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リワールド・フロンティア-最弱にして最強の支援術式使い〈エンハンサー〉-  作者: 国広 仙戯
第五章 正真正銘、今日から君がオレの〝ご主人様〟だ。どうぞ今後ともよろしく

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●38 混戦・蒼き紅炎の矢 1









 蒼い火柱が高く高く伸び上がる。


 天をも焦がせと燃え盛る。


 私はここにいるぞ――蒼い炎はそう叫んでいた。


 同胞はここへ集え――蒼い炎はそう呼んでいた。


 敵は全て斬り焼き捨てる――蒼い炎はそう告げていた。


 誰あろう〝剣嬢〟ヴィリーの熱き炎は巨大な火柱となり、浮遊都市に屹立する『月の塔』のごとく高々とそびえ立つ。


 浮遊大島の中央、朽ちた都市群の一角。


 遠くにある騎士団の者は、その蒼穹よりもなお蒼い炎の塔の姿から勇気を得た。


 たまさか近くにいた者は、目の前にとばりのごとく落ちた絶望の闇が溶け消え、視界が晴れ晴れとしていくのを感じた。


 さながらヴィリーの蒼炎が、心を覆う暗闇のカーテンを燃え散らしたかのごとく。


「ヴィクトリア団長だ……!」「団長が、団長があそこにいるぞ!」「立て! 走れ! あの方のもとへ急ぐんだ!」「そうだ、私達はまだ負けていない!」「我々には〝剣嬢〟ヴィリーがいる!」「戦いはまだこれからだ!」「いくぞっ!」


 鬼人の〝巨人態〟の大群という未曽有の脅威に、戦意を喪失していた騎士達が生まれ変わったかのように声を上げ、それぞれに動き始めた。


 ヴィリーの火柱は、まさに彼ら彼女らにとっての『旗』だったのだ。


 かくして旗は雄々しくそそり立った。遠くから見えるほど大きく、何よりも高らかに。そしてあの下には、心強い旗頭はたがしらがいる。


〝剣嬢〟ヴィリーがそこにいる。


 ただそれだけのことで、騎士達の心には無限のごとく勇気が溢れてくるのだ。


 無論、ヴィリーの行動には危険が伴う。


 誘蛾灯に惹かれる羽虫のごとく群がってくるのは、彼女の味方だけではない。


 鬼人の群れもまた集まって来る。それも大挙して押し寄せてくる。


 だが構わない。構うものか、と彼女は豪語するだろう。


 彼女の蒼き炎は巨人よりも強大だ。負ける気など微塵もない。


 故に。


「――〈アチャラナータ・クリカラ〉」


 近付いてくる巨人の姿を見据え、全身を揺らす地面の震動をしかと受け止めながら、彼女は術式を発動させた。


 その身に纏った蒼炎を爆発的に膨張させて、巨大な人形ひとがたを形作らせる。


 炎の騎士。


 鎧を纏い、長大な剣を帯びた炎の巨人が誕生する。


 その大きさは鬼人の〝巨人態ギガンティック〟すらをも凌ぎ、彼らの頭に生えた角を優に見下ろせるほどだった。


『■■■■■■■■■■!!』『■■■■■■■■■■■■■■■!!』『■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!』『■■■■■■■■■■!!』『■■■■■■■■■■■■■■■!!』


 鬼人の群れが口々に騒ぎ立てる。己達より巨大な存在を見上げながら叫ぶ姿は、戦咆哮ウォークライの上げているようにも見えた。


 身長差で言えば、ヴィリーの〝炎の騎士〟と鬼人の〝巨人態〟はもはや大人と子供。あるいは、人間と猿ほどの差がある。


 しかし、〝炎の騎士〟はただ一人。


 一方の〝巨人態ギガンティック〟はどう少なめに見積もっても十体以上。さらに、強大な〝炎の騎士〟の巨影シルエットに引かれて多くの援軍がやってくるだろうこと、間違いはない。


