろう――と、逆に【しめたものだ】と思っていたのだけれどね……まさか、空間転移に際して不具合が起こるような仕掛けがあったとは、流石のオレも見抜けなかったよ。おかげで転移座標が狂ってしまって、現在に至るというわけさ。まったく困ったものだね、ははははは」
内心の憤懣を誤魔化すように、エイジャは軽やかに笑った。いや、ははははは、などと笑っている場合ではないのだけれど。
「――けれどおそらく、マイマスターがこのチョコレート・マウンテンに移動させられたこと自体には、さほどの意味はないとオレは見ている。いくら勾邑でも未来が見通せるわけではないからね。転移の座標が狂ったのは浸食の副作用によるものだろう。先程も言った通り、あの悪い虫には悪気がないからね。善意だけで行動しているんだよ、彼は常に」
僕達の置かれた状況に置ける元凶には悪意がない。むしろ善意の塊だとエイジャは言う。
世の中の善意が全てプラスに働くわけではなく、マイナスになることもある――つまりはそういうことだろうか。
「しかしながら、結果には原因があるものだ。マイマスターの転移がこのチョコレート・マウンテンに【引っ張られた】のは、ここで起こっている現象がその理由かもしれないね。一難去ってまた一難、とはまさにこのことだ」
その一難の元凶であるエイジャが言うのには業腹だが、しかし内容には同意しかない。
考えてみれば、瞬間転移の座標が狂うにしても、それがチョコレート・マウンテンである必要はどこにもない。他にも遺跡はあるのだし――まぁ転移先が遺跡とも限らないのだけど――何が原因かはわからないけれど、他の場所に転移してもよかったはずだ。
なのに、よりにもよって現在進行形で異常事態が起こっているチョコレート・マウンテンに来たのには、何かしら原因があるはず。
あるいはそれは、ハヌによく似た現人神の素体であるというムーンもまた、関係があるのかもしれない。
「――さて、考えはまとまったかな、ミリバーティフリム? 思うに君は、この疑問に対する答えを持っているんじゃないかな?」
僕がしばし思索の海に潜っていると、不意にエイジャがフリムに水を向けた。
「…………」
僕の従姉妹にして幼馴染みは、先程の妙な態度以降、あまり話に加わらずに黙考している様子だった。話を振られたフリムは、無愛想な顔で空中のエイジャを見上げる。
「……疑問って、何のことよ?」
「決まっているじゃあないか。先程も言った通り、君とマイマスターは〝守護者〟の血を引く家系だ。なのに、マイマスター・ラグディスには【破壊者の素質がある】のは何故なのかな?」
硬い声で聞き返したフリムに、エイジャは歌うような口調で質問を重ねた。その態度は、答えこそ知らないが、それが僕やフリムにとって不都合なものであることを確信しているかのようだ。
「見る限り、君には『黒の力』は秘められていないようだ。つまり、血筋が原因ではないらしい。そうだろう? なら、マイマスターにだけ〝破壊者〟の素養が備わった理由があるはずだ。ミリバーティフリム、君はそれを知っているからこそ、先程から妙な様子を見せているんじゃないかい?」
「…………」
図星を指された、と言わんばかりにフリムが黙り込んだ。露骨に唇を尖らせて、自らの不機嫌をアピールする。こういうところは子供の頃から本当に変わらない。
「それに、君にも流れている〝ロイヤルブラッド〟の話をしたというのに、さほど驚いている様子がなかった。さては君、【既に知っていたね】?」
「こっち指差すんじゃないわよバカ。へし折るわよ」
ピンと伸ばした人差し指を向けるエイジャに対し、フリムは恫喝めいた言葉を口にする。が、あからさまに話を逸らそうとしているのが丸わかりだ。
もちろん、それは当人も自覚していたのだろう。ふん、と鼻を鳴らすと、フリムは自慢のツインテールの片房を軽く手で振り払い、
「ま、いいわ。そこまで言うなら答えてあげる。つっても、私も全部知っているわけじゃなくて、ほとんどが推測なんだけど」
はぁ、と呆れたような溜息を吐いた。次いで、ピュアパープルの瞳を僕に向け、
「ハルト、まずはアンタに質問よ」
「え、僕?」
「さっきコイツが出してた勾邑の写真、アンタには【どう見えた】?」
「ど、どう見えた、って……」
最短距離で踏み込んできた問いに、思わずドキリとする。
どうもハヌやロゼさん、フリムに見えているものが、僕には見えていないらしい――という自覚がある。でもそれを、この場でどう説明すれば――
「【見えてないんでしょ】? アンタ、勾邑の顔が」
「――っ!?」
迷っている間に懐へ潜り込まれ、核心を言い当てられた。思わず息を呑んで目を白黒させてしまう。
「……やっぱりね。その反応だけで充分よ。アンタ、やっぱり認識できてなかったのね」
フリムは目を伏せ、はぁぁぁ、と深い溜息を吐いた。わかりきっていたことだけど、という言外の声が聞こえたような気がする。
しばし、覚悟を決めるような間を置き――
「――いい、ハルト。よく聞いて。今から大事な話をするから」
フリムが改まってそう切り出した。
「う、うんっ……」
僕は反射的に背筋を伸ばし、ソファの上で居住まいを正す。ざっくばらんなフリムがこのように前置きするのは珍しい。何か、とてつもなく重大な話なのだろう。
僕は我知らず生唾を嚥下する。ハヌもロゼさんも、黙って僕らのことを見守ってくれている。エイジャは高みの見物で、そういえば先程からムーンが静かだなと思ったら、話がつまらなかったのか、彼女はコックリコックリ船を漕いでいた。
すぅ、とフリムが息を吸い、
「いい、アンタには見栄がドイツだと場音だけど、勾邑にひじゅち凝るぼはめ来年は鬼ざらめ」
「え――?」
何て?
「たまつきじゅ認識をあぽえらんヴァ、あぇうるらぁめ、記憶のどかれべんらびうぇだんだらどるを」
いや、意味がわからない。
フリムが何を言っているのか、さっぱりわからない。
一体、どうしたんだろう――?
「あslf;kjdついえぽqんbzfかsdjlるいqえおpwbxう゛ぁfsdhlkrqうぇ@いおゆtzxさlkdふぉpwqgfmbぃゆsdxzsdうぇぽlkcvんkうぇしうてゅcvんbsdl;s;っl」
いや――違う。フリムがおかしいんじゃない。
僕が。
おかしいんだ。
「繧「繝ウ繧ソ縺ョ縺顔宛縺輔s縺ィ縺頑ッ阪&繧薙?險俶?縲∵カ医∴縺ヲ縺?k縺ィ縺?≧縺区ョ九▲縺ヲ縺ェ縺?→縺?≧縺九?∬ェ崎ュ倥〒縺阪↑縺?〒縺励g」
繧上¢縺ョ繧上°繧峨↑縺?炊隗」縺ョ蜃コ譚・縺ェ縺?ィ?闡峨r諢剰ュ倥?陦ィ螻、縺ァ閨槭″豬√@縺ェ縺後i縲∝ヵ縺ョ諢剰ュ倥?繝悶Ξ繝シ繧ォ繝シ繧定誠縺ィ縺吶∩縺溘>縺ォ騾泌?繧後◆