青いにおい
初投稿作品です。
去年の秋頃に書いたものを掘り出して載せてみました。
よろしくお願いします。
よく、鼻が利くね、って言われる。
煙草のにおいは嫌い。
香水のにおいも嫌い。
外の空気のにおいは好き。
ハンドクリームのにおいが好き。
すれ違った人のにおいがよく鼻につく。
あの子が使ってるシャンプーのにおいがする。
あの洗剤のにおいがする。
あれ、いつもとにおいが違う。
何を変えたんだろう。
何が変わったんだろう。
変化に、敏感だ。
◇ ◇ ◇
外を歩く。
晴れている。もうすぐで秋。
大きく鼻から空気を吸い込む。
「こんにちは」
いつも声をかけてくれる、和菓子屋のおばさん。
このお店のあんみつはとってもおいしい。
「こんにちは、今日も良い天気ですね」
「そうねぇ。もうそろそろ寒くなってくるのかしら」
そう呟くおばさん。
そうですね、と返す。
「あと一週間は、暖かいかもしれませんね」
◇ ◇ ◇
ふと鼻をかすめた煙のにおいを感じ取り、息を止める。
煙草を吸っている人が近くにいる。
少し歩いて、少し吸ってみる。
さっきより強くなった。止まっているみたいだ。
喫煙所かな。
方向転換をする。
少し進むと、煙草のにおいは消えた。
「こんにちは」
知らない人のにおい。
「こんにちは」
「そっち、今工事中だから通れないよ」
あぁ、だから土のにおいがするのか。
コンクリートと、ペンキのにおいも混ざっている。
「ありがとうございます」
「いいえ」
どこへ、行こうか。
◇ ◇ ◇
「半年以内には、もう」
「……治る、見込みは」
薬品のにおいがする。
ぼんやりと、白い世界。
「移植を考えれば可能性はありますが、
今のところ技術がまだ」
「そう、ですか」
最後は白い世界より青い世界がいいなぁ。
ふと、いつも優しい女の人のにおいがした。
足音の方へ顔を向ける。
「こっちへおいで」
立ち上がってそちらへ行く。
彼女についていっても、また白い世界。
「調子はどう?」
「元気です」
「……そう、良かったわ。今度来た時、いいものあげるわね」
お礼を言う。
大丈夫、何も悪いことなんてない。
「お話が終わるまで、何してようか?」
「あの写真集を見たいです」
渡してくれるのは、日本の空の写真集。
夜空も綺麗だし、夕焼けも好きだけど、やっぱり青いのが好き。
だから、最後に見るのも青がいい。
「半年後、私はここに行くの」
私が一番好きな青空の写真を指す。
「ここに行って、においに変えるの」
◇ ◇ ◇
青い世界。
澄んだ空気、湿気のあまりない空気。
周りには誰もいない。今私だけの世界。
ここの場所以外のにおいはない。
人は、自分のにおいは感じ取れないから。
「青のにおいがする」
これが青い世界のにおい。
私の大好きな青い世界。
◇ ◇ ◇
「こんにちは」
「こんにちは、今日も良い天気ですね」
「もう冬ねぇ。来週は雪が降るらしいわよ」
雪。白い世界。
白、か。あまり良いイメージはない。
「冬はあまり好きじゃない?」
「そう、ですね。夏とかの方が好きですね」
夏の方が、青い世界のにおいがするから。
夏は、青い世界を失った季節でもある。
◇ ◇ ◇
雪が降っている。
手を差し出すと、冷たいものが落ちてくる。
冬を越して、夏になったら、一年経つことになる。
外に出てみる。
自分に、雪が落ちてきている。
白い。白いにおいがする。周りが全部白い気がする。
青がいい。
青い世界が。
雪に足をとられて転ぶ。
手を雪の上につく。
近づいてくる人が二人。大丈夫、大丈夫だから。
「大丈夫ですか?これ、どうぞ」
私の手に握らせてくれる優しい人。
ありがとう、とお礼を言う。
立ち上がらせてくれる優しい人。
ありがとう、とお礼を言う。
あんみつのおばさんが、挨拶してくれた。
「こんにちは。良い天気ねぇ」
「……そうですね」
ふと顔をあげる。
青い世界のにおいがした。
あの時の、周囲全てが白い世界ではない。
青い世界も、あった。
「そうですね、良い天気ですね」
「気をつけてね」
「ありがとうございます」
青い世界は失われていなかった。
あまりすっきりしない作品だと思いますが……
ときどき外のにおいをかいでみると、意外といろんなにおいがして面白いかもしれないです。私は、煙草のにおいは嫌いなので、少し反映させてみました。最後まで読んでいただきありがとうございます。精進します。