 そんな数において大いに不利であるのが明らかな中、燃々(しょうしょう)と大気を焦がす剣を振り上げ、


『――――――――――――――――!!!』


 炎の騎士が巨体をねじり、剣光一閃。


 蒼い煌めきが空間そのものを切り裂き、輝線を残す。


『――!?』


 一瞬遅れて、思い出したように鬼人たちの上半身が宙を飛んだ。巻き込まれたビルの上層も例外ではない。大質量の物体が、冗談のように空を舞う。


 刹那、浮遊大島の各地から喝采が起こった。これあれかし我らが騎士団長――と『蒼き紅炎の騎士団ノーブル・プロミネンス・ナイツ』のメンバーが歓声を上げたのだ。


 だが同時に巻き起こるのは、彼ら彼女らの狂喜の声を圧して余りあるほどの怒号。〝炎の騎士〟に向かって集結しつつある鬼人らの雄叫びである。


 味方を文字通り一刀両断された鬼人達は総じていきり立ち、憎悪にまみれた咆哮を上げた。


 戦いが加速する。


 どの鬼人も足早に駆け出し、それぞれの手に握った得物を振りかざす。〝異能〟を得意とするものはそれを駆使し、術式が得意なものは〝巨人態ギガンティック〟の体表に輝紋を浮かべ、術力を制御する。


 全てが〝炎の騎士〟めがけて殺到した。


『――いくらでもかかってきなさい!』


 ヴィリーの気炎が迸る。彼女の精神を表すように〝炎の騎士〟を構成する蒼炎がより一層強く燃え盛った。


 数では圧倒的に不利だが、力においてはヴィリーの方が鬼人達をはるかに凌駕している。


 となれば後は時間との勝負。


 ヴィリーが鬼人らを殺し尽くすのが先か。


 鬼人らの猛攻にヴィリーの体力気力が尽きるのが先か。


 戦いはよくよく泥沼化していった。


 斬り飛ばされた鬼人らの半身が地に落ちる。巨大な肉塊は都市を巻き込み、高層ビルのことごとくを破壊、崩落させていく。一緒に切断された建物の上層部も同様だ。破壊は〝焔の騎士〟を中心として放射線状に広がっていく。


 そこへ一斉に殺到する鬼人の増援。迎え撃つ〝剣嬢〟ヴィリー。


 崩壊はさらに密度を増し、轟音をがなり立て、膨張していく。


 その光景を黒髪の少年が目にしていたならば、心の中で『ここは地獄だ。目の前の戦いは怪獣大決戦だった』とでも呟いただろうか。


 連続して大破壊が巻き起こる。


 通常のサイズではないだけで、〝炎の騎士〟と〝巨人態〟の戦闘は人間のそれと大差ない。武器を振り、飛び跳ね、転倒する。当然、都市を構成する建造物など全てが障害でしかない。容赦なく損壊され、破片が周囲に飛び散っていく。


 ヴィリーの目的は散らばった味方を集結させることだったが、これでは普通の人間はどうあっても近寄れなかった。下手に近付けば、戦うまでもなく〝炎の騎士〟と〝巨人態〟の戦いの余波に巻き込まれて死ぬ。確実に。


 故に、遅れて第二の【のろし】を上げる者がいた。


 カレルレン・オルステッド。


 剣の主であるヴィリーとは正反対に〝氷槍〟と称される彼は、〝炎の騎士〟が展開した戦場よりやや離れた位置にある、とある高層ビルを自陣に選んだ。


「――〈ユグドラシル・エーリヴァーガル〉」


 巨大なビル一つがルビーレッドの光の網に包まれたかと思うと、全体から血煙のごとく真っ赤な霧が吹き出し、凍結した。


 生まれるのは、真っ赤な氷で形作られた大樹。


 鬼人達には知る由もない。だが『蒼き紅炎の騎士団』に所属する者であれば一目瞭然だ。


 副団長があそこにいる――巨大存在同士が戦う空間へ馳せ参じえない者達は、こぞって目指す先を真紅の氷樹へと変更した。


 先の戦闘でそうであったように、カレルレンの『血氷』は時を経るごとに範囲を拡張する。


 十分に領域テリトリーを広げ、地脈と接続することができれば、あの小竜姫の極大術式すら防ぐ要塞にもなるのだ。


 かくして、ヴィリーが〝炎の騎士〟と化して派手に立ち回ることで陽動とし、その陰でカレルレンが『蒼き紅炎の騎士団ノーブル・プロミネンス・ナイツ』メンバーを一処ひとところに集結させることが可能となった。


「――生き残りはこれだけか」


 陣取ったビルの屋上にて。自ら『サーチ』のマジックを使用したカレルレンは、ARスクリーンに表示させたマップを前に重苦しい声で呟いた。


『はい。面目次第もありません……』


 悄然と応じたのは別のARスクリーンに映る、彼の部下であるアシュリー・レオンカバルロである。


 ヴィリーが〝炎の騎士〟として鬼人の大群相手に孤軍奮闘すること三十分ほど。その頃にはカレルレンの〝領域〟も十分に広がり、生き残った『蒼き紅炎の騎士団ノーブル・プロミネンス・ナイツ』のメンバーのほとんどがそこへ駈け込んでいた。


 しかし、あまりにも数が少なすぎる。


「……半数にも届かない、か。随分としてやられたものだ」


『…………』


 カレルレンが口にしたあまりの惨状に、アシュリーは返す言葉もなかった。


 ヴィリー、カレルレン、幹部の〝カルテット・サード〟を除いてもなお三十人以上いた団員は、いまや残り十四名にまで激減していた。損害率が五割を超えているため、もはや『壊滅』と呼んでも差し支えない状態である。


 無論、カレルレンはアシュリーを責め立てているわけではない。言葉の後半は、どちらかと言えば彼自身に向けた言葉であった。


 いくらルナティック・バベルを総べる統括AIが相手とはいえ、むざむざと部下を半数以上も失ってしまった。相手が誰であれ、責任はなべて指揮を執っていたカレルレンにある。


 己の状況判断、指示が間違っていなければ、ここまで損失を出すことはなかったはずだ。


 無視するわけにはいかない。受け止めざるを得ない。


 自分は失敗したのだ、と。


「――団長の援護に入るぞ。総員、戦闘態勢。地脈の力を回す」


 だが、それはそれ、これはこれだ。


 束の間カレルレンは目を伏せ、胸の内に生じる自責の念を強く封じ込める。


 次に瞼を開いた時には、すっきりと澄んだ翡翠の瞳がそこにあった。


 雑念を振り払い、目の前の事象への一意専心を決意したのだ。


 指令を受けたアシュリーが右拳で胸を叩く敬礼をし、


『了解いたしました。総員、戦闘態勢!』


 通信役の騎士に指示を伝える。アシュリーの声を受けた騎士二人――『白』と『黒』のチームごとに一人――はそれぞれの通信網を使い、カレルレンの言葉を〝領域〟内に散らばる仲間へ伝えていく。


 奇しくもカレルレンが構築した通信網は、彼が小竜姫と呼ぶ少女が考案したものとほぼ同じ形式であった。


「『白』に伝令。団長に合図を出せ。こちらの準備は十全に整った、とな」


『了解!』


 エイジャの告白により『黒』と『白』のチーム分けは敵同士を意味するのではなく、むしろ人類側のデメリットでしかなかったことが既に判明している。だが、今もなおそのルールは効力を保っており、『黒』と『白』の間は断絶されたままだ。完全な通信網が構築できない今、少々原始的ではあるが『伝言ゲーム』のようにして情報共有を行う他なかった。


「アシュリー、ゼルダ。君達二人はそれぞれ右翼と左翼を担当。地脈の力を優先的に回す。陣頭に立って敵を討て」


『はっ!』『了解でありますです!』


 アシュリーに続いて、別窓のARスクリーンにて待機していたゼルダもまた、おかしな言葉遣いではあるが敬礼をもって指令を受領する。


 幹部である二人は既に各々の戦闘配置につき、指揮系統を握っていた。拡張されたカレルレンの血氷の〝領域〟の中、右翼をアシュリーが、左翼をゼルダが隊長として任されている。


 そして、


「中央はユリウス、君がかなめだ。本丸の守りは委細任せる」


『おおう、任せたまえ! 余が皆を守る! 守ってみせるとも! 皆は大船に乗った気でいたまえ!』


 意外に思われるかもしれないが、〝カルテット・サード〟が一人『鎧袖一触アトゥー・シュヴァリエ』のユリウス・ファン・デュランは、攻撃もさることながら、防衛をも得意とする騎士であった。


 その異名のごとく、彼の攻撃はまさに『一撃必殺』。パワードスーツ〝サウィルダーナハ〟を纏い、五本の光の槍を装填したパイルバンカー〝ブリューナク〟はゲートキーパー級すら瞬殺する。


 だが同時に、超々高度から放たれたゼルダの〈メテオスマッシュ〉を見事に受け止めきったのまた、ユリウスその人なのであった。


『なぁに余の手にかかればあのような巨人など一網打尽だとも! ふっーはははははははっ! よく聞けデカブツ共っ! 我が名はユリウス・ファン・デュラン! 勝利を呼ぶ気高きヒーローとは、そう余であるっ!』


『先に言っておきますがユリウス、勝手に持ち場を離れたら今回ばかりは本気で許しませんよ。二週間おやつ抜きです』


 高笑いと共に宣戦布告するユリウスに、アシュリーが冷たい声で鋭い釘を刺した。


『はぁーはっはっはっはっ! アシュリーこやつめ! ふはぁーはっはっはっはっはっ!』


 大口を開けて笑っていたのもつかの間、


『――にっ二週間っっ!? 二週間だとうっ!?』


 ユリウスは狼狽も露わに声を荒げる。


『いやいや待て待ていやいや待ちたまえっ! ふ、二日ではなく二週間とはガチで正気かアシュリー!? いあややややそれは流石に余が可哀想だとは思わないのかね!?』


『ええ、もちろん。それだけ今が切羽詰まった状況だということです。理解しなさい。こうして私が怒鳴りつけてないということが、一体どういうことなのか。あなたもそろそろわかってもいい年頃です。容赦はしません。次に余計なことを言ったら三週間に伸ばします』


『オウケィ了解だとも任せたまえっ! 余はアシュリーの言うことをちゃんと聞く、とぉおっても! いい子ちゃん! なのだからな! よってその容赦のない罰則はちょっとふところへ引っ込めたまえ! ――引っ込めたまえよ!?』


『では特別に一週間で勘弁してあげましょう』


『なんとぉーっ!? それは話が違うではないかアシュリーッ! 絶対だ! 余は持ち場を絶対に動かぬぞう! だからおやつ抜きはなしで頼むのだ!』


『静かになさい。ええ、私もそうあることを切に願いますよ、まったく……』


 必死になるユリウスに、アシュリーはこみかみを指で押さえながら溜息を吐く。


 そんな二人の様子に、わずかな間とはいえ『蒼き紅炎の騎士団ノーブル・プロミネンス・ナイツ』メンバーに弛緩した空気が流れた。


 この戦いで多くの仲間が失われた。理不尽に、そして無慈悲に。メンバーの誰もが心に傷を負い、士気を低下させている。不謹慎であるかもしれないが、それでも普段と同じ姿を見せて、ナイツ上層部が『崩れていない』とアピールする必要がアシュリーにはあったのだ。


 無論、ユリウスがそこまで気を配っていたかどうかは定かではないが。


 ふっ、とカレルレンは口元に微笑を刻んだ。配下の幹部がメンバーの心のケアに努めているのだ。司令である彼もまた、その義務を放棄するわけにはいかなかった。


「総員、空を見ろ! 我らが剣の主、〝剣嬢〟ヴィリーはそこにいる! あれこそ我々の希望――勝利の女神だ!」


 その声に導かれ、皆が頭上を仰ぐ。誰からともなく『おお……』と感嘆の声が漏れた。


 今なお、周囲の建造物を破壊しながら戦い続ける蒼炎の大騎士。その奮闘は大挙して押し寄せる巨人の群れを優雅に跳ね返し、その姿はまさに戦いの象徴のごとく君臨し続けている。


 不思議と後光すら差して見える光景に、カレルレンはここぞとばかりに声を畳み掛けた。


「――総員に告げる! これ以上は失うな! 失わせるな! ここからは皆の弔い合戦だ! あの巨人を全て討ち倒し、仲間のかたきを取れ! 今こそ反撃の時だ!」


 我ながら陳腐な言い回しだ――とカレルレンは頭の片隅で自嘲する。だがこういった時ほど持って回った言い方より、直截的な方がむしろ効果的であることを彼は知っている。


 大切な仲間を奪われた怒り、悔しさ、憎悪は既に皆の中にある。カレルレンの役目は、彼ら彼女らの中にある激情に火を点けることだった。


 だからこそ、彼は焚き付ける。


 柄にもなく汚い、下賤な言葉でもって。


「――あのデカブツ共を地獄に叩き落とせッッッ!!!」


『はッッッ!!!』


 とても騎士とは思えぬカレルレンの荒げた声を、この時ばかりは誰しもが是とした。かつてないほど気合いの籠った応答と共に、彼らは戦いに身を投じる。


 これ以上ないほど士気が昂ぶったことを確信したカレルレンは、その手に握ったハルバードに更なる力を込めた。


「――〝接続コネクト〟」


 短い単語を一つ。舌に載せて囁き、自身の〝SEAL〟へのコマンドとする。


 既にカレルレンのハルバードには彼のオリジナル術式〈ブラッドストリーム〉によって、ルビーレッドのフォトン・ブラッドが葉脈のごとく張り巡らされていた。当然、〈ブラッドストリーム〉の浸食はハルバードを伝って床へ、床からは放射状に広がって建物全体へと拡張し、更なる拡大を今も続けている。既にベオウルフ&小竜姫コンビと戦った時と同等か、それ以上の〝領域〟を確保していた。


 彼の持つ神器〝生命ビビファイ〟は文字通り『いのち』を操る。無機物に命を与え、意のままにすることもまた、その力の一角であった。


 赤い氷――〝血氷〟が覆う場所は即ち、その全てがカレルレンの体の一部。彼の思うがまま、自由自在に操ることが出来るのだ。


 そうして広げた〝領域テリトリー〟を、カレルレンはさらに地中に張り巡らされた『地脈』へと接続した。『地脈』とは『【血】脈』。体内に広がる血液網と、地中を駆け巡る『力の流れ』はよく似ている。よって接続は決して容易いとは言い難いが、同時に決して不可能とは言えなかった。


 星の大地に比べれば遙かに小さな浮遊大島。しかし、小さいながらにも地脈はしかと根付いている。そして『地脈』は別名『龍脈』と呼ばれ、その力が噴き出す土地パワースポットを『龍穴ボルテックス』と称する。


「――行くぞ。総員、手加減無用だ! 【全力を出し続けろ】!」


 龍穴を介し、カレルレンの〝領域〟と『龍脈』が接続され、大地に眠る龍の力が抽出された。付与術式〈ジオアブソーブ〉や、かつての敵『ヴォルクリング・サーカス』の使用していた〈コープスリサイクル〉にも似た効果が発揮される。


 その効果とは即ち――【膨大なエネルギー供給】であった。


『ふぉおおおおおおおおおお――――――――ッッッ!!!』


 エネルギー、即ちフォトン・ブラッドに宿る『現実改竄物質』とよく似た性質の力が供給されるのは、無論カレルレンと距離が近い者からである。よって、


『きたぞきたぞきたぞきたぞきたぞきたぞう――――――――ッッッ!!!』


 まず真っ先に恩恵を受けたのは中央に陣取るユリウスであった。


 彼が立つのは赤い血氷に覆われたアスファルト。朽ちた路面は激しくデコボコとしていたが、全て厚い氷に覆われて綺麗に整っている。


 その上で仁王立ちしていた小柄な体から、サンライトイエローの輝きが勢いよく迸った。


『おおう、見事だぞカレルレン! こいつはなかなかよい感じではないかね! これなら余の無限大の力をある程度は皆に見せることが出来そうだぞう! ほははははははははは――――――――ッッッ!!!』


 全身の〝SEAL〟を勢いよく励起させ、テンションの振り切った勢いで呵々大笑するユリウス。その間、彼の近くにいた他の騎士達にも地脈の力が接続され、同じように〝SEAL〟を励起し、各々のフォトン・ブラッドの輝きを煌めかせた。


『――よぉおぉしっ!! かかってきたまえデカブツ共よ!! 不明ながら余は地獄なるものを見たことはないが、どんなものかは聞き及んでいる!! 一人たりとも漏らさず、即座にそこへ案内してやろうともっっ!! とうっっっ!!!』


 無駄に格好を付けたポーズを取ったユリウスの全身が、さらに強い山吹色の光を放つ。意味もなくその場で跳躍した小柄な体が、つかの間、目を灼くほどの輝きに包まれ直視できなくなった。









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[一言] NPKの団結力、カレルさんのバッファー性能など、味方の頼もしさを再確認すると同時に、そのナイツが壊滅的な打撃を受けていることの恐ろしさが身に染みますね……地味にラグディスハルトが当初言ってい…
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